第6話

 俺は冒険者ギルドの掲示板の前で悩んでいた。

 ガイさんとクエストしてわかったけど、俺ってそれなりに強い。戦闘の仕方が下手だけど。そうなると欲が出るというか、イチイチ一回一回請け負うのが面倒くさい。一気に受けてしまおうか? 倒せなかったら? と考え悩んでいた。


 『なあ、俺とダウだとラビー何体まで大丈夫だと思う?』


 『三〇体ほどなら余裕でしょう』


 『ありがとう』


 俺は三つ請け負う事にした。

 八体で三二〇Tと七体で二八〇T、それと一一体で五二八T。合計で一,一二八T。

 手持ちと合わせれば、二,〇〇〇T超える計算だ。

 ラビーの討伐は二六体だ、三〇体未満だし大丈夫だろう。


 俺は近くの森に向かい、入る前にナイフを用意した。そして入ってすぐにエンカウントした。数は一〇体以上いる。正確な数はわからないけど、二つのクエストが一緒に始まったようだ。


 「ダウを召喚!」


 ダウの姿が現れる。


 「連続になると思うけど、また一緒にお願い!」


 『承知!』


 俺とダウは、ラビーに突っ込んでいった。今回は積極的に戦う事にした。早々死なない事もさっきの戦いでわかったし、練習が必要だともわかった。

 戦闘が終了するとダウはスッと消えた。

 やっぱり都度か。一応回復しておこう。


 「回復魔法!」


 体が光に包まれる。

 さて後一回。俺は奥に進んだ。少し進むとエンカウントした。


 「ダウを召喚!」


 ダウが召喚された。


 「連続で悪いけど、一緒にお願い!」


 『何度でも!』


 また俺達はラビーに突っ込んでいった。さっきより数が少ないので簡単に終了する。


 「ありがとう!」


 消える前に叫んだ。ダウがほほ笑んだように見えた。


 『お疲れ様です』


 『終わったぁ。じゃ、お金貰って武器屋に行こう』


 『はい。参りましょう』


 俺達は冒険者ギルドに寄って報酬を受け取ると、武器屋に刀を買いに行った。

 長刀を二本選ぶと合計が表示される。一,八〇〇T。

 あれ? 安くなってる。割引されるのか!


 俺はそのままOKすると、店員が現れ、刀を持ってレジへ。自分ではレジに持って行けないけど、会計するとレジにてお会計のシーンが搭載されたようだ。こういうのは、テスターではなかった。

 変なところでリアリティーがある。勿論スキップもできるようだ。最初の買い物だし最後まで体験してみる事にした。


 「ご自分用ですか? それともプレゼントでしょうか?」


 「自分用です」


 「では、一,八〇〇Tになります」


 俺はお金を支払った。店員はニッコリと「ありがとうございます」と言って受け取る。プレゼント用と答えると、包装機能もある。お金取られるけど……。


 俺は二本もいっぺんに武器を手に入れた事はなかった。まとめ買いすると安くなる事を知らなかったから得した気分だ。


 『なあ、近くの森で普通にエンカウントしても大丈夫だよな?』


 『はい。刀もございますし、一緒に出ても三体ほどです。問題ありません』


 よし! 近くの森で戦闘の練習をしよう! クエストでもいいが、数が多いと大変だし、イチイチ戻る事を考えれば、普通にエンカウントした方がいいと思ったのだ。


 俺は近くの森に着くと、右手に買ったばかりの長刀を装備する。そして、『伝説の魔王』を外した。

 エンカウントが普通になった俺は、森の中を彷徨う。


 二時の方向にコボルトの姿を発見する。ごめんよ! と思いつつ刀を振るった!

 俺は先ほどのクエストでレベル六なっていた。魔王補正を入れて攻撃力は六〇で、刀を足せば七五だ。余裕で倒す事が出来る。俺的には、戦闘練習なので敵がいればいい。


 『choose one』では、障害物にもリアリティーを持たせているので、武器などを振るうと木にカツンと当たる。ナイフは短かったからいいが、この刀は長い。リーチに慣れる為には実践が一番だ!


 三〇分ほどコボルトと格闘していた。


 「てーい!」


 コボルトが俺の刀で切られ倒れた。だいぶ森の中での戦闘になれてきた。

 うん? コボルトが倒れていたところに何かが落ちている。


 「リンゴ?」


 俺は左手で拾い上げる。


 『戦利品です』


 「おぉ! って三〇分してリンゴ一個かよ!」


 『まさにその通りでございます。経験値もゼロですので』


 「え!」


 『コボルトは、六レベル以上のプレイヤーには、経験値は入りません』


 そうだったのか。まあ入っても一か二だと思っていたから別にいいが。


 討伐クエストでエンカウントするモンスターからは、ドロップは一切ない仕様だ。因みに採取のクエストの時は、通常のエンカウントでドロップ率が上がる、または追加される仕様だ。なので、初のドロップだ。


 リンゴって食べ物なのか? 素材なのか? 俺はふと思い詳細を見てみる。


 ポン。

 《リンゴは、料理の素材です。そのまま食べた時は、満腹度が五%回復します。通常二日で腐ります》


 食べれるみたいだ。取りあえずアイテムボックスに入れておこう。

 さて、次はラビーを狩るかな。ラビーも攻撃が当たれば一撃のはずだ。


 俺は森の奥へ入って行った。


 「だ、誰か……」


 うん? 小さい声だが確かに聞こえた。俺は辺りを見渡す。一〇時の方向で微かに何かが動いた。そっと近づいてみる。


 少女がうずくまっていた!

 黒髪を後ろで一つに束ねていて、紺色の冒険者の服をきている。

 たぶん種族は人間だ。


 「どうした?」


 一応声を掛けてみると、少女は驚いてこっちに振り返った。


 「だ、誰?」


 何か怯えているな?


 「あぁ、俺はキソナって言うけど、もしかしてHP二〇%切ってる?」


 『choose one』では、HP二〇%を切ると攻撃を一番受けていた場所の動きが鈍くなる仕様だ。つまり足に攻撃を受けて二〇%切ると歩けなくなる。因みにこのゲームには、初心者免除みたいな仕様はないので、一レベルでも死亡すればペナルティーが発生し、経験値が減る仕組みだ。まあ一レベルで死亡はまずないだろうけど。


 悪いけど見せてもらうよ。

 ――裏ステータス!



 名前:リナ

 種族:人間

 性別:女性

 年齢:一六歳

 職業:冒険者

 レベル:三

 HP:一一〇

 MP:二〇

 攻撃:二〇

 防御:二〇

 補正:なし

 所得スキル:逃げ足

 取得魔法:なし

 貢献:なし

 二つ名:なし

 経験値:二〇〇

 その他:毒状態



 毒?! なんで? って、なぜHPが満タンにある事になってる?


 『ピピ! 裏だと現在のHPって見れない?』


 『彼女のですか? 見れません』


 「おい! 今HPいくつだ?」


 「……一〇です」


 状況説明を聞くのは後だ!


 「リナに回復魔法!」


 リナの体が光に包まれた。

 多分HPはほぼ全快したはずだ。


 『俺って彼女の表のステータスって見る事出来るか?』


 『魔王の力は裏を見る能力なので、認定書を見せて頂くか、パーティーを組み確認するかの二通りしかございません』


 やはりそうか。


 「あの、ありがとうございました」


 リナは立ち上がり、お辞儀をした。その顔色は悪い。

 これって空腹? っは? 何この子。どうなってるんだ?


 満腹率はゼロ以下にはならず、何かしら食べれば空腹ゼロから回復される。今彼女は空腹になっており、HPが減り続けている事になる。しかも毒にも掛かっている。


 俺はテスターで自分では空腹なった事はなかったが、なった者を見た事がある。今の彼女のように顔が青ざめるようになっていた。


 よくわかんないけど、テスターをしたプレイヤーではなさそうだ。どうして毒にかかったかは謎だが、タード街まで送って行こう。多分敵から攻撃を食らえば死亡する。


 「街まで送って行くからパーティーを組もう。それとこれあげる」


 先ほどゲットしたリンゴだ。どうせ回復五%だし、取りあえず食べれば空腹からは脱出する。


 俺達はパーティーを組んだ。



 名前:リナ

 種族:人間

 性別:女性

 年齢:一六歳

 職業:冒険者

 レベル:三

 HP:九八

 MP:一〇

 攻撃:二〇

 防御:二〇

 補正:なし

 所得スキル:なし

 取得魔法:なし

 貢献:なし

 二つ名:なし

 経験値:二〇〇

 その他:なし



 あれ? 毒が消えている? 俺の回復魔法って、解毒の効果もあったのかよ。魔王補正ってすげぇ。


 「えっと。キソナさんありがとうございます」


 「いえいえ。じゃ行こうか」


 「いた! あそこだ!」


 俺の声と被るように遠くから男の声が聞こえた。聞こえて来た場所に顔を向けると、男二人がこちらに向かってきている。


 ガサガサと聞こえたようだとリナに振り向くと、彼女は男たちと反対側に逃げ出していた! そっちは森の奥だ!


 「おい! 待てって!」


 俺は慌てて、彼女を追いかけた!


 一つ思い出した。今頃気が付いてもだけど、さっきの二〇%切った時のペナルティーはPvPの時のだった!

 って、一体何が起きているんだ!?


 必死に逃げるリナを全速で追いかける為、俺は刀をアイテムボックスにしまった。全速力だと、手を大きく振る為、刀が木に当たる! 走りづらい! もう、こういうところは、リアリティーいらないと思うのは俺だけか?


 しかしおかしい。追いつけない。というか、微妙に離されている。そういえば彼女、『逃げ足』とか言う、裏スキルがあったがあれか!


 俺は、『伝説の魔王』をセットした。彼女との差が縮まってきた。俺のスキルの方が上のようだ。流石魔王の二つ名だ!

 と思っていたら、リナのスピードがガクンと落ちた。彼女のスキルにはやはり時間制限があるみたいだ。というかこれはもう、歩いているな。

 このままだと、あの男たちに追いつかれる!


 「あ!」


 リナは、そう叫んで倒れ込んだ!


 なんだ?


 近づき驚いた。右足にナイフが刺さっていた! 投げナイフ! つまり遠距離攻撃を受けた。


 リナのステータスを見ると、足を損傷とその他に表示されている。つまりもう、動けない。

 PvPには、ただHPを削るだけでなく、リアリティーが追及されていて、切り落としたりは出来ないが、こうやって部分的に負傷にして動けなくする事も出来る。


 くそう! どこにいる! 探していると一人だけ姿を現した。


 「死にたくなかったら、リナを渡しな!」


 茶色い髪に日焼けした肌。そして、冒険者の服ではなく、盗賊の衣装。

 そういう事か。俺はやっと理解した。

 バッと走り出し、俺はその男に近づいた。


 「絶対命令! もう一人の男を足止めしろ!」


 俺は耳元で男に命令した! そうこいつはNPCだ! 勿論リナも!

 いつの間にかイベントが発生していたんだ!

 俺はリナの元に戻ると、足に刺さったナイフを抜く。


 「リナに回復魔法! 逃げるぞ!」


 どうしたら一番正しいのかはわからないが、三分間は時間を稼げる。俺とリナは、その場から逃げ出した。


 「こっち!」


 リナは、俺を案内し森の奥へと進む。するとフッと視界が開けた。木の柵に囲まれた小さな集落が目の前に現れた!


 隠し村? たぶんイベントでしかこれない場所だろう。

 小さな畑があり、石造りの小さな家が五軒。牛と鶏、それに犬。井戸もある。何故かここだけ別世界だ。


 家の中から次々と人が出て来た。

 そのうちの一人、冒険者の服を着た立派な髭を蓄えたご老人に、リナは近づいた。


 「マルさん、このキソナさんに助けてもらいました」


 「何と! リナがお世話になり……ありがとうございます」


 なんとまあ、テンプレ的な展開! これはお願いされそうな予感。


 「さあ、こちらでお休みください」


 「はぁ……」


 マルさんに勧められるまま、俺は彼の家にお邪魔になり、硬い丸太の椅子に座った。


 「お疲れでしょう。さあ、これをお飲みください」


 「ありがとうございます。頂きます」


 俺は、木のコップに入れられた飲み物を一口飲んだ。


 ポン。

 《MPが五回復しました!》


 へ? なんだこの飲み物! 一口でMP回復って!


 「あのこれ……」


 「はい。これは私が煎じた魔法茶です。彼らはこれを狙っているのです」


 あぁやっぱりこういう展開なのか……。このイベント、高レベル向けだと思うんだけど、なぜ発生した? 条件が揃ったって事なんだろうけど……。


 「この土地でしか栽培出来ない貴重な茶葉なのですが、この村で栽培しているのがバレたのです。この村の柵にには結界の効果があって、私達が認めた者しか出入りできません。また、この周りの森にも迷いの術が掛けてあるので、たどり着くのも困難なのです」


 俺は何も聞いていないのに、マルさんは語り始めてしまった。


 「この魔法茶の茶葉を我々は国に納め、そのお金で暮らしています。これを運んでいるのが、冒険者になったリナなのです。この村へ近づけない彼らは、リナを狙っています! そこでお願いがあるのです!」


 お願いが来た!


 「リナの護衛をお願いしたいのです。茶葉を渡し食料を買ってこの村に送り届けてほしいのです! この通りです!」


 さてどうしたものか……。


 『なあ、これ俺が引き受けても大丈夫か?』


 『申し訳ありません。キソナ様。お気づきでしょうがこれはイベントです。制約により余程の事がない限りは、口出しできない事になっております。お許し下さい』


 『わかった。それじゃ仕方ないよな。自分で判断するよ。で、ワープの事なら大丈夫か?』


 『はい。大丈夫でございます』


 ピピは頷き答えた。


 『今回はNPCだけど、他のプレイヤーも一緒にワープって出来るのか?』


 『はい。出来ます。パーティーを組んでいるという条件で、触れている状態であれば可能です』


 『そっか。ありがとう』


 行きは何とかなりそうだ。帰りはここにワープ出来るかどうかだな。


 「わかりました。お引き受けします」


 「ありがとうございます!」


 マルさんは、頭を下げた。

 あ、しまった! 報酬の話をするのを忘れていた!


 『choose one』では、イベントでも交渉が可能で、上手くいけばとんでもない報酬をゲットできたり、大損するような報酬になったりする場合もある。

 だがイベントは、沢山クリアすると二つ名をゲット出来たり、職業やスキル、魔法をゲットできたりするので受ける事に越したことはない。


 俺は無謀かもしれないが、このイベントにチャレンジする事にした。さて、どうなる事か――。

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