葉月*初めての海と藤臣の独占欲(コメディ風)
ギラギラ太陽がこがした砂浜は足の裏が焼けるかと思うほど熱い
ざざーっと雄大にいったりひいたりを繰り返している波の音と、磯の香りが鼻腔をくすぐる
「や、やはりこれは、ぬ、布が少なくは、ないかっ。」
「大丈夫だよ。可愛いよー。先生も喜んでくれると思うな。」
水着の着衣を手伝ってくれた
「で、でも、ちょっと恥ずかしいの・・・」
「せっかく着たんだから、ちょっとは見てもらったら?」
「いやぁ・・・。」
もじもじと小さな姿のまま、桔梗のワンピースの胸元に隠れたままでいる葵を、桔梗は強引に引き抜いて、
「はい、行っといで。先生待ってるよ。」
「う・・・うえっ、おわわっ・・・。」
宙を転がるようにして投げられた出た葵を、藤臣が両手で受け止めた
藤臣の手が直接肌に当たって、太陽が身を焦がすよりも、熱く燃え上る。
「あ、ふじっ、ふわぁぁ・・・」
恥ずかしさで真っ赤になった顔を両手で覆っている葵を藤臣はにこやかに見守った
「可愛いよ。よく似合ってるし。」
濃い空色の小さなビキニ。
華奢な手足に控えめな胸元、白い肌と濃い空色が映えて、藤臣の手の中で小さくなっている可愛らしい容姿が夏の浜風に吹かれている
藤臣には毎晩のように肌を見られているというのに、白昼、陽の下で、こうも堂々と見られると普段と違う羞恥感がこみあげて、
「もう帰りたい・・・。」
と葵は小さく漏らした
藤臣は
「わたしも海にきたの初めてなんだよ。向こうまで行ってみようか。」
と波打ち際まで歩き出した
水面を照り付けた太陽が反射して宝石のように光っている
どこまでも続いている青の水平線へ、波が寄せては帰る足並みと共に白い筋をひき、それは波とともに水の中へと消えていく
海の水が藤臣の足元を濡らした
「あれ、意外とぬるい。もっと冷たいかと思ってたんだけどな。」
そして少しだけ海水を手に取って舌先につける
「うわっ、すごいっ、ほんとにしょっぱい。ねぇ、葵、どう?」
藤臣が海水に濡れた指先を葵の顔に近づけると、葵は少しだけ藤臣の指に唇をつけて、すぐに顔をゆがめた
「あっ、うわっ、おおおっ、す、すごいな。」
ふたりは顔を見合わせて笑う
「泳いでみようか。」
藤臣の提案に、葵は首を振った
「藤臣は運動がからっきしできないのだから、やめておけ。風呂ほどの水位で溺れるだけで泳ぎの”お”の字も体現できぬのではないか?」
「葵ちゃんてば、ひどい・・・・。」
「わらわは事実を述べただけである。」
藤臣は反論の余地もなく肩を落として砂浜のほうへと引き返した
「なぜそう苦手なものに果敢に向かっていこうとするのだ。馬に乗るのも、
「はい、おっしゃる通りで。」
藤臣は現代で言うところの運動音痴である。
馬に乗ろうとすれば騎乗するところでまずつまづき、蹴鞠に至っては足に球がまともに当たるところを見たことがない
そんな男だ。大海原で泳ぐ?土台無理に決まっている。すぐに救助が飛んでくるかそれとも、浮き輪にぶら下がったまま波の気の向くままに流されていくのがおちであろう
「でもほら、運動のできる人ってかっこいいじゃない。」
「うむ、そうだな。」
「だから、葵にもっと惚れてもらうためにも頑張って男を磨こうかなと。」
葵はやれやれとため息をつく
「もう十分に惚れ込んでおる。それにわらわが好きなのは運動ができる藤臣ではなくて、わらわのためだけに恋の
藤臣からもらった心地よい愛情を、わらわもたくさん返しているつもりであったが
まだ惚れて欲しいとは、お返しが足りぬのかの
「さぁ、浜辺に帰って氷菓子でも食べよう。それに、わらわはこの晴れ着をもう・・・脱ぎたい。」
「えぇー、せっかくの可愛い水着姿なのに、もうちょっと眺めてたいよ。」
藤臣の熱い視線が注がれるたび、恥ずかしくって飛び上がりそうになる
もうすでに泣き出しそうだ
「わらわはそなたらの着せ替え人形ではないぞ。」
「そなたら?”ら”って何?もしかしてこれ、柊哉くんにも見せた?」
さきほどの優しい爽やか笑顔はどこへやら、すでに
「あ、いや、あのぉー、、、。」
藤臣が自分以外の男に葵の肌を見られたり触れられたりするのを嫌がることは重々承知していて
そういう行動のひとつひとつで大事にされているなとひしひしと感じられて、それも藤臣の良さなのだが、このような状況では鬼に金棒というか、般若に青筋である
「こっ、この色ではなくて、白の・・・」
「色は関係ありません!」
「あいや・・・」
しまった。余計に青筋が深くなってしまった。背中に
どうしたものか、せめて般若だけでもどこかへ連れていって欲しいのだが
「だいたいね、こすぷれについてはわたしと一緒でないときは禁止だと言ったたはずだよ?」
「これは、こすぷれではなくて、さぷらいらいである、と柊哉が。海に行くならこれを着たら喜んでくれるはずだよ、と申したゆえ。頑張った次第である。」
少ない布面積に顔から火が出そうになっても、藤臣が喜んでくれるのであればと
他人には見えない小さいほうの姿限定で公開することにしたのだが、喜ばせ方を間違ってしまったかの
「喜んで、くれなかったか?」
「喜んでるよ。可愛いけどね、そうじゃなくて、わたしが言いたいのはそういうことではなくてね、他の人に葵を見られたくないというか、まあ、本当は部屋の中に閉じ込めてわたしだけの葵にしておきたいぐらいなんだけど、いや、それは心のうちだけにしまっておくことにして。とにかく、柊哉くんの特別な収集物に着替えるのは禁止です。」
「はぁい。」
葵はすこししょぼくれた返事を返した
藤臣は深い深いため息をつく。
葵を手の中に収めたまま、ぼうっとした表情で海に向かってゆっくりと歩いてゆく
「葵の水着姿を先に見られた。葵の絹のような肌を柊哉くんに見られた。葵はわたしがはじめて触れて、わたしがずっと葵の一番だったのに、柊哉くんに一番を取られた、柊哉くんに、柊哉くんに、葵のはじめてを・・・」
ぶつぶつとひとりごとを念仏のように唱えながらゆらりゆらりと波打ち際へ
「ふっ、藤臣?どうしたのだ?藤臣?ま、待て、待て待て早まるな。
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