少年期〜研ぎ澄まされた感覚

 

 蜥蜴を挟むように俺たちは立つ。





 今蜥蜴(ジュラテッカ)は姿が見える。

 いつでも消えておけるわけではない無いのだろう。



 俺は蜥蜴と遭遇した数少ない状況を必死に思い出す。




 一度目はミシェイルが発見したが、そのまま消えた。

 場所は川を挟んだ草叢だったか?いや、岩もゴロゴロしてた。



 そして反撃した時に姿が見えた。




 二度目は樹上から降ってきた。


 アルフリードを攻撃して姿が見えて、すぐに草陰に隠れた。



 そしてまた透明になってからレイスに襲い掛かった。



 逃げ足が速いので見失いがちだが…この蜥蜴は消えるには条件があるんだ。


 まだ仮説の域を出やしないが…。



 だとしたら…!!




「援護お願いします!」




 俺はそう叫びながら蜥蜴に斬りかかった!

 修行を思い出しながら…。


 俺にはまだまだ大きい剣を両手で持って、しっかり踏み込みと共に重心の位置を確認しつつ剣を振るう!




 決して大降りにならないように、だが軽い一撃にならないように意識を集中させる。






 この蜥蜴の動きは俺より遥かに速いのだ。

 気を抜けば勿論、隙を見せたら一瞬にして殺される。







「ッ!!シールドライト!」




「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




 勿論どれだけ気を払っても未熟な俺には隙がある!そこらアルフリードがなんとか魔法で守ってくている。




 リドルフは俺が斬り込む意図が掴めていないからだろうが、不安げな顔をしている。

 いや、ただただ心配してくれているだけの可能性もあるか。






 アルフリードも傷の応急処置を済ませると、剣と盾を持って蜥蜴の背後から襲い掛かる。






 蜥蜴は敏感にそれを察知して一気に飛び跳ねて距離を置く。




「逃がさない!」



 俺は更に足に力を込めて地面を蹴る。

 退く蜥蜴に向かって距離を詰める。




 蜥蜴が体を捻るのがわかった。



 何となくだが、予感がした。

 何か当たれば死にかねない状況に五感は勿論敏感になる第六感。

 俺は第六感を信じて姿勢を限界まで低く下ろして、滑り込む。




 蜥蜴は捻りを利用してそのまま腰を回し、本来人の姿をしている者にはない尻尾を振り回す攻撃を向ける。







 姿勢を低く滑り込む俺の、顔の真上を通過する。


 同時に地面を叩くように押して、飛び起きながら蜥蜴の腰から剣を両手でアッパー気味に全力でスイングした。






「レオリス…君は……」



 何か声が聞こえた気がするがそれどころではない。




 見事に剣は蜥蜴の腰に食い込み、剣の刃から血が滴るが、まだ終わらない。




 俺の筋力では剣で両断なんて不可能なのだ。

 だがやりようはある。

 イメージは出来ていた。



 剣の刃に右手を当てる。



「インパクッ!」



 俺は蜥蜴が振り払った腕が直撃し、魔法を唱える前に吹き飛ばされた。





 地面に落ちてもその勢いは止まらずにそのまま転がり続けて木に激突する。




 全身が痛いし、顔の感覚が乏しい。

 頭部から流血しているのだろうが、視界が赤い。



 だが剣を手放していなかった。



 別に意識していたわけではないが、左手は剣を担って、殴られた拍子に蜥蜴の体から離れてここまで俺について来た…愛やつじゃ…。


 そんな事言ってる場合ではなかった。



 蜥蜴は激昂していた。

 目がさっきと違って血走っている。

 俺に追撃を与えてトドメを刺そうとしているのだろうが、間に既にはアルフリードが立って斬りかかっていた。





「レオリス様!!」

「レオリス!生きているか?」




 おいおい勝手に殺すなよ。

 妹と似てるからって怒っちゃうぞ?そんな元気があればね?




「ゴホッゴホッゲホッ…はい、大丈夫です」




 顔が腫れてるのが見なくてもわかる。

 多分体の骨もどっか折れてるかヒビくらいは入ってるだろう。



 でもまだ立てる。





 アルフリードも肩を負傷して戦っている。

 剣を振る手が重そうだ。

 更に顔色も良くない。





 ただ戦っている中で俺の仮説は確信に変わりつつある。



 奴は恐らくジッとその場に止まることで透明になる。

 つまりその間無防備になるから離れたいし隠れたいのだ。





 張り付いて攻撃を仕掛ける事で透明になるのを防げば……あるいは!






「はぁぁっ!」



 木の隙間からレイスを抱えたクリスが飛び出して来た。




 クリスの剣は蜥蜴の片腕を見事に斬り落としていた。




「クリス!」

「クリスさん!」

「クリス様!」

「母様っ!」






 クリスはこちらを確認する。

 顔色の悪いアルフリードと、恐らく腫れ上がった顔をした俺を見て、表情を一瞬歪めるがすぐに蜥蜴に視線を戻す。







 腕の中でグッタリしてるレイスが気になるが、とりあえず勝ちの目が見えてきた。







 俺がそう思ったところで、嫌な気配…いや音が聞こえてきた。




 大量のソードウルフがクリスを追いかけてやってきたのである。






 作戦は完璧とはいかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る