少年期〜俺らしくないよね

 〜レイス視点〜


 蜥蜴(ジュラテッカ)がまた来た。




 クリスさんを呼びに行くべきだと思ったんだ。



 アルフリードさんも負傷してる。

 今のまま持ち堪える選択肢をするなら何人か死ぬだろうな。






 どうやって呼ぶか…俺は考えた。

 魔法か何かで合図?

 この森の中でそれに必ず発見できる確率は?

 寧ろ他の魔物を刺激する可能性だってある。



 あの蜥蜴は乱戦こそ本分だと思うしね。

 直接呼びに行くしかない。



 行くなら俺かレオか……。




 俺が行こうか…。

 森を走るのなら俺の方がいいだろうし、レオの方があの蜥蜴相手にも何とか持ち堪えてくれそうな気がするからね。

 たか俺が力になれる気がしないし…。





「レオ!任せた…!」


「ッ!レイスッ!」



 俺は走った。

 こういう時は振り返っちゃいけない。

 足がすくんでしまうから。



 俺の首に刃を置かれている気分だ。

 変な汗が止まらない。




 もしかしたら数秒後には蜥蜴に切り裂かれているのかもしれない。

 俺は死にたく無い。




 震える足を抑え込んで走る。

 体が重い…速く走れない。

 恐怖と緊張で体が硬直しているのがわかる…。






 あぁ…背後から死が迫ってきている気がする。




 思えばリスクの高過ぎる賭けだった。


 群れから単独で抜ければそりゃ狙われるよね…。




 もしこのまま抜けることが出来てもクリスさんを見つける前にあの狼達に先に見つかって食べられる可能性もある。


 あの熊に殴られて木っ端微塵ってパターンもあるね!




 そもそもここで死ぬ可能性が1番高い。



 ほら背筋が冷たい…。




 俺は……。




















 生きていた。

 多分アルフリードさんじゃ無いね…。

 レオだ。





 俺は真っ直ぐ走る。

 振り返らずにそのまま自分の身長より僅かに高い草を手で掻き分けながら突っ込んでいく。




 本当はこんな汚いくて臭いとか嫌なんだけどね…。






 俺は草叢を抜けるとそのまま来た道を走る。



 正直トレーニングとかさせられたけど、手抜きだった。

 だから体力はある方では無いと思う。



 俺よりミシェイルちゃんの方が体力はないみたいだけど…。


 とはいえ俺は結構体力に限界が来てる。

 だってそうでしょ?

 地下通路を通って必死に逃げて、そこからサバイバルしながらここまで逃げて…。



 でも今は助ける為に走ってる。



 俺らしく無いって自分では思ってたりする。








 でもさ、やっぱ思うよ。

 人生って甘く無いって…。



 足を止めて近くの大木を見上げる。




 ジャルコンガがこっちを見てる。


 あいつらは人間の子供が大好物で、そして俺は今単独の子供…。



「御馳走がやってきましたよぉ…って感じ?」





 俺は腰にあるゴブリンから奪った短剣を握る。

 色々落ちてたから拾っておいた…こんな時だからね必要になると思って…。

 レオにちょっと手入れしてもらって、見た目はマシに見えるね!




 あの猿は今は1体…。

 確か群れで動くとか言ってたから近くに他がいるのか、たまたま単独なのか…。




 でも足を止める訳にはいかない。

 警戒して止めていた足を再び動かして走り始める。






 少し走ってから振り返って猿の行方を捜す……。

 見当たらない!!



「どこに…ッ!」




 木から飛び降りながら長い腕を振り下ろして来たので、咄嗟に飛び込んで回避する。



「ヘホッ!ヘホッ!ヘホッ!」




「キモい鳴き声だね…美しーい俺が矯正してあげるよっ!!」





 猿に向かって魔法弾を放つ。

 マナを圧縮して放つエルフの開発している魔法。



 猿に命中するが少し怯んで見せる程度。


 俺じゃあまだ威力が低すぎて…ゴブリンには通用したけどこのレベルには無理か…。







 猿は長い腕を左右順番に振り回す。

 単調な攻撃だけど、威力はあるのだろう。

 避けた時に木を殴る形になったけど、俺の腰より太い木がへし折れた。


 当たれば終わりだね…。



 もし当たったら即死じゃなかったら生きたまま食べられそうだよね…。

 それはマジで嫌だな…。





 ブンブン拳を振り回す猿。


 ぴょんぴょん後ろに跳んで回避してるけどそろそろ無理そう…。

 後ろに大木が見える…けど方向転換する余裕ないんだよね…。




 こいつは高くて長い腕を振り回して、俺はガキで全力で後ろに跳んでギリギリ射程外に出れる。






 短剣刺したくらいで殺せるのか…。

 普通に刺したくらいなら無理な気がする…。

 でも逃げてたらそのまま積むからね…賭けを再開しよっかな!









 短剣を握って覚悟を決めた。

 猿の攻撃は大振りで動きもわかりやすくリズムも一定。

 俺は背に木が近付くタイミングに合わせた。



 腕の振りに合わせて飛び上がり、猿の首に短剣を突き付けた。

 狙い通りとはいかないが、胸に刺すことが出来た。



 そのまま体を蹴るように飛び跳ねて距離を取りながら再度腕を回避する。


 勿論俺の接近と攻撃により腕の動きも、タイミングも変わったが予想の範囲内だったので当たらずに離れることが出来た。







 着地に足を伸ばしながら、手をかざす。




「触んないでよね!」





 狙いは胸に突き刺した短剣。



 この魔法弾はイメージとしては拳を飛ばすようなものだ。



 つまり当たれば押すことが出来る。





 魔法弾を連射する。

 簡単に当てれたら苦労はしないからとりあえず撃ちまくる。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」





 短剣はより深く刺さり、胸に食い込んでいる。

 猿の目が白くなり、そのままフラついた。





「よしっ!なんとか……」




 猿はしぶとかった。


 そのまま着地する直前の俺に拳を放つ。


「うぶぐっっ!」




 俺は綺麗に背後の大木に叩き付けられ、そのまま地面に落下した。



















 意識が遠のいていく…マズイ…本当に……。


 俺だけじゃないんだ。


 アルフリードさんも…

 ミシェイルちゃんも…

 リドルフさんも…

 レオも…俺がクリスさんを呼ばないと危ないんだよ…。



 意識失いそうになってる場合じゃなくて…立って…逃げなきゃ…。











 猿の悲鳴が聞こえて、すぐに重い何かが落ちる音がした。




「…イスくん?…し…!」






 声が聞こえる…声だけじゃない…狼の…

 伝えなきゃ…助けを……。








「ッゥ…レオた…ち…あぶなぃ…早くッ!」







 俺の意識は暗く沈んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る