少年期〜森の狼さんと熊さん
さっき休憩してからどれだけ歩いただろうか。
ひたすら森の中を歩くのはキツイ…。
足場が悪いし、魔物は多いし、視界は悪いの三重苦だ。
「なぁ、レイス…本当に同じとこグルグル回ってないよな?」
「だぁかぁらぁ大丈夫だって言ってんでしょ?」
このやり取りはもう何回目だ…流石にレイスも怒ってるというより呆れてる…。
魔物は今のところ良く見かけるし襲い掛かってくる奴もいるが、クリスやアルフリードによって瞬殺されている。
森の前に出会ったジュラテッカが異常だっただけで今のところは特別問題視するような魔物とは遭遇していない。
そんな思考は良くないのだ…。
気配を感じた。
俺が感じるより先に、クリスやアルフリード、ついでにレイスもそちらに直視している。
クリスは気配がする方向に進んで前に出る。
唾を飲む音すら聞こえそうな静寂を足音が切り裂く。
多かった。
足音の数が…。
「ソードウルフ!みんな走って!」
クリスが大声で叫んだ。
魔物が向かってきている方向と逆に向かって、全員走り始める。
ミシェイルをリドルフが抱えている間に、レイスが先頭を走る。
最後尾からクリス、アルフリード、俺、リドルフ、レイスの順だ。
狼の吠える声が聞こえる。
後方だけではない、右側からも聞こえる。
「アルフ!任せる!」
クリスは短くアルフリードに告げると、稲妻を纏って右側に向かって消えて行く。
「どっち?」
先頭を走るレイスが後方のアルフリードに向かって声を張り上げる。
「右に向かって旋回しつつ、さっきのポイントまで!」
それに答えるアルフリードは、後方に意識を向けながら走る。
森の影響なのか狼の鳴き声は四方八方から聞こえる。
慣れない悪い足場での逃亡。
あっちこっちが気になって意識を持っていかれるが、気を抜くと転びそうだ。
しかし転ぶより先に木々の隙間から脅威が顔を出す。
大型の狼、前世の大型犬より一回り程大きく、さらには非常に長く鋭い、まるで剣のようなツノ。
ああ、ソードウルフ…そのままだね…。
そんな狼が飛びついて来た。
「シールドライト!」
後方からアルフリードが魔法を唱える。
俺とソードウルフの間に光の壁が瞬間的に現れる。
ソードウルフは壁にぶつかったようにその場に落下するも、凄まじい俊敏性でまたすぐに距離を取られてしまう。
足下に注意を払いながらソードウルフの動向に気をつける。
木の根を飛び越えて、地面を精一杯蹴りつけて走るも引き離すことはできない。
四足走行の生物とは基本的な速度差がある。
すると走行ルートにソードウルフの死体が大量に血や臓腑を撒き散らしながら転がっている。
知らず知らずのうちに旋回してクリスの戦闘していたエリアに差し掛かったのか。
だが転がっている死体はざっと見るだけでも10体は軽く超えている。
前方…レイスの目の前からソードウルフが飛び出してくる。
それを追うようにソードウルフを1体左手に掴んだまま飛び出してくるクリス。
クリスは髪の毛じゃなく服や顔まで血で真っ赤に染まっている。
「ぅぅらぁぁぁ!!」
クリスが左手に掴んだソードウルフを、レイスに向かっていくソードウルフに向かって投げつける。
ソードウルフの額の逞しいツノは、同族の腹を串刺しでして、大木に突き刺さる。
「クリスさん、手加減しないと俺ちびっちゃうよ?」
クリスの横を通り過ぎるレイスがそう口にしているのが聞こえる。
一瞬クリスと俺の視線が交わった。
ほんの一瞬だけ…。
顔に付いた血を拭って薄く微笑むと、一瞬にして俺とすれ違うように後方に消えていく。
森にはソードウルフの威嚇する声や悲鳴と、クリスの魔法による爆撃音が響く。
クリスの魔法によって焼き切られた大木がそこら中にある。
それにしても数が多い…気配が途絶える事がない。
そして、こういう災難は連続して続くものだ。
騒ぎを聞いて餌が現れたとやってきたのは真っ赤な…まるで炎のような毛並みを持つ熊。
しかし俺の知ってる熊の2倍はある大きさだった。
「ファイアルベアー!なんでこんなところに…!」
ファイアルベアー呼ばれる熊はこちらを確認すると、地鳴りがするのではないかという程の大音量で声を上げる。
そして口からこちらに向かって俺1人は簡単に包み込める程の火の玉を吐き出してきた。
「シールドライト!」
狙いは中央のリドルフだったのだろう。
そこに光の障壁が現れて火の玉を防ぐ。
こんな状況で、狼さんと熊さんが喧嘩をしてなんて都合いいことが…。
ソードウルフがファイアルベアーに飛びついていく。
もちろん額の剣で貫くのが目的である。
狼さんの顔に熊さんの裏拳が見事に炸裂した。
炸裂では済まなかった。
見事に吹き飛ばされた狼さんは大木に激突。
すぐ様爆発音と共に爆煙に包まれて大木をなぎ倒した。
そう……爆発した。
「あいつヤバイね……」
「あの森の熊さんはダメだわ……」
たまたま近くまで下がってきていたレイスと意見があった。
しかしチャンスとも取れる。
狼どももあの熊と争うのだからどさくさに紛れて逃亡するのだ。
しかし熊さんに恐れをなしているのか狼たちも一定の距離を保って周りをウロウロとして威嚇している。
どんどん俺たちと距離が離れていく。
狼の追撃も無い。
俺たちは走って戦線を離脱した。
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