少年期〜癒しの魔法

 

 現状かなりヤバイ。

 本格的にヤバイのだ。

 どれくらいヤバイのかと聞かれるととりあえずマジヤバイ。

 どっかのリアクション芸人ではない。








 迷子が確定した俺たちは、穴の空いた大木を発見し、そこで休んでいる。



 というか俺の顔色が良くないらしい。

 変な汗が出て来ているのもわかるし、さっきまであんなに痛かったのに、今は痛みが鈍い。

 その代わりに腕の感覚が弱い。

 痛覚というよりは、腕そのものが麻痺して来たのだろう。





「…すまない…私のせいでみんなとはぐれてしまった……」


 近くにミシェイルの気配がある。

 多分謝られてるのかな?



「大丈夫ですよ……」




 目一杯笑顔を作ってみてるが、出来ているのだろうか?





 正直意識が朦朧としてきた。

 腕の感覚も曖昧だし…。


 体が重い…。



 ミシェイルがまだ何か言っている気がする。


















 意識が途絶えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 〜ミシェイル視点〜



「大丈夫ですよ……」


 レオリスはこちらに顔を向けて、柔らかにそう答えたが、向いている方向に違和感もあった。



「レオリス!しっかりしろレオリス!」



 顔色はどんどん血の気が引いて蒼白くなっていく。


 腕からの出血は止まらず、そのまま地面に赤い血液が滴っている。



「寝るなっ!」





 レオリスの頬を叩く。

 しかし反応は無い。

 本気でマズイのだと理解した。






 思えば私はずっと足手纏いだ。





 父と一緒に居たいというワガママは許されず、剣聖に連れられて地下へ進んだ。


 私もバカではないからわかっていた。

 だが信じる事にした。




 そこから地下でも地上に上がってからも私は無力な足手纏いだ。



 私はまだ子供だから仕方ないと思えばよかったのかもしれない。



 ただ一緒にいる子供達は私が自分は子供だからと言って逃げる心を締め付けた。



 レイスは軽口ではあるものの、子供らしからぬ頭脳や知識で、同行者のアルフリードや剣聖のクリスですらその言葉に耳を傾けて意見を聞く。


 森では種族柄ではあるが方角がわかるからと、その役目を受けて、あの蜥蜴の襲撃の時は自から剣聖に救援を求める為に動いた。


 それにレイスは私と同じ王族だ。


 その事実が私の中に残る。




 もう1人の子どもレオリスは私たち同じ人間であるが、彼もレイス程ではないが賢く知識も豊富だ。

 何より剣聖の一族と言えども、ゴブリンにしろ、蜥蜴にしろ襲い掛かってくる魔物に、子供ながら立ち向かう勇気があるのだ。

 魔法と剣を駆使して小さな体をボロボロにしながら私やレイスを守ろうとする。




 そんな2人は私より私より一つ年下なのだ。




 私だけが浮いている…。

 私だけが足手纏いだ。


 嫌だ。




 私もみんなと一緒にこの森を抜けて、父と再会する。



 なのに私のせいで逸れてしまい、逸れてしまったせいで、レオリスは死んでしまうかもしれない。






 私のせいだ。

 私のせいで…。








 レオリスの目の前で正座する。

 膝に置く拳が…いや手が震えているのがわかる。


 目尻から温かいものが込み上げて…流れ落ちるのがわかる。




 ずっと不安だった。

 ずっと心配だった。

 ずっと不満だった。




 怖くても我慢した。

 恐ろしくても我慢した。



 泣いてはいけない。

 何の役にも立たない私が泣いてはいけない。

 レオリスにも、レイスにも、これ以上迷惑をかけない為に、せめて泣かず気丈に振る舞おうと…。






 しかし後悔から溢れたものは歯止めが効かなかった。





 ボロボロと涙が溢れて自分の手に落ちる。

 この場に相応しくないボロボロのドレスは今は血や泥で汚れている。




 手もドロドロだ。

 涙が流れた箇所だけが汚れを少し落としていく。






 私がもう少し賢ければ逸れずにレオリスは助かったかもしれない。

 私がもう少し強ければ、レオリスが怪我をする前に助けれたかもしれない。




 溢れてくる後悔の念と涙…。










 涙で視界が歪む中、弱々しく座るレオリスを見つめる。




 私の手元から光を感じた。





 私は視線を下に落とすと、自分の涙が光を放っているのがわかる。

 それがマナである事も理解できる。



 マナは光を灯して一つの形になる。



 その文字は私の知らない形の文字をしていた。

 でも私はその文字の読み方を知っていた。

 その言葉の意味を知っていた。



 嬉しかった。



 その言葉は今私が1番欲していた言葉であり力だった。




 これでレオリスを救うことができる。

 これでみんなの力になれる。




 そっとレオリスの腕を手に取って魔法を唱えた。





「ヒーリング」







 マナは私の手からレオリスの体に流れ込んでいく。

 その私の意思に従い、右腕の傷を内部から癒していく。




 傷が塞がれば血が止まる。

 レオリスにマナを送り込んでいるとわかったことがあった。



 まずはレオリスの脇腹にも手を当てる。



 その後は腫れ上がってしまっている顔に触れる。


 ゆっくりと顔に生気が戻ってきている気がする。

 マナを流し込みながら私は安堵する。

 同時に言い知れぬ倦怠感が襲い掛かってくるのがわかった。


 外を覗けばもう暗くなっていた?


 いつからかわからないがかなり時間が経っていた。




 それでも怪我しているレオリスの怪我の加減の判断がイマイチわからないので、魔法を止めなかった。






 それが良くない判断だったのか。



 私は意識を手放してしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る