第9話 人工湖畔 Ⅰ

上海の人工湖畔の畔に中国式の屋寝付きテラスがある、三角の屋根の上に金色のボールが刺さっていて、四角形の角にも半分の大きさの金色のボールが刺さっている。This is China といったような建物だ、人工湖畔の水は緑色に藻が張っているし、中央の四つ頭の噴水も緑色の水を吐き出していた。

 そう、そんなところで私は彼女と会った。

 Oは父親の部下というか、なんというか、エリートではあったのだろう、"人として"の問題を置いておけば。

彼女と初め出会ったのは、父親の会社の会議室だった、新宿にあるビルの。

私は当時、父親の伝でバイトをしていた。私の通っていた学舎はバイト禁止だったのだけれど、実際のところ大抵の学生は地元でバイトをしていた。

私はバイトをする必要は金銭的にはなかったのだが、学生時分、要するに"ガキ"というのは、周りに流される、自分の囲む環境が世界のすべてだと思っているし、はみ出すのは恐怖に思えるものだ。時がたち食うために働くように成ってからは、無理に若い頃、働くのは馬鹿馬鹿しく思える、アルバイトから学べるものなんて、人間の汚い部分を早めに知れるということぐらい、そして社会人として働くことから学べるものは、正直、(ジョークをこの場では書きたいが)何もない。

それで、当時、唯一学校公認の稼ぎ方というのは"家業の手伝いによる口座を使用しない収入"

であった、要するに"おこずかい"だ。別にまわりとおなじ様に、コンビニなり用心棒なりすればよかったのだけれど、当時の私は教師に良いイメージを持たせて、就職先なり最高学府、何かを紹介、推薦して貰うのが目標であった。当時はJAZZや小説、演劇にはまっていて、勉強などしたくなかったのだ。

馬鹿だったと今は後悔しているが、私は学校公認の出稼者になることができた。

教師の言葉を今でも覚えている。

「君は本当に偉い、俺の息子なんて、髪を金色に染めやがって何がしたいんだか」

先生、今の私には息子さんの気持ちよくわかりますよ、そしてあなた方は、もっと慣用になるべきでした。

 しかし、アルバイトをすることに付随して酒と煙草を覚えた。同じ職場にいた派遣のAさんが、私の事を学生でなく、フリーターにでも思ったらしく、

「酒も煙草も、まだですね」

と言った私に

「いい歳して、お酒童貞、何て情けないよ」と、小バカと言うか、情けない目で私を見てきたので私も自棄になり、彼女に付き合うようになった、あらかじめ、年齢を言っておけば良かったのだろうが、それも詰まらなく感じたのだ。

お陰で酒童貞でない方の童貞も彼女で消失した。

彼女は特に綺麗でもないが、髪が長くて、それをポーニーテイルに何時もしていた、仕事中は眼鏡をかけていたが、プライベートではコンタクトレンズにしていた。そうすることで彼女の膨らんだ頬がチャーミングに強調された。そして、足を組んで煙草を燻らせる姿が、何ともセクシーで幼い私を興奮させた。

彼女のヘアゴムを後ろから外し、髪をたくしあげて、隠れていた耳を触るのは、当時の私には幸福な前技だった。

彼女に私の歳を教えたのは、北千住の小綺麗なホテルのベットの上だった、驚くべき事に半年近く私は真実をいわなかったのだ。

私は特に考えもなく、彼女に告げた、レバノンに行ったことのある友人の話の延長線上で。

「別れた方がいい」彼女はそう言った。私は何も返事をしなかった。そして、ランプの下に置いてあった、赤いタバコの箱を手に取った。

「若いのにタバコなんて、やめた方がいいわ」

それについても、私は何も言い返さなかった。

私達は駅で"永遠のお別れ"をした、私はそのバイトをやめ、学校的には違法の、というか社会的にも違法な"とある運動"を手助けすることで、少ない収入を得るようになった、一ヶ月で辞めたけれどね、そこからは無職になった。

Aと最後に別れるときに、私は一言尋ねた

「本当に何も知らなかった?」

彼女は未だに何も答えてはくれない。

彼女は私に多くの物を残してくれた、きっと客観的に見ればそう言った言葉が相応しいけれど、私が正直に彼女が残してくれた物を思い浮かべると"煙草"

だけになる。

未だに煙草は止められないし、セーブも出来ない。

酒の量は歳と共に減っていっている気もするが。


 それで、そんな最中、私はOと出会った。

 

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