少年期〜爆発する怒り
〜ミシェイル視点〜
私は疲労や緊張の影響で意識を手放してから、それほど時間を空けず目を覚ましたと思った。
私はレオリスの胸に寄りかかるように眠っていた。
何か恥ずかしくなったがそれどころではないのだ。
外に気配がある。
ひどい血の匂いだ。
ここは大木に空いた穴の中。
何かの魔物の寝床かもしれない。
だが、魔物の寝床ということはそれなりに隠密性を持つ筈だ。
だが、それでも完全に見つからないなんてことは無いだろう。
私は身を潜めながら外を確認する。
そこには居た。
見知った魔物がいたのだ。
傷だらけの蜥蜴(ジュラテッカ)か地面の匂いを嗅いでいた。
その姿を見て確信した。
私達を追いかけているのだと…。
はじめに狙いをつけた私、なのか。
幾度のなく奴の邪魔をしたレオリスなのかわからないが……。
臭いで追っているということは私達の場所はいずれ見つかるだろう。
そうなるとこの場所では何一つ出来ずに殺される…。
「レオリス!起きろ!…逃げないと…レオリス!」
私はレオリスの肩を掴んで必死に揺らした。
だがレオリスに反応はない。
ぐっすりと眠ってしまっている。
こんな時に…と思う所はあったが仕方ない事だと理解はあった。
私は同じ子供でもレオリスやレイスより出来る事は少ない。
レイスならうまく知恵を絞りこの難を乗り越えるのか?
レオリスなら勇気を出して蜥蜴に向かっていくのか?
私に出来ることは………。
「すまない…借りるぞ…」
私の選択は決まった。
私はレオリスの剣を持って外に出た。
剣を鞘から抜いて、その場から出来る限り遠くに行くように走る。
剣が自分の予想していたより重くて少し引き摺るが仕方ない。
すぐに蜥蜴は気付いた。
明らかに手負いだ。
本来なら見つかってから、一瞬にして捕まってしまっているだろう。
向こうのほうが圧倒的に速いことには変わりないが、逃げれている…。
はじめて握った剣は思っていた以上に重い。
そんなものを持って走る。
あまり運動をしていたわけではないので、そんなに早くないだろう、体力もない。
蜥蜴は目前に迫ってきていた。
蜥蜴が前のめりに飛びつきながら鋭い爪を持つ腕を振るう。
私は横に飛び込んで回避しようとするが背中を切られたのがわかった。
「んぁぁぁ…」
痛い!
身がビリビリする。
衣服ごと切られた事で、傷が空気に…微かな風に触れるだけで電気が走るように痛みが脳をかけめぐる。
だがそれでも立ち上がって走る。
少しでも遠くに…。
少しでも時間を稼ぐ事が出来ればクリスが、レオリスを見つけるかもしれない。
もしかしたらレオリスが目を覚まして逃げるかもしれない。
私は助からないかも知れないけれど…。
レオリスが助かる確率を上げる為に…。
暗い森を走る。
しかし蜥蜴は目前に迫っていた。
咄嗟に剣で反撃しようと全力で振り抜くが、蜥蜴の爪で止められてしまった。
そして剣を弾き飛ばされてしまう。
「…はぁ…はぁ…くそッ、くそッ!」
私はその場で尻餅をついた。
父は無事だろうか?
クリス達は?
レイスは?
レオリスは助かるだろうか?
私はここで死ぬのか?
自然と涙が溢れ出てきた。
舌をチョロチョロと出しながら寄ってくる蜥蜴。
すでに獲物を捕らえたという確信があるのだろう。
その通りだ。
剣は弾き飛ばされてしまった。
今思えば剣を持って来るべきではなかったのかも知れない。
レオリスは剣を大事そうに磨いていたからな…。
怒られるかも知れないな…。
父が私が死んだことを知れば、クリス達は怒られるのか…わからないな…。
死にたく…ないな……。
隙をついて立ち上がって、蜥蜴の脇を抜けて逃げようとした。
腕を掻い潜った時は行けると思ったが、尻尾で叩きつけられて、私は少し宙を舞ってから地面を無様に転がった。
全身に痛みを感じる。
だが痛みより目の前の蜥蜴への恐怖か、体が震える。
「嫌…だ……死にたく…ない」
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!
蜥蜴が少しだけ笑った気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目が覚めたら木に空いた穴の中だった。
薄ぼんやりとした頭で周囲を見渡す。
森の中だが、さらに暗い気がする。
多分時刻は夜なのだろう。
夜の森は前世でも危険だと言われていたし、この世界なら尚更危険だろう。
そんな事を考えているとふと最後の記憶が頭を過る。
あー…俺は確かあの蜥蜴に……。
そして逸れて……。
「あれっ?」
俺は腕を見た。
傷が無くなっている。
体の痛みも顔の腫れも…。
魔法で治療されたのだ。
クリス達が見つけてくれたのか?
それにしては周りに人の気配が無い。
木の穴の中から出ようとした時に見覚えのある鞘が入口に転がっていた。
すぐにその鞘が自分の剣のものだと理解した。
もちろんすぐさま中身を探す。
だが、見当たらない。
鞘があった場所から暗くてしっかり視認出来ないが、何か細いものが引き摺られた跡がある。
最後の記憶……ミシェイルの顔が頭に浮かび上がる。
剣の鞘と引き摺られた跡……。
そして決定的な何かの足跡と、僅かな血痕…。
寒気がした。
嫌な予感…そのビジョンが鮮明に脳裏を走る。
俺は引き摺られた跡や、足跡を追いかける。
夜の闇に包まれた森の中。
必要以上に静かに感じる広大な緑の空間で、木々の隙間から僅かに射し込む月明りを頼りに、ミシェイルを追い掛ける。
夜に慣れてきている目は集中してよく見れば、足跡を認識できるぐらいである。
手遅れでは意味がない!
なるべく早く痕跡を追い掛ける。
何かが落ちる物音が聞こえた。
迷わなかった。
もしかしたら全く関係のない魔物かも知れない。
でもそんなのは関係なかった。
関係ない魔物だったら逃げればいい!
想像している最低最悪な状況でなければそれで…!
草を掻き分けて必死に進む。
見えた。
そこにはボロボロになって横たわる黒髪の少女…ミシェイルがいた。
そしてそれに迫る見覚えのある大きな蜥蜴。
何となく妙な記憶が頭に蘇る。
それはミシェイルが似ていたからか、同じくボロボロだったからかわからない。
爆発しそうな怒りが込み上げてきた。
何に対する怒りなのかよくわからない。
だが怒りをぶつける相手が目の前いるのだ。
同時に自分の中からマナが溢れ出してくるのがわかる。
そのマナが言葉を伝えてくれる。
「ボンバーアームズ」
赤い紋様と赤いマナが腕の周りを舞っている。
不思議と使い方のイメージが出てきた。
草陰から勢いのまま飛び出す。
その勢いは自分の予想を遥かに上回っていた。
本来ならこの蜥蜴には余裕で反応されるだろう。
だが、奴は手負いだったこと、捕食する瞬間であったからか油断していた。
「しつこいんだよ…このっ…ストーカーがぁぁぁ!!!」
俺は勢いのままに拳を振り抜いた。
拳は蜥蜴の頭に接触した瞬間に爆発した。
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