少年期〜負の連鎖

 

 いい事と悪い事は同時…もしくはそんなに時間をおかずにやってくる。

 いい事が立て続けに起きたら、悪い事が立て続けに起こる。



 もし運というモノを数値化する事が出来るなら最終的にプラスマイナス0になるとかなんだとか…。


 そんな事を前世では語り合ったりした事もある。





 まさにいい事と悪い事が同時にやってきたのだ。



 クリスの合流はどう考えてもいい事だ!

 しかし同時に引き連れてきた狼の(ソードウルフ)共は頂けない。

 そもそもクリスに事情を…あ、そういえばレイスとも打ち合わせしてないや……。






 そうだ!それよりレイスはどうしてあの状態なのか……。



 なんかどんどん状況が悪くなる一方な気がするぞ?

 神様、本当にプラスマイナス0になるようにしてくれるんだろうな?











「君はいつも絶妙なタイミングだね」



 クリスの登場にアルフリードも何か思う所があるようだったが、そんな余裕を持っていられる場合ではない。



 俺も剣を杖のようにして立ち上がる。










 辺りを見渡した。



 狼が約10数体に、蜥蜴1体。


 狼は減らないのか?増えてるのか?とりあえず数が凄い事だけは確かだ。






 こっちは少し疲労の色が見えるクリス。

 明らかに顔色の悪いアルフリード。

 瀕死くさいレイスに、怪我人俺。

 ほぼ非戦闘員の2人。



 プラスマイナス今のところマイナスに振り幅が大きい。




 何がいい事と悪い事だ…あれ?






 何かが結構な速さで走ってきた。

 そして飛び出して来たと思いきや、狼の喉にかぶりついて息の根を止めた。



 森の熊さんならぬ燃える熊さんである。



 悪い事とは連鎖するのが世の常ですね。

 そろそろビンゴしたりする?








「…アルフ…走れる?」



 クリスも瞬時に判断した。



「走らないわけにいかないからね……」


「リドルフはレイス君とアルフを!レオも走れる?」



 今は熊さんの登場で少し硬直している。

 ついでに蜥蜴は姿を消した。

 奴は負傷してるし逃げたものだと思いたい。





「大丈夫です!ミシェイル様は俺が!」


「私も1人で走れる!」




 正直ミシェイルが1人は不安だが仕方ない。



 アルフリードは走るので精一杯。

 リドルフはレイスを抱えて、荷物もある。

 クリスが遊撃しないと恐らく全滅しかねない。



 俺がミシェイルを援護するしかない!



 何度目の逃亡か分からない…。

 けれど逃げるしかないのだ。





 俺たちは再度走り始める。




 俺も時折激しい痛みを感じるが、他に比べればマシなものだ!


 ミシェイルの少し後ろを走る。


 その方がフォローし易いだろうと思ってだが…!





 ミシェイルはというと、思っていたよりは走れている。

 多分運動神経がいいのだろう。

 軽やかなものだが、体力的にもすぐにボロが出るだろう。






 アルフリードを先頭に、リドルフ、そして俺の順で進む。




 狼どもの動きは早く、クリスが対応しなければ一瞬で追いつかれる。





 そうやって周りを見ていたら理解した。

 もう3度目になるか?

 アイツはしつこいようだ。



 今回は初回や、さっきに比べてもわかりやすかった。



 恐らくダメージが大きいから少し動きが雑なのだろう。




 俺は走る足を止める。

 重心の乗った足に力を込めて、思いっきり逆方向に向かって…そう走っている後方に向かって踏み込んだ。


 姿勢を低くして剣を突き出した。




 手応えがあった。



「イギャンン」


 奇妙な鳴き声と共に姿を現わす蜥蜴。

 もちろん片腕?前足?は無い。



 姿を現した蜥蜴の足に俺の剣が突き刺さっている。


 蜥蜴が全身を捻ってその剣から足を抜くが、その分傷を広げたのか、横に転がるように倒れた。





 今こそチャンスと思ったが、敏捷性が違った。

 蜥蜴は俺の右腕に噛み付いて来た。



「ウガァァッッ…このっ!」



 咄嗟に腕を曲げたが、俺の肘から腕の半分以上に噛み付かれている。

 歯が肉に食い込むのがわかる。

 同時に脳まで登ってくる激痛。




 ちょっと待って、こういう時って引っ張るより押すんだっけ?



 何故か少し冷静な自分の存在も感じるが、痛みに上書きされる。






「はぁぁっ!」



 ミシェイルが護身用に持っていた短剣を蜥蜴の背中に突き刺した。


 蜥蜴は俺の腕から口を離して、転がるようにもがき苦しんでいる。





「助かりました…ミシェイル様…」





 噛みちぎられると思ったからな。


 歯が肉を抉り、真っ赤な血液がそこからドクドクと溢れてくる。

 良く見れば骨?なのか白いナニかが見えなくも無い。




 だが、終わってはいない。

 痛みを歯を食いしばって耐えて立ち上がる。



「こっちだ!」




 ミシェイルが俺の腕を取って引っ張るように走る。




 蜥蜴は相変わらず姿が見えない。



 奴は背中にも足にも新たに傷が増える結果になったが、生物の生命力とは非常にしぶといものだ。



 俺たちを執拗に追いかけるかどうかは置いておいて、まだ生きているのは間違いないだろう。










 しばらく走ってから気付いてしまった。


 傷の痛みやお互い魔物から逃げるので精一杯だったからだろう。






 俺たちが最後尾を走っていた事。

 俺が蜥蜴の気配に反応して応戦し、ミシェイルがその助けに戻った時点で決まっていた。


 狼や熊を引き剥がす為に遊撃するクリスとは運悪く会うことはなかったというべきか…。




 迷子が確定した。



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