少年期〜透明の暗殺者
走って狼(ソードウルフ)や熊(ファイアルベアー)から離れた。
クリスはまだ殿に残っているのかまだ合流出来ていないが、クリスなら大丈夫だろう。
アルフリードは最後尾で俺たちを補助しながら後方の魔物の相手をしていたからか少し疲労が見える。
他のメンバーもただ走って逃げるだけだが、追われる中逃げるのは精神的にも結構すり減るものがある。
「怪我はないかな?」
「おかげさまでね」
こんな時でも爽やかな笑顔を見せる余裕がある彼は中々凄い。
爆発音が遠い…この爆発音は恐らくクリスの魔法だろう。
クリスがすぐにこちらに来ないのは、臭いで追いかけられかねないのでしっかり撒かないといけないからだろう。
そろそろ日も落ちるし、追いかけられて夜襲でも受けたらたまらないからな。
しっかり撒いてくれないと…。
パキッ…と何かが踏まれる音がした。
アルフリードの頭上から木の枝が落ちてきた。
アルフリードは何かを悟った。
しかし間に合わなかった。
突如アルフリードの肩は切り裂かれて鮮血が舞う。
その様子がまるでスロー再生のように映った。
アルフリードが傷を抑えて膝をつく。
「アルフリードさん!」
何が起こったか一瞬わからなかった。
だがすぐに理解した。
奴が現れた…いや、追ってきたのだと…。
あの大蜥蜴(ジュラテッカ)が追って来た。
蜥蜴は一瞬姿が目に映るが、木の陰に逃げるように飛び退いて姿が消える。
ミシェイルを連れたリドルフが剣を抜いてアルフリードに近づいて行く。
「アルフリード様、大丈夫ですか?」
「ええ、致命傷とはいっていないので回復させれます…」
ヒーリング、と小声で唱えている。
肩口からざっくりと鎧ごと切り裂かれている。
鎧を着たナイト装備のアルフリードだから生きているが、他の者なら即死だったに違いない。
幸運と今は見る。
しかし問題は一切解決していない。
アルフリードは自分の治癒をしながら戦うのて、本人の戦力は大分低下する。
俺を含め他のメンバーはこのレベルの魔物相手だと数に数えるのが怪しいレベルだ。
どうにかクリスを呼び戻したい。
あの蜥蜴は隠れているが確実に近くに潜んでいる!
だが他の魔物を引き連れて戻ったとしよう…。
例えばあの狼の群れに紛れる透明の暗殺者。
いくらクリスとはいえ厳しいんじゃないか?
もしかしたら狼が臭いで蜥蜴を発見して攻撃してくれる可能性もあるが、奴はさっき木の上から攻撃してきた。
木の上に行かれると狼がどっちをターゲットにするかなんてそんな都合よくいくはずはない。
ここから大声でクリスを呼ぶのはつまり出来ない。
簡単にではあるが状況説明をした上で呼び戻したい。
なら俺が飛び出してクリスを呼び戻しに行く…。
相手は見えないんだぞ?
本当にここに残っていると確認出来るのか?
呼びに行った俺が狙われたら簡単にやられてしまう。
リスクが高すぎる賭けだ。
どうする…どうする……。
「みんな集まって…」
アルフリードは流血しながらも立ち上がって周囲を見渡している。
顔は青ざめているが、目から闘志は消えていないのがわかる。
状況が悪い。
今の所取れる選択肢は……
この場でどうにかクリスに危機がわかるように合図を送る。
単独で抜け出してクリスを呼び戻す。
クリスが帰ってくることを祈って全員で耐えきる。
レイスと目が合う。
何かを悩む目だった。
短すぎる付き合いだけど、こいつとは長年一緒なんじゃないかと感じる。
ここ数日が濃厚過ぎて仕方ないが…。
その悩む目から俺を見て、覚悟を決めた目に変わったのがわかった。
「レオ、任せた…!」
「ッ!レイスッ!」
レイスはそう告げると返事も聞かずに走り出した。
俺だけではなくリドルフもアルフリードもミシェイルも驚きを隠せない。
レイスが走り出した方向はクリスの戦っている俺たちの来た道に向かっていく。
レイスは俺と同じ事を考えていたのか。
そしてレイスはクリスを呼び戻しに行く選択肢を選んだ。
木の葉が舞った。
考えるより先に体は反応した。
自分の思っているよりも速く、遠くまで踏み込む事が出来た。
レイスの背に追い付いて…そのまま剣を横に倒して持ち上げると、ドンピシャのタイミングで何かとぶつかる感覚があった。
レイスは振り向かない。
そのまま走り抜ける。
俺はそのまま上から潰されるように倒れ込む。
目の前には舌をチョロチョロと出す恐ろしいツノの生えた巨大蜥蜴が爪を突き立ててくる。
「シールドライト!!」
俺と蜥蜴の間に光の障壁が出現して、蜥蜴の爪が俺の首を引き裂くのを防ぐ!
俺はすぐ横に転がってから飛び上がるように起きた。
レイスはすでに背の高い草に飛び込んでいき姿を消している。
この蜥蜴を追わせないし、誰も死なせない。
目の前には蜥蜴。
その蜥蜴の後ろにはアルフリード達。
戦力は非常に厳しいが、持ち堪えてやる。
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