今見えている大昔の光
わらわに愛情を教えてくれたのは
ずっと一緒にいたいと願った
そばにいて、ひっついていたいと思った
触ってほしい、抱きしめてほしい、喜んでほしい
胸がきゅんっと引き締まるような、暖かく包まれるような
感情をなんという
初めて尋ねたとき藤臣は驚いた顔をして、そして陽だまりのように笑って
「わたしも、愛してるよ。」
と言ったのだ
「わたしから言うつもりだったのに、先を越されてしまった」
とばつの悪そうな顔をしていた
甘い日々をほかの誰かと送れというのか
できるはずがないであろう
けれど、自由を失い浮遊感に支配された御身では、抵抗はかなわないと
半ばあきらめかけたときだった
「無理やりは違うんじゃないの。」
「
「月下の者のご意見など、われらには関係ありません。お嬢様をお返しください。」
緋色の着物の女官は目を吊り上げ、柊哉に抗議する
「返してくださいはこっちのセリフだ。葵は俺にとっても大切な人なんだ。こんなぐしゃぐしゃになるまで泣かせないでほしいね。」
「こちらが
緋色の着物の女官は右手を振り上げる
振り上げた手の5本の指からオーロラの光が溢れみるみるうちにたまっていった
やがて手のひらいっぱいまでそれが充填しかたかと思うとやがて柊哉に向かって振り下ろす
「やめろっ」
葵はオーロラの光がこちらへ向かってくるのに反応して左手を払った
葵の左手から赤黒い光りが漏れて大きくなり、オーロラの光と対峙して進む
赤黒い光りは空中でオーロラの光とぶつかり、オーロラを飲み込むんでかぶさり互いの光を霧散させた
後には灰に似た黒いすすだけが秋の風に乗って散っていく
「これ以上柊哉に危害を加えるつもりであれば、わらわはお前たちをも炭にして虚空へ放つが、どうする。」
「月下の憎悪、醜悪を取り込まれそのようなお力を・・・。」
女官はそれぞれ袖口を顔にあて、憐れむ表情を浮かべた
「ここはそなたらがいうほど悪い世ではないぞ。」
葵は柊哉を見上げて同意を求めた
「どう、かな。」
柊哉は乾いた笑いを漏らす
「では代わりに柊哉が行くか?」
「いやいや、それは遠慮しておくよ。相手、王太子様でしょ?俺、受けじゃなくて攻めだし、どちらかといえばだけど。」
「うん?なにがだ。」
「や、なんでもない。」
女官らは葵と柊哉の勢いに根負けし、しぶしぶ己らだけが籠に乗り込み、再び満月へと消えていった
あとに残ったのは何もなかったかのような静寂
ついさっきまで、月に行くんだと覚悟を決めていたのに
確かにここにお別れを告げる気でいたのにも関わらず、またここで過ごせることに喜びを感じでいる
「満月、綺麗だな。」
葵は満点とは全く言えないちらほらの星と大きな月の浮かぶ夜空を眺め独り言のようにつぶやいた
「そうだね。昔と変わらない?」
「いや、星が減った。」
「減ったんじゃなくて見えないだけなんだよ。」
「ふぅん、そうなのか。」
葵はかろうじて可視できる星を見上げながら藤臣と月を見上げていた時のことを思った
星を見上げたまま姿勢で柊哉が言った
「星ってね、何万光年も先で光ってるんだよ、だからね、藤臣さんとみてたときに光った星が今見えてるかもしれないよ。」
「それほど大昔ではないわ。」
藤臣もどこかで同じ月を見てはいないだろうか
もし見ていたら、わらわは嬉しいなぁ
「ごめん、結局引き止めてしまったね。」
「いや、わらわが行かぬと申したのだ。」
他の誰かと婚儀を結ぶより、来ぬ人を想い待っているほうがよっぽど幸せである
「向こうに行ったらこの景色も見れなくなってしまうであろう。」
藤臣とかつて見上げた夜空
今よりももっと星が瞬いていて、月も輝いていたように思う
こうしてまた上を見ているとあの頃を昨日のことのように思いだすことができて、君を想うことができて
わらわは幸せなのだ
ー愛してるよ、葵
「うむ。わらわも愛しておる。」
つぶやきは夜空に溶けて消えていく
届ける相手がいないまま闇の彼方へ
それでも、こちらを選んでよかったと思えるほど藤臣との思い出はわらわの心を照らす月のようである
「葵、冷えるよ。早く中入って。」
「はぁい。」
翌朝、いつかのデジャブのように早朝のドタバタ劇が繰り返されたのは言うまでもない
「柊哉、まだパジャマのままだぞ。」
「ぬあっ。」
髪は跳ね、慌てて着た制服はボタンが半分閉まっていない
これは1000年の恋も冷めそうだな
「早く!葵!遅れる!」
柊哉の自転車は学校へ向かって転がるように跳ねた
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