第3話

 この『choose one』には、ステータスには表示されないが空腹仕様がある。

 ステータスを見なくともHPとMPそれに満腹指数は数値化され、見える背景の上に表示されている。今、満腹指数は八〇%。


 IN時間合計で三時間何も食べないでいると指数はゼロになりHPが減り始める。ログアウトしている時間は換算されないので、何もしないときはログアウトを推奨している。


 なのでこの世界には、いろんな食べ物がある。自分でも作れるらしいが、スキルがないと出来ない。


 買いだめもいいが、食べ物は劣化する。これはログアウトしても関係ない。テスターの時は、大抵のモノはリアル時間で二日だった。もしかしたら調整が入っているかもしれない。


 長持ちさせる道具やスキルがあるかもしれないが、俺は知らないので都度買って食べる事にする。まあ動く事によって大きく減るという仕様ではないのでまだいいと思う。


 買わないが値段だけども見ておこうと、食べ物屋に入る。色んな食べ物があった。よく見ると、それを入れて置く冷蔵袋というモノもあった。しかも限定品で五〇個。

 虫眼鏡があったのでタッチして詳細を確認してみる。


 ポン。

 《冷蔵袋とは、食材や食べ物を入れておくと長持ちさせられるアイテム。入れている間は、劣化速度が半分になる》


 倍長持ちするようになるらしい。値段は……三,〇〇〇T! 手が出ない。手元にあるお金は、さっきの報酬を含め一二〇T。


 食べ物を見よう。代表でおにぎりの詳細も見てみるか。因みに一個一〇T。


 ポン。

 《おにぎりとは、食べると満腹度が一〇%回復する。具によってHPやMPが回復する場合がある》


 なるほど。具材によって違うのか。ここで売っているのは、シャケ、うめ、おかか。定番だな。値段も一緒だし満腹度しか回復しないだろう。


 やっぱり食堂かな回復するなら。食堂で注文して食べれば回復する。テスターでは、悲しい事にラーメンしかなく、一律五〇%回復だった。

 ファンタジーでラーメンってどうよ? と、思ったのは俺だけじゃないはず! 回復のメインは食堂になるだろう。こっちは五〇%切ったら見に行くことにしよう。

 俺は食べ物屋を後にした。


 さて、武器は一応あるから防具屋に行こうかな。俺的には、武器より防具が大切だ。

 この世界の魔法攻撃は、魔法抵抗がないとそのまま魔法の攻撃力分、HPが減る仕様なのだ。しかも普通はレベルが上がっても魔法防御は増えない。つまり基本装備で補う事になる。


――HPが一〇%を下回れば、魔王補正が解け本来の姿になる!


 ふと俺は、この世界に来た時に出たメッセージを思い出した! って、魔王になる条件ってピンチになった時? いやそれってダブルピンチだろう?

 魔王になった途端、女性の姿になるって事だよな? 本来の姿ってそう言う事だよな?


 出来るだけソロで戦わないとまずいなこれ……。

 万が一に備え、魔法防御付の装備を見ておきたい!!


 防具屋に入ると結構人がいた。その中に先ほど別れた二人もいた。一緒に商品を見てまわっているようだ。

 俺は見つからない様にしながら見て回る事にした。別に見つかっても問題はないがなんとなく……。


 見た目は、普通のリアルの服売り場のような感じにハンガーみたいのに吊るしてある。手に取ると肌触りも実感できる。不思議だ。

 値段を見てみると三,〇〇〇T! あの袋と一緒じゃないか!

 もっと安いのはないのか? ……多分、あの二人がいるところら辺が安いのかもしれない。

 仕方がない出直そう。服は売り切れる事はないだろうから。


 俺は防具屋を出た。先ほどの森と反対側にある町の道からのリリンの森に向かう。敵が現れれば今の俺では倒せないかもしれない。だが、俺にはエンカウント補正がある。いざとなれば、ワープもある。で、そこまでして向かっている訳は、召喚を試す為だ。


 今ならまだ、ここまで来るプレイヤーもいないだろう。こっそり試すのに最適だ。

 取りあえずピンチになる事は避けたい。なので召喚を試す事にした。失敗した時の事を考えて人気のない所でと考えての場所だ。


 そして無事にたどり着いた。一応グルッと周りを確認するも人影はない。勿論モンスターもいないようだ。

 さてやってみるか。


 「召喚!」


 一瞬目の前に魔法陣のようなモノが見え、消えると同時に黒い物体が見える。小鳥ぐらい小さい。

 よく見るとタキシードを着た男かと思ったが、こいつも胸が俺よりある! そして背中にはコウモリの様な羽がありふわふわと浮いている。


 男装妖精!? カ、カワイイじゃないか!

 じゃなくて色々確認しなくては!


 「妖精? なのか?」


 「またまた御冗談を。私は魔族ですよ。魔王様。ピピと申します」


 魔族! 一回目の召喚で呼び出したのか! しかし紳士的な話し方で……。


 ピピに手をかざすと、薄っすらと虫眼鏡マークが表示された。兎に角見てみるべし!

 ポン。


 名前:ピピ

 種族:魔族

 ランク:使い魔

 スキル:以心伝心

 その他:補助型。戦闘には不参加。


 ちょっと待て! 召喚しても戦えない奴を呼び出す事もあるのか? 試してよかった!


 ポン。

 《従えますか?》


 使い魔の様だし。従えるとどんな感じか試すのもありだな。


 俺はYESを選択した。


 ポン。

 《使い魔ピピを従えました》


 『ありがとうございます。魔王様が行動しやすいように力添えさせて致しますので、いつでもご命令を』


 「そう。ありがとう。でも、魔王って呼ぶのはやめてもらおうかな。キソナでいいよ」


 『承知しました。キソナ様。ですが私はキソナ様に直接語りかけておりますので、他の者には聞こえておりません』


 「そうなんだ。ところで、なんでピピは戦えないんだ?」


 ピピは首を傾げる。


 『何故と申されましてもそういう役割とご説明するしかありません。ですが、知識は豊富です。何でもお答え致します』


 なるほど補佐のような役割なのか?

 取りあえず魔王の事を聞いておくか。情報がほしい。


 「実は魔王ってどういうのかわからないんだよ。魔族の頂点としか説明になかったし……」


 『簡単にご説明いたしますと、魔王とはこの世界を束ねる素質がある存在です。ですが、人間などがそれを阻止しようとしており、魔王様に敵対出来る能力を持った勇者を呼び出そうと躍起でございます』


 それって魔王だとバレるとまずいって事なのか? バレると勇者に倒されちゃうって事なのか? どうしたらいいんだ?

 更に疑問が増えた……。


 「あ、あのさ。バレるとまずい?」


 『そうですね。国王の耳に入ると勇者を仕向けられる可能性がありますが、まだ勇者は呼び出されてはいないようです。まず自分から正体を明かさなければ、キソナ様が魔王だとは誰も気づかないでしょう。ご安心下さい』


 安心って……。女だとバレても魔王とバレてもダメだなんて! 自由度が売りじゃなかったのかぁ!!

 俺は心の中で叫んだ!


 「で、勇者に倒されるとどうなるんだ?」


 『はい。勇者に倒された場合は、魔王の力は失われます。因みに勇者がキソナ様に倒された場合は、勇者の力が失われます。ですが、勇者は複数呼び出す事が出来ますので、出来るだけ正体を明かさない方がよろしいかと……』


 ……だよな。同感だ。

 これは、やばいな。魔王の力が失われれば、きっと本来の姿――女性の姿になるはず。女性だと隠すのが大変になる。というか、隠すの無理!


 自分からバラす事はまずないとして、HPが一〇%切って姿をさらす事になるかもしれないから、レベル上げをしなくてはならないな。


 それにしてもピピは使える奴だな。このまま従えておくのもいいかもな。


 「ところでさ、俺って何人まで魔族を従えられるんだ?」


 『何人でもお好きなだけ、従えますとも……』


 そうなのか。さすが魔王だな。しかし、ぞろぞろいても……って、いうか、これで魔王だとバレないか?


 「あのさ、ピピ達がいたら俺が魔王だとバレるんじゃないか?」


 『ご心配なく。私はあなた様の使い魔になった時から他の者からは見えない存在になっております。戦闘系のモノは、従えた後元の世界に戻し、後程召喚する事が可能です。ですが、召喚には体力を消耗致しますゆえ、HPには十分お気を付け下さい』


 そういう風にも出来るのか。やり方次第か。って、もしかして俺は魔族しか召喚出来ないとかなのか?


 だとしたら他の者の前で召喚は控えた方がいいかもな。一応聞いておくか。


 「召喚って魔族しか出来ないのか?」


 『出来ますが、指定して召喚した時のみです。召喚した種族が何なのかは召喚師にしか判別できませんが、人前で召喚なさる時は、人型の魔族を召喚なさる事をお勧め致します』


 なるほど。指定して呼び出す事も出来るのか。でもまあ、バレなきゃ魔族でもいいな。人型か良い事聞いた。

 おっとそうだ。魔法防御の事を聞いておくか。


 「あのさ。魔王には魔法防御ってある? あ、攻撃魔法な」


 『はい。ございます。ですが、キソナ様のレベルと連携しておりますので、レベルがあがらないと補正されません。また裏に表示されます』


 そうだったのか! ちょっと見てみるかな。



 ステータス―裏―


 名前:キソナ

 種族:人間(魔族:魔王)

 性別:男性(女性)

 年齢:二二歳(不明)

 職業:冒険者(幻覚魔導士:LV一)

 レベル:二

 HP:一〇五(五二五)

 MP:一五(七五)

 攻撃:一五(+五)

 防御:一五(+五)(魔法防御+五)

 補正:なし(エンカウント-)(スピード+)(攻撃・物理防御・魔法防御+)

 所得スキル:なし(魔王の威厳:LV一)

 所得魔法:回復魔法 ワープ 召喚 (幻覚)

 貢献:なし

 二つ名:なし(+伝説の魔王)

 経験値:六〇

 その他:なし(無限アイテムボックス 隠れステータス保持者)



 いやこれ魔法防御だけじゃなくて、全体的に少し補正ついているな。魔王ってすげぇ。あ、そう言えばエンカウント消せるんだろうか?


 「あのさエンカウント補正って一時的に消せる?」


 『はい。伝説の魔王を外せば可能です』


 あ、これって装着してる事になってるのか? そう言えばまだ詳細確認していなかったな。


 ポン。

 《伝説の魔王とは、魔王のまたの名の呼び名。これを装着する事によってエンカウントを-補正しスピードを+補正する》


 二つともこの二つ名の影響だったのか。


 俺は試しに伝説の魔王を解除してみると、文字の前にあった『+』が消え、エンカウントとスピード補正も消えた。

 取りあえず、レベル上げ以外の時は装備しておこう。


 「他になんか、気を付ける事ってあるか?」


 『はい。ございます。PvPですが、キソナ様は勇者以外の者に倒されたとしてもペナルティーを受けません。それ故に、倒された時に相手に知られる恐れがございます』


 この世界では、キャラが死亡した場合は経験値が減るペナルティがある。つまりレベルが下がる。そしてこの世界にはPKという概念はない。公式でもPvPと表示されている。

 PvPでは、負けたキャラの失った経験値が相手に加算される仕組みだ。レベルの高い相手を倒せば、もしかしたらモンスターを倒すよりレベルが上がりやすいかもしれない。


 なんでもOKの世界なので、拒否設定はない。ただし街などでは死亡してもペナルティーはないので街中では安心だ。


 因みにクエスト以外のモンスターも経験値を得て強くなっていく仕様で、ある程度強くなるとレアモンスターに変化する。

 これを利用しヒカルは、テスターでモンスターを落とし穴に落とし、プレイヤーをそこに誘い出して落として死亡させていた。そしてレアになったモンスターを倒して、沢山の経験値とレアアイテムをゲットしていたのだ。


 罠にかかったプレイヤーは、レベルが下がるし、騙された事により疑心暗鬼になったりした。

 もしかしたら、またやるかもしれない。まあある程度強くならないと出来ないだろうけど。


 「あ、そうだ。俺、実は女でバレたらダメなんだ。だからそれも隠さなくてはいけないんだけど……」


 『承知しております』


 そうピピは言って頷いた。


 知っているんだ。まあ、魔王だとわかったぐらいだから女性だと言うのは知っているだろうとは思ったけど……。説明はいらなさそうだな。


 「さて、戻るか」


 『はい。その前に一つご提案がございます。私に話掛ける時は、以心伝心をお使い下さい』


 「以心伝心? 俺にはそういうスキルないみたいだけど?」


 『はい。ですが、私は持ち合わせておりますので、心で話しかける様にして頂ければ可能です』


 「ありがとう。そうするよ」


 心でか――。


 『どうだ?』


 『はい。とてもお上手でございます』


 上手って……。まあいいか。

 ピピは、他の人に見えない様だし、声に出すと独り言を呟く人になるもんな。


 『あ、俺、ワープで帰ろうと思うけど、そうしたらピピはどうなる?』


 『はい。キソナ様に触れていれば、ご一緒にワープが可能です。離れてしまっても私の方は、キソナ様の居場所を把握できます。また、私の方からは話しかける事が出来ますが、キソナ様はある程度離れると、まだ無理かと思われます。いかがなさいますか?』


 『えーと、じゃ一緒に戻ろう』


 『承知致しました。では、失礼します』


 ピトッとピピは、左手首に捕まった。


 執事が様になっていると思ったけど、こういう所は可愛いよな。


 「ではワープ!」


 一瞬目の前が揺らいだと思ったらタード街の風景になった。ワープは無事成功したようだ。


 『なぁ。ワープ先って好きに選べるのか?』


 『はい。訪れた事のある場所か、私がいる場所になら可能です』


 『ありがとう』


 ピピがいる場所に移動も出来るのか。これは使えそうだ。

 指定しないと街にワープするみたいだな。


 後は本当にピピが見えてないかどうかだよな。信じていない訳じゃないけど不安だ。


 俺が歩き始めると、ピピもフワフワと着いて来る。別に誰も振り向かない。

 まあ、元々小さいから目立たないし大丈夫そうだな。

 俺は安心して防具屋に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る