少年期〜憎悪の溢れる魔法
あれから少し歩いたが二度目の遭遇は今の所ない。
途中分かれ道があったが、正規ルートの方角に近づく方がいいだろうとレイスの方向感覚を信じて進んでいる。
「…レオリス…まずい」
急に足を止めたレイスが振り返った。
「後ろから、気配…多分走ってる」
俺も耳を澄ませば僅かに足音が近づいてきている。
しかも足音は早い。
多分だが、何も無く走ったりしないだろう。
つまり目的がある。
恐らく俺たちの存在がバレたのだろう。
理解した瞬間とりあえず2人で走った。
基本的に正面切って戦うのは勝ち目が無いと見た方がいいだろう。
走ってるせいで人数もわからないし…。
だが人生はそんなに甘くはない。
「ッ!前からも…」
俺たちの足音に気付いたか統率されたの事かの判断は出来ないが、俺たちの状況としては最悪だ。
剣を強く握る。
イメージは打ち合う事なく攻撃を受け流すなりしながら通り抜ける。
イメージが曖昧だ…クソッ…!
それでも時間はない。
俺は走る足を早めてレイスの前に出る。
だがゴブリンより先にそのまま分かれ道が来た。
どちらに行くか…しかし考えるまでもなかった。
右から足音が近づいてくるのがわかる。
ちらりと後ろを確認すれば、レイスも頷く。
俺は迷わず左の道へと進む。
道なりに走った。
その先は少し広い場所に出てきた。
だが行き止まりだった。
「あー…行き止まりかぁ…」
レイスはそう言うも周りを見渡して確認する。
俺も見渡して確認すると、色々と散らかっている部屋だった。
ついでに言えば臭いは最悪だった。
獣臭さや生臭さは勿論、それに腐敗臭もミックスされて気持ち悪い事この上ない。
追われてる立場でなければすぐに逃げ出して吐いてしまいたい。
鼻をつまんで気持ち悪さを少しでも感じないように散らばったものを確認した。
後悔した。
それは骨だった。
何かわからない白い物だったが何故か人骨だと思った。
極め付けは頭蓋骨があったことだ。
「うっっ!!」
空っぽの胃から胃液が逆流してくるのがわかった。
俺は両手で口を押さえ、吐き出さないように…気持ち悪いのを我慢して飲み込む…。
だが、レイスは無理だったようだ。
少し離れた所で吐き出してしまっていた。
「ごめんッ!この臭いもあってさ…」
こんな時でも涙目で笑顔を作ろうとする。
だがこんな場所だ、責めようなんて一切思わない。
俺だって今でも気を抜いたら逆流しそうだ。
そんな時ガサッと何かが動く音がした。
それは入口の方でも無く、勿論俺やレイスのいる場所じゃない、入口から見て奥の壁際から聞こえた。
俺はすぐに剣を構える。
レイスも先程の戦いの時に回収しておいたゴブリンの短剣を構えている。
俺がレイスに目で合図して俺が歩み寄っていく。
ゴブリンか、こんな場所だし鼠とかって可能性もある。
だが警戒はしないわけにはいかない。
この広さならゴブリン相手にさっきよりはマシに対応も出来る。
剣を振り回せるんだからリーチを活かせば…。
「ひ、ひと?」
聞こえてきた音、それは言葉だった。
人だった、俺たちの姿に怯えきった裸の女性だった。
「は、はい…あなたは…」
「あぁ、神よ私を救って下さるのですね…あぁ、感謝を感謝を!」
その女性は俺を人だと認識するとすがりよってきた。
髪はボロボロで、肌も傷や痣だらけで痩せこけている。
だが、お腹は大きくなっている。
俺は先程教わった事を思い出した。
そして理解した。
この人はゴブリンに捕まって慰み者にされてしまったのだと…。
俺は剣を下ろして力を抜いた。
だがそれは失敗だった。
彼女は俺の剣の刃を素手で掴んで、なんの迷いも無く己の首に突き刺した。
「え…」
彼女は涙を流しながらそのまま首から鮮血を撒き散らして、崩れるように倒れた。
「な、ん…で…」
俺は剣を手から落として腰を抜かした。
自分の手で自分の顔を抑える。
手が震えているのか全身が震えているのかわからない。
声をあげて叫びたかったが、僅かに残っている理性が声を出してはいけないと、必死に声を抑え込む。
どうして?
助かるかもしれなかったのに…どうして?
動かなくなった名前も知らない女性の死体を見据える。
なんでなんだ?
救われたと…彼女は…。
レイスが駆け寄って何かを言ってくれている気がするが、わからない聞こえない意味がわからない分かりたくない…。
しかしまだ衝撃は終わらなかった。
彼女の遺体のお腹が動き始めたのだ。
そこからゴブリンの子供が腹を突き破って出て来た。
数にして7体程か…。
衝撃的な映像だった。
言葉にならなかった。
だがまだ続いた。
生まれてきたゴブリン達は、その母体を喰らい始めた。
皮膚を噛みちぎり肉を。
肉を引き裂いて臓腑を。
もう動かなくなってしまった女性を…。
「オェッ…オェェ…」
隣でレイスが吐き出した。
だが俺は吐き気を感じなかった。
何を考えているのか自分でもわからなかった。
ただただ頭が真っ白になった。
地鳴りが聞こえてくる…いや揺れている。
激しい地震が起きて視界が揺れる…。
揺れているのは地面だが、恐らく足下ではなく頭上だ。
何か強い衝撃でもあったのか…わからないな。
いや…もしかしたら俺の怒りで視界がぐらついているのを地震だと錯覚しているのかも知れない。
徐ろにゴブリンの子供を右手で掴んで持ち上げた。
後方から掴んで持ち上げたからか、ゴブリンの子供は抵抗出来ない。
頭に…いや、目の前に文字が浮かんだ。
俺の中のマナが文字となり、不思議とその読み方がわかるのだ。
不思議な感覚だった。
でも頭は真っ白で考える事は1つだった。
コイツらを殺したい。
右腕にマナを感じる。
そのままマナの示す古代文字を読み上げた。
「インパクトアームズ」
掌から衝撃波が放出される。
掴んでいたゴブリンの子供はまるでトマトのように弾けて潰れた。
左手で剣を拾って振り下ろした。
右手で掴んで唱えた。
左の剣で突き刺した。
右手で掴んで唱えた。
剣で切り裂いた。
右手で潰して潰して潰して潰して潰した。
それでも彼女が命を絶ったあの感覚は、手から離れなかった。
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