少年期〜合流

 

 クリスが目の前にいる。


 稲妻を纏っていてか少し発光しているので、死際の幻なのではないかと思ったが、左肩が激しく痛みを訴えてくる。


 つまりは夢ではないのだろう。




「ちょっと待っててね?すぐに終わらせるから…」




 そういうとクリスはゴブリンに向かって動き出した。



 クリスが現れた事で、女だ女だと欲情したように見えるゴブリン達。


 ただクリスの動きは俺たちの比じゃない。

 俺たちより多少すばしっこいくらいのゴブリンじゃ話にならない。





 クリスは初動でゴブリンを間合いに入り斬り裂く。

 俺が両断するに至らない胴体も野菜のように簡単に…。

 全体の敵の位置動作を把握して最適解を導き出す。

 ゴブリンのひ弱な矢なんてかすりもしないだろうが、念には念をと弓を持つゴブリンから斬り伏せていく。




 通路で初めてゴブリンと戦った時は手抜きであるのがよくわかる。

 そもそもクリスのレベルでゴブリンなんかに本気で戦う必要なんてないだろうが…。





 1分も持たずにゴブリンは全滅した。








「レオ!」




 発光していた稲妻は消失して辺りが少し暗くなる。


「俺は大丈夫です、それよりレイスを!」



 左肩はまだ血が出でくるし激痛には慣れてはきたが和らいでいるわけでもない。

 だが隣のレイスは顔色が良くない。

 元からエルフという種族柄肌も真っ白で決して顔色は良さそうに見えないが、今は真っ青だ。

 クリスを確認してから気が抜けたのだろう。

 力のない笑みを見せてからグッタリとし始めた。




「あ、うん!アルフリードのとこまで戻ろう!」



 そう言ってクリスは俺とレイスを抱えた。

 細い体のどこにそんな力があるのかわからない。



 クリスは俺たちを抱えたまま猛スピードで走り出した。





 その道を見ながら理解した。


 恐らくクリスは全速力でここをしらみつぶしで走り回ったのだろう。

 アルフリード達を待機させて、誰かを守ら為の警戒を捨て、遭遇するゴブリンを全て斬り捨てる。





 クリスは賢くないから道を考えるよりそうした方が早いと考えたのかどうなのかはわからないけど…。








 そうこうしている間にアルフリード達と合流することが出来た。



 すぐにレイスの治療を始める。





 アルフリードがヒーリングをかけて傷が塞がり、顔色が戻ってきたところで、安心したからか俺の意識は消失した。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 目が覚めたらクリスの腕の中だった。

 クリスが壁にもたれかかり、俺はその腕の隙間に入ってもたれかかって眠っていた。



「目が覚めたかい?傷はどう?痛む?」




 俺のたちの前に腰を下ろしている爽やかな男が目に留まる。

 思い出したかのように左肩を確認、触ってみて軽く動かしてみて動作確認。



「大丈夫です、ありがとうございます!」


「当然の事をしただけだよ」



 そう言って笑顔を向けるその顔は非常に爽やかである。

 周囲にキラキラエフェクトがついてそうな感じだ。



 だがもう一つ気になってることがあった。





「レイスは?」



「…心配しなくても大丈夫」



 アルフリードの言葉に俺はホッとした。



 治療し始めたとこまでは記憶があるが、その後が無いから気になっていた。




「君達の怪我もあるから少し休憩も兼ねてみんな寝てるよ、僕とリドルフさんが見張りだから、君はまだゆっくり休むといいよ」



 隣を見れば人1人分ほどスペースを空けて、眠っているミシェイルと、レイス…その向かいに座るリドルフがこちらに気付いて会釈してくる。



 とりあえず俺も返しておいた。




 ミシェイルはやっぱり妹にソックリだなと、改めて見ると思う。

 ミシェイルの方が気が強そうな表情が多いが寝てる時はそんな事はないので特にソックリだ。





「ミシェイル様も疲れてきてる…仕方ないことだけど…」



 俺の視線を見てアルフリードはそう口にした。

 ちょっと視線の意図が違ったので気分的には申し訳ない気がしてくる…。




「アルフリードさん達もさすがしんどいですか?」



「僕達は珍しい事じゃなかったからね、眠らずに競馬や戦闘はよくある事だよ」



「僕達?」



 少し気になった。

 だが聞いておいてすぐに理解したのだった。

 リドルフはアルフリードとの認識は無かったみたいだし、この場合クリスだろう。

 そもそも面識がある感じだったし。




「あ、僕とクリスだよ、僕らは士官学生時代のパーティだったんだ」




「…母様はそんな身内を忘れてたんですか?」



 王都でのアルフリードとの再会を思い出す。

 すぐに気付いたアルフリードとお前誰だっけ?的な顔のクリスを…!



「あの時は僕も兜で顔を隠してからね、仕方ないよ」




 その割には少し寂しそうだった気もするが…。


 アルフリードは話しながらも常に周りに気を配っている。

 うちのクリスとパーティだったとは、迷惑かけたんじゃ無いだろうか…。




「ちなみにパーティっていうのは?」



 俺のイメージはゲームの感覚なので、グループ的はものだと思っているが、確認は必要だ。




「あ、そうだね!簡単に言えばチームだよ…士官学校では入学してすぐに三人一組のパーティを組んで、訓練や任務を受けるんだ!余程のことが無い限りは卒業までずっとね!」




 そんな人を忘れていたのか。

 そりゃ悲しいよ、俺ならキレそうだし少なくとも泣いちゃう…。


「…母が今も昔も迷惑かけてすいません…」



 思わず謝ってしまった。

 いや謝らなければならないだろう。



「いいよいいよ!戦闘ではクリスに助けてもらってばっかりだったからね!」




 なんかちょっと解釈のズレを感じる気もするが仕方ない。

 あえて触れる必要はないだろう。





「ん…何話してるの?」



 頭上でクリスの声がした。

 俺が話しているので起こしてしまったようだ。



「起こしてしまってすいません!」



「別にいいけど、アルフ何話してたの?」


「クリスとは昔の知り合いなんだよって話してただけだよ」




 仰る通りです。

 別にやましい事も何もありませんよ?


 しかしクリスは固まっていた。


 心なしか少し青ざめている気がする。

 気のせいだな、光源があるとは言え顔色がしっかりわかるほど近い距離に置いていない。




「なななななんのはなししてたの?」




 お、これは…話されたら恥ずかしい黒歴史があるんだろうな!


「別にな」

「母様には内緒ですよ?」



 アルフリードの言葉を遮って俺がクリスにいやらしい笑みを浮かべて…何か面白い事を聞いた風に答える。




「アルフゥゥゥ!」




「母様うるさい!」

「クリス静かに!」




 クリスは大人しく丸まりました。

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