少年期〜初戦闘
俺とレイスは2人で薄暗い穴道を進んでいく。
静かに素早く歩く。
光は消した方がバレないのかも知れないと思ったが、ゴブリンは夜目が効くようなので、向こうは認識していてこちらの発見が遅れる方が致命的だということでそのまま進む。
充満する獣臭さと生臭さを足して2倍にしたような悪臭は、緊張状態と慣れが影響してあまり気にならなくなった。
嘘です、気にならなくなったとか思うと急に臭くなって吐き気がしてくる…。
今のところはゴブリンとの遭遇はない。
だが、そう甘くも行かない。
レイスが足を止めた。
俺も共に足を止めて耳を澄ませる。
足音が聞こえる…。
どんどん近付いて来るのもわかる。
「多分3体…」
レイスは耳を澄ませた足音で人数を予測する。
というより恐らく3体である事はわかっていた。
何故ならクリス達と別れる前も遭遇したゴブリンの数は全て3体だったのだ。
案外組織的なゴブリンは3体ずつで動いているのだろう。
俺は剣を抜いた。
クリスのように待ち伏せをしてもうまく行かないのはわかっている。
瞬時に3体を仕留めるなんて不可能だ。
1体すら怪しい…。
俺たちの作戦は決まっていた。
戦闘を避けられないなら俺が斬り込む。
レイスはその後ろに続いてフォロー。
3体を仕留める事が出来ないと判断したらそのまま気合いで走って走って走り続ける。
隠れることが出来るならそうするが、無理なら死ぬまで走るのだ。
クリス達が見つけてくれることを祈って…。
作戦というにはあまりにも稚拙だが、仕方ない。
「…ふぅぅー…行くぞ?」
「…死ぬ時は一緒だよ?」
「絶対イヤ!!!」
俺はレイスと最終確認をして覚悟を決めた。
俺には少し大きく長い剣。
振り回すには重いし、スペースも厳しい。
だが、ゴブリン達との体格に差が無い事でリーチだけは勝っている。
初の実戦、クリスみたいな保険はない。
でも、やるしかない。
俺は剣を構えて全力で走った。
後ろからランタンを持ったレイスが後ろからついて来ているのがわかる。
暗闇を走った。
後ろからのレイスが光源なので、俺はあまり奥が見えない。
けど、前にいるのはわかっている…気配は感じる。
「はぁぁぁぁぁ!!」
見えた!
緑色の肌に子供と変わらない体躯をした魔物。
俺の足音や声と夜目が効く事もあり反応されるのはわかっていた。
けど止まらない…止まらない!
ただ真っ直ぐ走って、目の前の魔物にその勢いのまま剣を伸ばした。
見事にゴブリンの胸元…人間でいう鎖骨の上辺りに剣が突き刺さって貫通している。
柔らかいような硬いような感触。
初めての感触だったが、そんなものに気を取られるわけにはいかない。
顔には返り血で真っ赤になっているが、目を瞑るのは嫌だと思った。
瞬きすら怖く感じてしまった。
俺達が走って向かってきた事で完全に奇襲が成功している。
突き刺した剣を抜かずにそのまま横に力一杯振り切る。
一瞬硬い何かの感覚があるが、本気で振り切る。
斬ったのか砕いたのかわからないが、そのままスッと軽くなる。
目の前のゴブリンは首が半分斬り落とされ、かろうじて皮で繋がっている方向に首を傾け…そのまま崩れるように倒れた。
だが俺は終われない。
そのまま振り切った勢いで、その横にいたもう1体のゴブリンの首に刃を横薙ぎに押し付ける。
俺の力では簡単には両断といかない。
ゴブリンに密着するように体を寄せて剣を全身で押し付けるような押し込む。
ゴブリンは苦しむように口から血を吐き出しながら抵抗するが、首という急所であったからか抵抗も力なくそのまま首を断ち切った。
ゴブリンの吐き出した血や、密着して斬ら落とした首から舞う血で俺は全身真っ赤になっている。
ベタベタして気持ち悪い…だがまだ終われない。
もう1体と、振り向けくと青白い光弾がゴブリンを吹き飛ばしていた瞬間だった。
「レオリス!トドメを!」
俺はレイスの言葉を聞くまでも無く剣をゴブリンの首に向かって突き立て、全体重をかける。
剣は容易にゴブリンの喉を貫いた。
3体全てのゴブリンを倒した…そうだ、俺たちは生き残れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…レイス…お前魔法…使えたのかよ…」
安全を確認すると一気に崩れ落ちそうになり、壁にもたれかかる。
「…一応ね…」
「はぁ…はぁ…どういうことだ?」
レイスは少し思い悩むような表現を浮かべてから答えた。
「エルフは人族より魔法開発が進んでるんだ、だから本当は機密事項なんだよね」
あとは察してほしいと、いう苦笑いを浮かべている。
正直思うところもある。
初めから使えると言ってくれれば俺の気持ち的にも余裕が出来たのではないか…。
機密事項ってなんだよって…。
でも作戦を考えたのはレイスで、多分自分が魔法を使える事は作戦に組み込まれていただろう。
それに俺も言われて余裕を持っていたらもしかしたらここまでうまくいかなかったのかもしれない。
それにこいつこう見えて王族…。
国家機密とかそりゃあるだろう。
そう考えると別に腹が立ったりしなかった。
気になる事は増えたけど…。
「まぁ、それは…いいや…それよりさ、腹減った」
「フッ…そうだね」
どっと疲れた。
でも生き残ることができた。
だが今回はたまたま奇襲が上手く通っただけだろう。
次も同じように成功するとは限らない。
全身に倦怠感も感じるし、体の節々が痛い。
極度の緊張状態から解放されて疲労感も凄いが…進むしかないのだ。
疲労を訴える体に鞭打ち立ち上がる。
今更だが眠い…。
俺やレイスは地下通路の前に少しだけ仮眠を取って だが…それでも結構時は流れてる。
状況的にも体力的にもタイムリミットは近いのだ。
「行こうか…」
俺はレイスと穴道を再度進み始めた。
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