少年期〜炎の誓い
炎が美しいと感じたのは初めてだ。
燃えるような赤に、溶け込む橙色。
熱によって周囲の空気を歪ませて、また黒煙を空へと巻き上げる。
風に乗って周囲を巻き込んではその規模を拡大する。
その様は力強く森を侵食していくのとは違い、どこか弱々しく儚げだ。
美しく恐ろしい……。
目の前の大木は炎を巻き上げて周囲を明るく照らす。
風向きに恵まれてか、そこまで息苦しさを感じない。
それをジッと見ていた。
横にミシェイルの気配がある。
俺の体に触れてマナを送り込んできているのがわかる。
先程は分からなかったが、今は炎に照らされて顔色が良くわかる。
ミシェイルの顔色は悪い。
自分の治療もほどほどに俺の治療をしようとしているからか…。
それともマナの使い過ぎか…両方だろう。
「ミシェイル様、マナの使い過ぎです…俺は大丈夫ですから少し休みましょう!」
「やめろレオリス、私の分も1人で戦ったお前に褒美を与えることが出来ない…だからせめて傷の治療くらいさせろ!」
理由を付けて振り払おうとすると俺をまっすぐ見つめて異を唱える。
正直痛みはあるし治療を受けたい気持ちはある。
だがそれよりもミシェイルの状態が良くないのがわかるから素直にそれを受け入れることは出来ない。
「…わかりました、はじめに自分の治療を終わらせてください…その後なら治療を受けます!」
「しかし…」
「ミシェイル様!」
すぐに認めないミシェイル。
気持ちは有難いんだけど…。
「わかった…」
そう言ってミシェイルは自分の治療を木の陰に座って始めた。
俺も体力的にも立っているのがやっとだったので隣に腰を下ろした。
自分の治療をするミシェイルの横顔を見つめる。
何度見ても前世の妹に似ている。
まぁ、ミシェイルはそんな日本人っぽくなく、顔の作りがヨーロッパっぽいけど…。
アヤもハーフでもないのにハーフに間違われるくらいだったしな。
顔立ちだけではなく、雰囲気や表情も……。
自分の傷を治療するミシェイルは、マナの使い過ぎで、睡魔に襲われたのだろう。
カクカクとし始めたと思えば、すぐに意識を手放した。
俺の肩に寄りかかってくる。
正直少し痛みがあるが、そんな事を気にしない、我慢だ!根性だ!
…前も思ったが、やはり寝顔が1番似ている。
燃える炎に照らされながら空を見上げた。
黒煙の中から時折見せる月明かり。
炎が森を焼く音。
思えば転生してから濃密な人生だ。
記憶のある…自我のある状態で過ごす赤ん坊とはなかなか変な体験だ。
1日のほとんどをただ寝てるだけだったけど…。
それからはずっとなにかしていたな。
ミリターナやミトレアに教わったり、クリスに剣を教わったり…。
ドレイクは最後まであまり接点がなかったが見守ってくれていたのだろう。
ドレイクにも剣を教わりたかったな……。
王都に来て色々あり過ぎた。
グレイズ王子殿下と出会い、レイスと出会い、そしてミシェイルと出会った。
あ、アルフリードも!
黒竜に襲われて、魔物が王都に押し寄せてきた。
地下の秘密通路で脱出する。
そこにはゴブリンがいて…俺は戦う事になった。
初めて命を奪うという感覚を知った。
必死だったからなのか、ゴブリンだからか余り思った事も少ないが…。
脱出してからもジュラテッカに襲われて、ソードウルフに追われて逸れるし怪我するしで……。
それにしても5歳というのは思っていたより動けるが、思っていたより大変だ。
力はないし体力はない。
魔法は思っていたのと少し違うし…。
しかしすごい訓練したつもりなのに、あんまり剣術が活躍していない。
剣士としてあんまり活躍していないな俺……。
子供だから仕方ないけど、ちょっとは活躍するタイミングもどっちかっていうと魔法が……。
今回も魔法だし?
帰ったら剣術を鍛えなそう。
ドレイクやクリスの期待に応えられるように!
魔法も色々調べて試したい事も多い。
単純な力だけどその分工夫も出来る筈だ。
やらなきゃいけない事がやりたい事の今は、最高のモチベーションかも知れないな。
強くなる。
この世界は危険だ。
だからこそ力が必要なんだと、この一件でよく分かった。
「…ちち…うえ…」
ミシェイルの小さな寝言が森が燃える音に紛れて聞こえた。
不安だよな……。
無事だといいな……。
俺にはその不安をどうにかしてあげられない。
きっとミシェイルも父を助ける力を願うんだろうな…。
俺も同じ立場ならそう願うし…。
ミシェイルの頭に手を置く。
この子の力になってあげたい。
悲しむ事が無い事を祈ろう。
やっぱり強くならなきゃな…後悔しないように…。
将来は強くなって大切な人達を守れるように…。
強くなる…。
そう誓おう…。この血とアストラルの名に…。
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