少年期〜決着
頭がフラつく…。
頭上の木々の景色が回転する。
背中や腰が痛い。
俺はまだ5歳なんだけどな…。
腰痛なんて笑えない…。
左腕は見事に折れている。
側から見ても変な曲がり方してるし分かるだろうな。
このまま寝てたい…一瞬そんな甘えが浮かぶが同時に浮かんだ景色に感情も上書きされた。
ミシェイルが…妹が蜥蜴(ジュラテッカ)に食べられる景色。
腕から脳に伝わる痛みの信号を怒りが遮断する。
感覚こそ曖昧だが痛みは感じない。
右腕を軸にして立ち上がる。
右腕に触れていた地面に紋様が移っている。
そこからは赤い光を放つマナを感じた。
蜥蜴は脇腹を貫いている剣をどうにかしたいのかわからないが、苦しんでいるように見える。
剣からは赤い紋様が蜥蜴の体に移っていた。
「…これ以上好き勝手させない!」
変わらず視界はフラつく。
頭から血が出ているのも分かる。
それでもあのイメージ通りになってはいけないのだと…。
力一杯踏み込んだ。
その一歩はミシェイルを助ける為に出た想定外の速さの一歩だった。
苦しむ蜥蜴の頭に右腕で殴る!
「ボンバーアームズ!」
右腕から頭に向かって紋様が移っている。
すぐに噛み付いてくる蜥蜴からすぐに離れる。
着地してすぐに近付いた。
蜥蜴の頭に、腕に、足に、体に、尻尾に…右腕の拳で殴りつける。
殴る腕が痛い…だが隙があれば…可能な限り殴りつける。
気が付けば蜥蜴は赤い紋様を纏う気持ち悪い姿になっていた。
同時に赤い光を帯びたマナが舞う。
体に刺さる剣のせいか蜥蜴は周囲をチョロチョロと移動する俺についてこれていない。
ボンバーアームズは爆発するのではなく。
爆発を仕込む魔法なのではないか…。
それも衝撃を受けると爆発する。
ただ殴った時に爆発したし、剣を突き刺したら爆発しなかったりとよくわからない条件はあるが…。
だが俺の予想が当たっているのならば…これで決着が付く。
蜥蜴の脇腹に刺さる剣を引き抜く!
後ろにフラつく蜥蜴から距離を取らずに剣を地面に突き刺す。
ずっとコイツは俺たちを付け狙っていた。
ミシェイルを狙い、アルフリードを狙い、レイスを狙った。
蜥蜴は臓腑を脇腹からチラつかせながらもしぶとくこちらに襲い掛かる。
「吹き飛べ蜥蜴野郎…!」
右腕から赤い紋様は消えてマナを掌に集めた。
マナが目に見えて掌から放出される。
そのマナは掌のような形に光を放った。
その衝撃で蜥蜴は後方に吹っ飛ぶ。
同時にマナが、紋様が光を帯びて爆発した。
爆音が地面を揺らし、爆風が草葉を吹き飛ばす。
爆炎を纏って吹き飛ぶ蜥蜴はぶつかった大木をへし折ってさらには火を宿し、周囲を明るく照らし出す。
「…はぁ…はぁ…さっき…はぁ…魔法…」
確かに唱えずともインパクトアームズを発動出来た。
思い返せば今までも意識していないだけで出来ているタイミングがあったのかもしれない。
唱えなければいけないというのは俺の……。
火の中から異様なシルエットが視界に入る。
「ははっ…マジかよ…しつこ過ぎんだろ……」
変な笑いが出た。
さっきとは形がおかしい。
体は部分部分を爆発によってえぐり取られている。
頭部も半分が吹き飛んでいる。
生物として立ち上がっているだけでも不思議な損傷だ。
俺はというと恐らくマナ切れ…。
握力がなくての痙攣が止まらない。
怒りや闘争心で突き動かしていた体には痛みが戻り激痛を訴えてくる。
「あー、倒れててくれよ…ホントに…」
体にはさらに無理を要求する。
だがその要求には応答はない。
「じっとしろ」
「ミシェイル様?」
「ヒーリング!」
ふとミシェイルがこちらに走ってきた。
俺の腕に触れるとそこから痛みが引き始める。
「魔法…もしかしてと思ってましたが…やっぱり助けてくれたのはミシェイル様だったんですね」
怪我が治っていたことやアルフリード達と合流出来ていないこと、そう考えるとミシェイルが右腕の傷を治療してくれた事には容易に行き着く。
「それくらいしか…出来なかった……」
「いえ、お陰で2人とも生き残れました!ミシェイル様のお陰ですよ」
何か申し訳なさそうなミシェイルの言葉。
なぜ謝るのが理解できた。
多分彼女はもっと力が欲しかったのだ。
自分の無力を嘆いたのだ。
俺を治療して、蜥蜴を追い払えるくらいの力があれば、もう一度俺が怪我をして治療する事も無かったと…。
正直それは傲慢だ。
俺だってそんな気持ちはある。
だがそんなの不可能だ。
俺たちはまだ子供だ…俺はある意味怪しいけど……。
少なくともミシェイルがそんな抱え込む必要なんてないのだ。
無理なことは無理だとアルフリードやクリス、リドルフ達大人に押し付ければいい。
やれることをやればいいのだ。
彼女は俺を治療して、俺が彼女を守って蜥蜴を追い払う。
これがやれることをやるという事だ。
「だが……」
「あなたを守るのが俺の役目ですから…その役目奪わないでください!」
俺はまだ痛む体に鞭打ち立ち上がる。
握力の弱い右腕で剣を握って、治療魔法を受けたとはいえ修復されていない左腕で剣を支える。
剣を引きずって火の中からフラフラと出て来る肉塊に近付いていく。
近付けばわかる。
もう虫の息だ。
だが油断はいけない、魔物はしっかり息の根を止めるのだ。
蜥蜴は俺に手を伸ばすように前のめりに倒れ込む。
しかしそのまま地面を這いずって俺に近付いてきた。
今まで殺しあった魔物だが、どこか命を奪うという事に感じるものがあった。
何を今更…と自分でも思うが…何故かそう感じた。
だがそれは悪い感覚ではない事に気付いた。
「……安らかに…」
剣を両手で持ち上げる。
頭に向かって刃を突き立てて体重を乗せて突き下ろした。
寂しいような気がした。
だが心地の良い高揚感が後を追ってくる。
これが勝利か!
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