第一章 使い魔ピピとの出会い
第1話
ざわざわと周りの声が聞こえ初め、風景が目の前に広がった。そこは、タイル国のタード街の風景だった。テスターの時に最初に降り立つ街で、今回は四か所の国にスタート地点が用意されているらしいが、テスターの時と一緒だった。
ちょっと残念だな。
前と変わらない白い石畳の道に、白い石造りの建物。そして、緑が豊富で白と緑のコントラストが綺麗だ。
ポン。
《全てに魔王補正がかかりました!》
そう目の前にメッセージが表示される。
なんだよ魔王補正って……。
疑問に思いメッセージが消える前に虫眼鏡をタッチ。
ポン。
《人間の男性に見える様に、魔王の力で姿を変えています。アイテムボックスが無限になりました。詠唱なしで魔法が使えます。魔法の威力がUPしました。HPとMPが五倍になりました。HPとMP回復速度が五倍になりました。相手の裏ステータスを見る事が出来るようになりました。(隠しステータスは、魔王の姿になった時に見れます)注意:HPの残りが一〇%を切ると、本来の姿に戻ります》
おぉ! よかったチート満載だ!
うん? 男性に見える様に姿を変えている?
『choose one』は、一人称視点だ。自分の目で見ている様に見える。
俺は自分の体を見てみた。肌色は白いが透き通るほどではなく、服装は黒い冒険者の服だ。頭を触ってみると、髪が肩より短い。摘まんで髪色を見てみると、真っ黒だ!
はぁ? 選んだ外見はどうなった?
そうだ! 顔はどうなってる?
辺りを見渡すと、遠くに噴水が見える。そちらに向かって走った。本当は鏡で確認をしたいが、そんな物そこら辺に設置されていない。
水面に映し出される自分の顔を見る。
多分瞳は黒だ。そしてパッチリと大きい。顔つきは、設定と変わってないようだ。
まあ髪が短いし男に見えるか。
胸を触ると少し盛り上がりがある。体はそのままのようだが、小ぶりのせいかあるように見えない。
よし! もう男性キャラだと割り切ろう!
これで女性だとバレると怯えなくていいじゃないか! ――あの魔王の姿も捨てがたいが、これで自由に動けるんだ!
俺はそう自分に言い聞かせ、辺りを見渡した。
キャラの上に名前が表示されているキャラとそうじゃないキャラが入り混じっている。
キャラ名は街中だけ表示されるが、非表示に設定できる機能がある。それを使うのには一度でもイベントをこなさなくてはならない。
プレイヤーは、国のお抱え召喚師が勇者を召喚しようとして失敗した者達という設定だ。冒険者として過ごすように言われ、少しのお金と冒険者認定書の書類を渡される。それをこの街で提出し認定書を手に入れる。これが最初のイベントだ。
俺はどうやらテスターだった為、街に来るところは端折られているみたいだ。アイテムボックスを確認すると書類がある。後は冒険者ギルドに行って認定書に変えるだけだ。
ギルドは直ぐに見つかった。大きくギルドと看板に書かれた建物だ。武器屋などに行く前に通る道にあるので見逃す事はまずない。
中に入ると思ったより沢山の人がいた。かなりの順番待ちだ。普通のゲームだと待つって事はないんだろうが、さすがVRといったところか。
でも待っている間暇だな。色々設定の確認でもしておくかな。
そういう事でステータスを見てみる事にした。
ステータス―表―
名前:キソナ
種族:人間
性別:男性
年齢:二二歳
職業:なし
レベル:一
HP:一〇〇%
MP:一〇〇%
攻撃:一〇
防御:一〇
補正:なし
所得スキル:なし
取得魔法:回復魔法 ワープ
貢献:なし
二つ名:なし
経験値:〇
その他:なし
ステータス―裏―
名前:キソナ
種族:人間(魔族:魔王)
性別:男性(女性)
年齢:二二歳(不明)
職業:なし(幻覚魔導士:LV一)
レベル:一
HP:一〇〇(五〇〇)
MP:一〇(五〇)
攻撃:一〇
防御:一〇
補正:なし(エンカウント-)(スピード+)
所得スキル:なし(魔王の威厳:LV一)
所得魔法:回復魔法 ワープ 召喚 (幻覚)
貢献:なし
二つ名:なし(+伝説の魔王)
経験値:〇
その他:なし(無限アイテムボックス 隠れステータス保持者)
表ステータスっていうのが、今現在の俺か? 裏が本来の姿? 違うか?
多分カッコの中が隠れステータス機能で隠れている部分なんだろう。魔王に由来するステータスは隠れステータスで隠れているみたいだ。
という事は、裏は別に魔王のステータスではないって事だよな?
おい! 魔王なんだよな? 俺、魔王なんだよな!
これどう見ても強くないんだけど! いや、普通のプレイヤーからしたら強いだろうけど、魔王の強さじゃないよな!
魔王になるのには何か条件が必要なのか? それまでは普通のプレイヤーとして過ごせと?
仕方がない……魔王だった事は忘れよう! そうだ魔王補正チートだと思えばいい!
よし、気を取り直して見ていこう。
うん? 表はHPとMPが%の表示? これも魔王補正なのか? 表の方はこれぐらいか?
では裏の方は、取りあえず虫眼鏡がある一番上から詳細を見て行くか。まずは魔王。
ポン。
《魔王は、魔族の頂点で世界に一人しか存在しません。いろんな魔法、スキルが扱えます。勇者特有の魔法とスキル、攻撃魔法以外は、ほぼレジストできます。また魔族を従える事が出来ます》
なるほど。確かに王だから一人しか存在しないのか。俺だけか! しかも無敵に近い! って魔王のステータスだったらな!
そう思うもついニヤリとしてしまう。どうせなら名乗りたい。自慢したい!
やっぱり魔王の力を手に入れる方法を探そう!
よし次は、幻覚魔導士だな。キャラ作成の時に見たけど一応。
ポン。
《幻覚魔導士は、魔族が扱える職業です。この職業は裏ステータスになり、隠れステータスで隠れます。またレベルが上がると普通の魔法も覚えます》
おぉ、少し説明が増えてる。でもたしか職業自体のレベルってそのスキルや魔法を使わないと上がらなかったのではなかったか。うーん。幻覚を使えって事か……。どんな時に使えばいいって言うんだ。これは後で色々試してみよう。
次は補正か……。
ポン。
《職業やスキルよって補正が掛かった時に表示されます》
まんまだな。まあ今回のエンカウントとスピードは、敵に遭わずにスムーズに移動できるって事なんだろうけど……。レベル上げに向かない補正だな。解除できないのかこれ? 後でこれも試さないとな。
次は魔王の威厳か。
レベルが付いているって事は、このスキル自体が強くなるって事か。どれどれ。
ポン。
《魔王の威厳は、魔王のみが使えるスキルでレベルが上がる事により出来る事が増えていきます。LV一:絶対命令(NPCのみ)――最高三分間、相手を操る事が出来る》
微妙だな? 使いどころがわからん。まあNPCにしか使えないけど三分で切れるみたいだからかけまくってレベルUPさせて、次の能力を手に入れるのがいいな。
って、魔王の姿じゃなくてもこういうのは使えるのか……。
回復魔法は解説はいいか。ワープは見ておくかな。
ポン。
《ワープは、使う場所を問わず指定した場所に瞬間移動できます。消費MPは五です。魔王補正でクール時間はありません》
本来は続けて使用出来ないものだったのか。まあ、続けて使用する事など滅多にないと思うけど。
消費は五か。確か五が最低だったな。補正が入れば減るだろうけど。
それじゃ次と。
ポン。
《召喚は、HPを代償として使用します。一回最大値の五%を消費します。魔王の場合は種族が魔族だった場合、従える事が出来ます》
確認してから決定すればよかったか? HPを消費するのかよ。しかも%で。固定じゃないところがやらしい。
今現在は五〇〇だから二五の消費か。確か、一分で一回復だったよな。座って回復だと三回復。魔王補正があるから立っていても一分で五回復だから五分で全回復するな。
後で試してみるかな。
次は幻覚だな。
ポン。
《幻覚は、相手に幻を見せる事が出来ます。自分のレベルが相手より上だとかかりやすくなります。範囲魔法で最大半径五メートル内に効果があります。MPを一〇消費します》
これプレイヤーに掛けるのか? 何と言うか、悪人用の魔法だな。さっきの威厳もそうだけど。……魔王だからか? 俺に使いこなせそうもないな。
はぁ。思ったよりイマイチ使えるチートがない。自分のレベルを上げて強くなる方が手っ取り早そうだ。
おっと、最後に二つ名の伝説の魔王を見ておかなくては……。
「次の方、どうぞ。……次の方!」
俺の目の前には、人がいなかった。俺か!
慌てて書類を係り男性の人に手渡す。
危ない。つい夢中になっていた。
「では、青い扉にどうぞ」
俺は言われるままに赤と青がある扉のうち、青の扉に入った。そこには一人の男性が鋭い視線を送って来る。
思い出した!
これ俺達を呼び出した召喚師が、召喚した俺達を嵌める為に仕掛けたワナだ。確か、城を出る時にナイフを盗んだとかで、この男がナイフを隠し持っていて、こっそり取り出して罪を吹っ掛けようとするんだったな。
えっと対処法は、国の刻印が偽物だと暴けば……。いや待てよ。確か全身くまなくボティチェックされるんじゃなかったか? つまり胸も一応触られる……。
おいおい! 小さくても胸あるのばれじゃないか! 女だとばれる! まずい。ここで拒否すれば捕まるんだった!
ど、どうしたらいいんだ! これもう運営は俺を排除しようとしてないか?!
……あ、そうだ! あれ使えないか試すか!
「絶対命令!」
俺が叫ぶと、近づいてきていた男の歩みが止まった。
魔王の威厳LV一の絶対命令を使用してみた。
効いてるみたい? 取りあえず語りかけてみるか。
「名前は?」
「アルー」
おぉ、効いている! って喜んでいる場合じゃない! 三分しかないんだ。
「では、アルーさん。俺のボディーチェックは終了し、予定通りナイフを取り出すも偽物だと指摘され、俺の物だとナイフを返し元に戻る」
アルーは徐に懐からナイフを取り出し、俺に手渡した。
マジか! NPCが思いのままなのか!
俺は顔がにやけるのが自分でわかった。
結構使えるなこれ。
「いいか。今回は見逃してやる! 証明書を受け取って立ち去るがいい!」
ハッと我に返ったアルーは、決まり台詞を言って扉を指差した。
「うんじゃ、そういう事で」
俺は何事もなかったかのように扉から部屋の外にでた。
助かったぁ! 魔王の威厳あってよかった! チートバンザイ!
ナイフは報酬なのだろう。最初の武器としてゲットできるのだ。
いやぁ何もしないで女だとバレてthe endかと思った。イベントには気を付けないといけないな。運営の策略にもな……。
その後俺は、無事冒険者認定書を手にした。これがこれから、自分を証明する物になる。不思議な事にこれには、表ステータスが表示されている。
さてとここからが、本格的な冒険の始まりだ!
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