第28話
露骨である。
高校準備講座の科目と担当講師が発表されると、生徒たちは人気のある講師の講座だけ申し込みに来る。
本来、この講座の意図は、新しい学校生活に慣れ、授業に乗り遅れることの無いようしっかりと準備しておきましょうということ。
だから、講師の人気度で講座をチョイスしてほしくないわけ。
保護者に電話して、この講座の趣旨を説明しようとしても、
「もうすぐ高校生ですから、自分のことは自分で考えるように言ってあります。本人に言ってください」
と、だいたいそんなような返事が来る。
結局、人気順に講座が締め切られ、定員に達していなくても英語と数学だけはやらなくてはならないはめになる。
自慢ではないが、俺の英語は真っ先に定員に達した。もちろん、彩子が一番乗りで申し込んでいた。
あの日以来、俺と彩子は、もう講師と生徒の関係から逸脱していた。
キスをしたことを後悔はしていないし、のたまったことだって後悔していない。
ただ、授業中、とってもとってもやりにくくなってしまったことは、ちょっと後悔している。
だって、ちょくちょく彩子と目が合う度に、彩子は目をトローンとし始めるし、見られてると思うだけで、気が散ってイメトレしたように授業が進んでいかないからだ。
授業が終わると、質問するのを言い訳に彩子が言い寄ってくる。
「先生、ここ教えて?」
「ん? それはねえ、、、」
と、彼女のノートに目を落とすと、
《ドートールで待ってるから》
と、丸まっちぃ字でノートの隅に書いてある。
(やっべぇー、周りにバレる)
「玉城さん、どれがSでどれがV?」
「これがSで、」
「ちゃうちゃう、いいかあ、ノート貸して」
と、言いつつ、
《わかった。6時まで授業だから、6時半で》
と、書いた。
彩子は、またまた、目をウルウルさせて、俺を見つめてくる。
「ここからここまでがS、Vはこれ、あとは?」
「そっかあ、じゃ、ここからここまでがOで、ここからここまでがもう一つのO、あとはm」
「そ、そ、文の要素に分解すればなんだってわかるって、タコに耳が出来るくらい教えてるでしょ?」
「耳にタコね」
もうノリツッコミも、お手のものになってきた。
「あ、そうそう、これは?」と、俺が彼女のノートに、
《好きだよ》
と、書いた。
彩子はポーッとほっぺが桜色になった。
「それは、第一文型!」
「その通り!」
怒涛の準備講座が終わった。小テストの○つけを約200人分やらねば、明日の配布に間に合わない。
しかしながら、彩子と6時半にドートールで待ち合わせしたので、持ち帰って家でやることにした。
「今日は、疲れたので持ち帰りまーす。お先に失礼しまーす」
「お、デートか、デートか? あん?」
「そ、そんなんじゃありませんよ。。。」
「ま、塾長公認だからなあ、がんばれや」
「だ、そんなんじゃ」
と、その講師に振り向くと、講師全員、俺を睨んでいた。
(本当は御法度なんだぞ、わかっているな)
と、みんなの顔にそう書いてあった。
俺は、もう、そういうのに、辟易してきていたので、構わず去った。
ドートールに着くと、彩子が何も注文せずに、その日に出された俺の宿題を、スラスラ解いていた。
「お待たせ」
「丈ちゃん、おつかれさま」
(じ、丈ちゃん???)
「あれ?ちゃんづけしないほうが良かった?」
(意外に嬉しかったりして)
「ぶわかあ、やめろよー、外にねえーのかよー」
「いいじゃん、丈ちゃんで」
「ん、ん、ん、、、んまあ、いいよ」
「ヤッター、丈ちゃん、何にする? 私まだ頼んでないの」
「俺はアイスコーヒー。あ、いいよ、だすから、何にする?」
「あ! ここ、タピオカがあるー! これ、これにするー!」
「ぶわかあ、声がでけえよ、アイスコーヒーとタピオカミルクティ、店内で」
それからのことは、内緒にしておく。
ただ、言えることは、会話はものすごく盛り上がったし、こいつが嫁さんになったら、俺はとっても幸せだろうなって思った。
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