第7話
俺はある作戦を立てていた。ワープで何とか乗り切ろうと思った。要はあの盗賊に出会わなければいいのだから……。
「あのマルさん、ここってワープで戻ってこれますか?」
「この村に直接は結界もありますので無理なんです。迷いの森を抜けた所になら可能です」
「そうですか」
やっぱり直接は無理か。でも盗賊から逃げた場所からはそんなにかからずにこれた。ワープで着いた先で見つからなければ大丈夫か?
リナは、茶葉を納めに行く途中で先ほどの奴らに攻撃を受けた。足をかすめたナイフに毒が仕込まれていたらしく、程なくして歩けなくなったらしい。空腹だったのは、ずっと茶葉を納めに行くことが出来なく食べ物を持ち帰られてないからで、つまり食べる物がない。そういうことらしい。
この話からいくと、相手はナイフ使いみたいだ。いきなり遠距離攻撃の相手をする事になった。
テスターの時は、この世界を体験という感じだったので、やさしいイベントが多かった。
レベルも三〇レベルが上限で、到達したとしたらヒカルみたいにレアモンスターを倒しまくるみたいな事をしなければ、期間内には到達できなかっただろう。何せ死亡すればレベルが下がるのだから皆慎重だった。
毒は俺には効かないだろう。だがリナには効果がある。彼女が動けなくなれば俺が動けてもダメだ。モーションで抱っこがあるが、あれは歩きだ。逃げるのには不向き。
やっぱり迷いの森を抜けてすぐにワープ。そして、帰りはその逆がベストだな。
『PvPにも召喚って出来るよな?』
『勿論、出来ます』
ピピの返答に俺は頷いた。もし万が一の時は、ダウにも戦闘に参加してもらおう。
俺達は村を出て迷いの森を抜けると、手を繋ぎタード街にワープした。そして彼女はそのまま城に赴きお金と交換。街で買い物を済ませ、迷いの森の前にワープした。
ここまで上手くいったが、やはりそう問屋が卸さないみたいだな。
追いかけて来た二人の男と新たに一人の男の計三人が、目の前にスッと現れた。
「ふん。ワープした場所にワープしてくるなんて、バカな奴だ。まあ、こっちは探す手間が省けたがな」
どうやら街に向かう時に、ワープしていたのを見られていたようだ。
だが確かに少し違う場所にワープすればよかった。次からはそうしよう!
リナは怯えた様に俺の後ろに隠れた。
多分今、偉そうに語っている新たな男がリーダーなのかもしれない。何となく、二人より強そうだ! さて、覚悟を決めるか!
俺はアイテムボックスから刀を出し右手に装備した。
「ダウを召喚!」
そして勿論、ダウを召喚する。
「ほう召喚師だったか! やれお前達!」
「ダウ! あいつらを一緒にたお……いや、捕らえるのに協力してくれ」
もしかしたら殺すのはまずいかもしれない。捕まえて突き出すのがいい。
ダウは相手が投げて来るナイフを上手く交わすも近づけないでいた。相手が二人だからだ。
俺は一人でも苦戦していた。なんせ遠距離を相手にするのは初めてだ! しかも、リナを守りながら。
やっぱり俺には過ぎたイベントだったかもな。
少しずつ慣れてきて、刀でナイフを弾けるようになったが攻撃も受けている。攻撃を受けると二五%も減る! 回復魔法で回復しながら防戦一方の状態で、魔王補正がなければ、毒を受けずとも一撃で死亡している。
「ぐわぁ」
ダウが相手をしている一人の男が倒れたようだ。急所に多く攻撃を受けて、HPが二〇%以下になれば気絶する。きっと首などに噛みついたんだろう。
気絶はソロの時になると、そのまま死亡を意味する。
「やるな。主人よりできるじゃないか。じゃ、俺も本気だすかな」
リーダーがそういうと、手にブーメランを握った。それは鋭い刃あるようで、当たれば相当ダメージがありそうだ!
やばそうだぞ。おい!
「おらよ!」
軽く投げた様に見えたブーメランは、かなりの速さでダウに放たれた! ダウは避けるもブーメランはダウの体をかすめた!
『キソナ様。ダウは後二回、攻撃を受ければ元の世界に戻ります!』
なに! めちゃ強力な攻撃じゃないか!!
俺達は、たちまちピンチになってしまった!
くそう! これMPが切れたら終わるな。
「ダウに回復魔法!」
……ダウだけじゃきっとダメだ!
「召喚!」
俺は今HPを犠牲にするのは痛いが、背に腹は代えられない。召喚して仲間を呼んだ! ただ、どんな奴が来るかはわからないが……。
魔法陣が消えた後現れたのは、人型の魔族だ!
「なんてひ弱な奴に呼び出された事か……」
俺をちらっと一瞥して発した言葉だ。
おいおい。この状況でそれかよ。
『大丈夫です。召喚者には攻撃は致しません』
されなくとも、戦闘に参加してくれないと意味がない!
ザッ。
ナイフをよけ損ねて攻撃を受けてしまった! まずい!
「回復魔法! 回復魔法!」
俺は続けて回復魔法を唱え回復する。だが、後一回分しかMPがない!
詰んだなこれは……。
ダウは後二回攻撃を受ければいなくなる。呼び出した奴は、協力する意思がなさそうだし。俺はMP切れ……。
やっぱり魔王補正があるからといってもレベル六が受けるイベントじゃないよな……。
俺が覚悟を決めた時だった。
「キソナさん、これを使って下さい」
リナが小瓶を俺に手渡した。もしかしてこれ、魔法茶か? MP回復できる!
「回復魔法!」
俺はMPを使い切ってから、小瓶の中身を一気に飲み干した!
ポン。
《MPが全回復しました!》
「ありがとう。リナさん」
俺がお礼をいうと、リナは頷いた。
とりあえず、召喚した彼に何とか戦闘に参加してもらおう!
「すまないが、あのブーメランを持った男をダウと一緒に気絶させてほしい!」
「この私がこの獣と? 冗談だろう?」
とても嫌そうに返事を返しえて来た。冗談じゃなくて本気だ! っと言ってもやってくれなさそうだな。はぁ……。
「……私一人で十分だ!」
へ? あ、戦う気はあるのか?
「ほう。やってみろよ!」
リーダーは、ブーメランを投げてきた!
って、こっちに向かって! 早すぎる!
俺はよけれそうだが、どければリナに当たる!
たぶん、俺達が一番弱そうだから狙われたんだろうけど……。
俺は刀を体の前で構えた! 出来るかどうかわからないが刀ではじくしかない!
だが、刀に衝撃はこなかった。ダウが俺達を庇ったのだ!
身を挺して攻撃を受けたダウは、その場に倒れた。
戻りはしなかったが、動けなくなった所をみると、HPを二〇%を切ったんだろう。思いっきり攻撃を受けたのでクリティカルになったのかもしれない。
ブーメランは、弧を描き男の所に戻って行く。
今、回復してやる!
「ダウに回復魔法! ダウに回復魔法! ダウ……」
バチッ!
「ぐわー!」
大きな音と同時に叫び声が聞こえ、ダウから音の方を見て驚いた。
リーダーが倒れていた。……え? 一撃?!
俺はあんぐりと口を開けたまま、その情景を見つめていた。彼の言う通り、一人で十分だった!
一体どれだけ強いんだ!
俺は戦闘中だというのに、手をかざし虫眼鏡をタッチした。
ポン。
名前:ジャック
種族:魔族
ランク:魔導士
スキル:以心伝心 反射
その他:攻撃型。魔王にしか扱えない
なんかこいつすごいな。魔王にしかって……。攻撃型でもHPとかは表示ないのか……。
バチッ!
「ぎゃー!」
俺はハッとして、声の主を見た。
忘れていた! 俺と戦闘している男がいたんだった!
命令はしてないが、逃げ出そうとした男にジャックが攻撃を加えたようだ。
「ひ~! い、命だけは!」
「だったらそこで大人しくしていろ!」
男はこくんこくんと首を縦に振った。
「ありがとう。助かった……」
「戦闘中に何をしてるんだか」
う。ごもっともで……
うん? あれ? あの問いがこない!
『なあ、ピピ。ジャックはどうやったら従えられるんだ?』
『メッセージ出ませんでしたか?』
『いまだに出てきてないな……』
ピピは大きなため息をついた。
『ジャックは、魔王に匹敵する程の魔法を使いこなす者で、性格もやや問題がありますので、もしかしたら今のキソナ様には従わないのかもしれません』
マジか! まあ、彼のお蔭で今回はなんとかなったみたいだし。俺が強くなれば問題ないって事だな。
それよりも今は……。
「さて、こいつらどうしたらいいか」
よく考えてみれば、束縛するものを何も持っていなかった! 相手は三人もいる。流石に連行するのは無理だ。
「あの! 私、城に連絡しに行って来ます!」
「いやでも、こいつらの仲間が周りに居たら……」
「彼らは三人組の盗賊なんです!」
三人だけなのかよ。まあ、助かったけど。
「じゃ、お願いします。気を付けてな!」
リナは頷くと城に向けて駆けて行った。
やはりというか五分待たされた。この
三人組のリーダーは、『バツ』という名らしく、『バツ盗賊団』と名乗っていた。マルとバツかよ……。俺は突っ込まずにいられなかった。
バツ盗賊団を引き渡した後、俺はリナと一緒に村に戻り大歓迎を受けた。
×× × ××
「本当にありがとうございました!」
マルさんのお宅でまた、魔法茶を頂いていた。
「お礼なのですが、我々には余分なお金はありません。申し訳ありませんが、その代わりにですがこれを受け取り下さい」
何やらポケットティッシュ程の袋を報酬に貰った。
ポン。
《魔法茶の茶葉が入った袋を手に入れました!》
え! まじ!
「いいんですか? こんな高価なものを頂いて!」
城に卸している品だ。一般には出回っていないだろう。
「はい。勿論です。ですがお願いがあります。それは、売ったりあげたりしないでほしいのです。キソナさんだけで使用して頂き、他言無用でお願いします。その袋に入れておけば茶葉は劣化しません。また良からぬ者がでないとも限りませんので……」
「わかりました。大切に使わせて頂きます!」
流石、高難易度イベントだ!
俺はその後、皆に見送られて意気揚々と村を出た。
そう言えば、これ飲み物だよな? 入れ物買わないといけないか。うん? もしかしてだけど、調合のスキル必要とかないよな? 俺的には、ただ水に入れるだけって思うんだけど……。
『なあ、この報酬の茶葉って、魔法茶にするのに入れ物さえあれば飲める?』
『残念ながら料理のスキルが必要になります』
げ! それって料理のスキル覚えないと宝の持ち腐れって事じゃないか! まあ劣化しないようだからいいけどさ。はぁ……。
そう言えばレベル……上がってない! っていうか経験値すら増えてない!
よく考えれば、誰も倒していないので戦闘では経験値は入っていない。報酬は茶葉のみなので、お金も増えていない。って、これマジで料理スキルを手に入れないと、骨折り損のくたびれ儲けに終わる……。
「なんでこんなイベント発生したんだか……」
俺は愚痴をこぼさずにはいられなかった。
『私もビックリ致しました。まさかリンゴを手に入れた事で、条件が成立してしまうとは!』
「リンゴ?!」
ピピは頷く。
『あのイベントは、パーティーを組んでいない回復魔法保持者で、冒険者以外の職業を取得している者が、空腹度を回復するアイテムを「一つだけ」所持した状態でイベント発生ポイントを訪れると発生致します』
ちょっと待てよ。ソロで活動していて、回復魔法は最初から所持していた。隠しステータスだけど幻覚魔導士を取得している。リンゴはドロップして……。
マジか。幻覚魔導士の魔法なんて一度も使ってない。お飾り職業なのに!
『空腹に気づかずにリンゴを手渡していなければ、バットエンドでした』
自然に始まるイベントはいいのか悪いのか、気づかなければ報酬を貰うまで気づけない時もある。まあそれも『choose one』ならではだけど。
この森は、初心者用だ。他の職業を持った者が立ち寄るのさえ稀だろう。このイベントは、発生率は低いはずだ!
気を付けないといけないな。チートがあることで、本来発生しないイベントが発生してしまうとは。今後も危ない目に遭いそうだ!
『いい教訓になったよ』
『はい。戦闘は大変上達したと思われます』
だよな。死に物狂いだったもんな……。
そう言えば、冒険者にNPCいないと思っていたけど、いるんだな。
俺は街に戻りその日はログアウトした。
疲れたが、満足したプレイだった。
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