第2話
俺は取りあえずレベルを上げる事にした。どうせならクエストをこなそうと冒険者ギルド内にある掲示板に向かう。
掲示板はなんとデジタルだ! テスターの時は驚いた。これファンタジーじゃないなと。まあ便利なんだけどな。
依頼内容と最大レベルが表示されている。最大レベルを超えるプレイヤーは、そのクエストを受ける事が出来ない。つまりパーティを組んで挑んだとして、一人だけ凄い強い人がいて楽々クリアっというワケにはいかないようになっている。
ピッ。
俺はよさげなクエストにタッチして、詳しい内容を確認する。
場所は近くの森でコボルト六体の討伐。最大レベルは五レベル。
推奨レベルは三レベル。――これは、一人で挑むには到達していた方がいいレベルだ。
パーティ可。最大三人。報酬六〇
Tは、この世界のお金の単位だ。どの国も共通だと聞いている。テスターの時はこの国しか体験出来なかったら定かではないが。
予約者『ヒカル』――テスターで見かけた名前だ。
人を嵌めて酷い事をしていた奴だな。そう言えば俺も一度ひどい目に遭ったな。
「それ一緒にやる?」
嫌な思い出を思い返していると声を掛けられ振り向く。そこにはエルフがいた。俺より頭一つ分ほど背が高く、緑の髪で横髪が尖った耳にかかるぐらい長く、軽くウェーブがかかっている。冒険者の服の色は髪より濃い緑。
「私がヒカル」
切れ長の目が細められ、にっこりと微笑む。
こ、こいつ背だけじゃなく、胸もでか!
じゃなかった……お断りします……。また酷い目に遭うのはごめんだ!
「あぁ。えーと、悪い……」
「あ、私もいい?」
断ろうとしたら、横から声が掛かった。振り向くと女性が立っていた。女性というか、十代の女の子だ。おかっぱの赤い髪に小さな角が二本。紫の冒険者の服を着ている。鬼人だ。
「私はいいよ。名前は?」
「ルミ。宜しくお願いします」
ルミさんは、軽く頭を下げるとニッコリ微笑んだ。
いや俺、受けるって言ってないけど……。
「で、君名前は?」
ヒカルが俺に問いかけて来た。さて、どうするか。……まあ、始まったばかりだし、何も出来ないか。
「キソナ……」
「じゃ、二人共受けちゃって!」
「はーい」
ルミさんは、元気よく返事をする。俺は、受けるをタッチしてクエストを請け負った。そして、三人でパーティーを組んだ。
パーティーを組むと組んだ相手の表ステータスが見れるようになる。
名前:ヒカル
種族:エルフ
性別:女性
年齢:見た目二〇代
職業:冒険者
レベル:一
HP:九〇
MP:三〇
攻撃:五
防御:五
補正:なし
所得スキル:なし
取得魔法:青魔法
貢献:なし
二つ名:なし
経験値:〇
その他:なし
名前:ルミ
種族:鬼人
性別:女性
年齢:見た目一〇代
職業:冒険者
レベル:一
HP:一一〇
MP:五
攻撃:一〇+五
防御:五
補正:攻撃+
所得スキル:怪力
取得魔法:なし
貢献:なし
二つ名:なし
経験値:〇
その他:なし
なんだこの二人の推定年齢は。そういえば、テスターでは人間しか選べなかったからなぁ。長生きする種族という事なんだろうけど。ふふふ。俺には奥の手がある! まあ何の事もない。裏を見るだけだけど。
魔王補正で見れるようになったはず……。
――裏ステータス!
名前:ヒカル
種族:エルフ
性別:女性
年齢:二〇歳
職業:冒険者
レベル:一
HP:九〇
MP:三〇+六〇
攻撃:五
防御:五
補正:MP+
所得スキル:リンク ツル縛り
取得魔法:青魔法
貢献:なし
二つ名:なし
経験値:〇
その他:なし
名前:ルミ
種族:鬼人
性別:女性
年齢:三三歳
職業:冒険者
レベル:一
HP:一一〇
MP:五
攻撃:一〇+五
防御:五
補正:攻撃+
所得スキル:怪力 まやかし
取得魔法:なし
貢献:なし
二つ名:なし
経験値:〇
その他:なし
よし! 上手くいった! 凄いな!
色々知りたい単語があるけど虫眼鏡マークがない。他人のはそこまで調べられないらしい。もしかしたらそういうスキルも存在するかもしれないが、俺にはこれ以上見れないようだ。
それにしてもこの年齢ってリアルの年齢なのか? 裏見れちゃったら個人情報ちらっと見れちゃうのか? ……ルミさん、三三歳って主婦だったのか。結構キャピキャピしていたのに……。
逆にヒカルは、二十歳か。
「じゃ行こうか!」
「はーい!」
「あぁ。宜しく」
ヒカルがリーダシップをとって進んでいく。歩く事五分。勿論リアルより移動スピードは速い。あっという間に森に到着だ。
「いた!」
ルミさんがコボルトを発見し叫ぶと、ヒカルがシッと唇の前に右手人差し指を立てる。
コボルトは一〇〇センチ程の背丈で犬の様なカワイイ顔をしたモンスターだ。二足で歩いている。俺は目がクリッとしているカワイイモノが好きだから何となく抵抗がある。
この世界のモンスターは、グロくない仕様らしい。テスターで見かけたモンスターは、大抵動物をモチーフにしたモンスターだった。
カワイイのは見かけだけだから、油断したらやられるんだけどな。
「いい? 私がコボルトの動きを封じるから二人で攻撃して」
ヒカルが作戦を言うと、俺とルミさんが了解と頷き、それを見たヒカルも頷いた。
ヒカルは前に手を出すと、六体のコボルトは動きを止めた。よく見ると足にツルが巻き付いている。
ツル縛りか? まあいい。ナイフでサクッと攻撃だ!
俺はナイフを装備した。
『choose one』の世界では、武器は戦う時に装備すればいい。つまり戦闘時に手に持てばよく、見栄えの為に剣を腰に下げてもいいが、経験上歩くのに何となく邪魔だ。
勿論防具もそうしても構わないが、相手の先制攻撃を受けた時の事を考えれば、防具は常時装備が一般的だ。それに着用するのにも時間がかかるしな。
コボルトは動けずにその場でジタバタしている。それを後ろからザクッと! なんとも卑怯な気もするがそれが戦闘である。なんて格好つけてみたりして。
二人で六体を倒した。パーティーを組んでいる時は、誰が倒してもレベルに応じて経験値が入るようになっている。つまり回復系もレベルが上がりやすい仕様だ。
全員経験値が六〇入り、揃ってレベルUPした。
「ありがとう。二人共。お蔭でレベルUPした」
「相手が動かないから倒しやすかったね」
「あぁ。そうだな」
まあ何はともあれ、無事クリアだ。後はそれぞれ掲示板に行って、受けたクエストの報酬を取りにいけばいい。それはいつでも受け取れるようになっている。逆に言えば、取りにいかないともらえない。
「じゃ、戻ろうか?」
「はーい!」
行きと違って二人は会話しながらまったり進んでいる。
「ねぇ。さっきのどうやったの? ツルみたいの見えたけど」
「あれは、エルフなら出来るやつなの」
平然と答えているが、裏ステータスのスキルだ。エルフ特有なスキルだろうが、誰でもというワケでもないだろう。
「へえ、すご~い」
「そう? 私としてはキソナのHPとMP表示が気になるな。なんで%表示なの?」
「あ、そうだね?」
呼び捨てかよ。まあいいけど。
「さあ? 俺もわかんない」
「ふうん。まあいいか。それよりさ、メル友にならない?」
普通のゲームならフレンドと呼ぶ事が多いが、ここではメル友という名称だ。メル友になれば、INの有無とレベルがわかる。後は、ショートメールを送っておける。相手がINしていなくてもメッセージを残しておけるのだ。
まあいいか。誰とメル友かはわからないし。それに、監視しやすくなるし。
俺は避けるより監視する事にした。
「はーい。する!」
「俺もいいぜ」
俺達は、メル友になった。
その後三人とも報酬をもらって、パーティーを解散した。
報酬は三人で分け合う事になるので、二〇Tだ。
初クエストは無事こなす事が出来た。
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