少年期〜不安な覚悟

 地震が起きて全員が頭上を見上げる中、正規ルートである方の道から気配を感じた。


 クリスが剣を抜いて正規ルートの道を塞ぐように立った。




 まさにゴブリンが見えた瞬間だった。











 レイスの頭上が崩れ落ちてきたのだ。



「危ないっ!!」



 俺は慌ててレイスに飛びついた。




 俺はレイスを押すようにして落下してくる瓦礫から救う事に成功した…のだが…!



 大きな音と地響きと共に道が塞がってしまった。







「母様!リドルフさん!アルフリードさん!ミシェイル様!だっ!!…」



 慌てて立ち上がって塞がった瓦礫の前で声を上げる。

 しかし後ろからレイスに口を押さえられた。



「落ち着いて!」



 状況は最悪だ。

 こっちは俺とレイス、さらに言えば向こうの安否確認は出来ない。

 俺たちの閉じ込められた道は穴の道、つまりゴブリンの巣穴に向かっていく。

 いくらゴブリンが弱いとはいえそれはまともな兵士の基準だ。

 俺たち2人で、しかも群れに向かって行くことになると絶望的だ。


 俺は自分でもわかるくらいに焦りがあったがレイスは冷静だった。



「落ち着いてレオリス、ここで騒ぐのはマズイ、今の落下音で賢い生物なら確認に来る、バカな魔物ならまだ余裕がある、けど俺達が騒げば獣でも確認しに来る!意味わかるよね?」



 レイスは俺の口を押さえつつ現状の説明をする。

 絶望視する俺とは違い、マズイ状況である事を受け入れつつどうすべきかと頭を回しての答えだ。



 俺が何度か頷くと、口を塞いでた手が離れた。

 俺は何度か深呼吸する。





「取り乱して悪い…」



「いや、俺こそ助けてくれてありがとう!助かったよ」




 レイスはそう返すと険しい表情で考える。

 塞がれた瓦礫に触れて、叩いてと確認して、その後は天井を観察する。



「ダメだね、先に進もう」



「向こうからここを壊してってことはないのか?」




 まずは合流と考える俺の質問にレイスは首を振る。




「剣聖の腕なら壊すのは簡単だろうけど、壊して道なんか作ったらさらに天井が崩れて最悪生き埋めになるね、寧ろ一部の崩落で済んだのは奇跡なくらいだよ」




 その言葉を聞いて天井を見上げると、俺は少し背筋が寒くなった。

 幸いにもレイスが最後にランタンを持っていたので光源はある。

 まぁ魔法道具のランタンなので有限ではあるが…。



「向こうにはアルフリードさんもいるし、流石に壊して助けようなんてしないと思う」



 クリスだけならしそうとレイスは考えているようだ、俺もやりそうだと思う。



「つまり進むしかない…ってことか…」



「そうなるね…放っておいてもゴブリンはその内確認に来るだろうし、ここで待機する意味は無いから進もう、俺の予想通りならさっき言った通り向こうと合流する穴はあるはずだからさ…」




 レイスはそういうと、ランタンを持って歩き始めた。



 俺はもう一度深く深呼吸をしてから、剣を鞘から抜き放つ。



 戦いは避けたい。

 勝てる可能性が低いし、でも待っていても状況は良くならない。

 その時はやるしか無いのだ…。



 俺はまだ実戦は未経験だ。

 だけど覚悟しておく。


 レイスを小走りで追いかけつつ考える事は遭遇した時のイメージトレーニングと、毎日振り続けた剣の使い方だ。







 避けれるなら避けたい…けど避ける事は恐らく出来ないだろう。

 レイスは丸腰だし、遭遇したら俺の仕事だ。





 俺は全力でビビっている。

 だが、悠然と歩くレイスを見て不思議に思った。




「レイスは怖くないのか?」



「え?すごーーーーーく怖いよ?足なんかブルブル震えてるし、多分物音1つで飛び跳ねるね!」





 は?

 全然そうは見えない。

 寧ろ余裕がありすぎるように見える。


「でもさ、レオリスは時期剣聖になるんでしょ?だからゴブリン数体くらいならなんとかなるかもって思ってるよ!」




 それは有難いけど、残念ながらその期待には応えれそうにない…。



「俺だってそんな経験無いしビビってるぞ?」



「そうだろうね!」



 レイスは見ればわかるよ、と背後を少し振り向いて半笑いの顔で言ってくる。

 本当のことだがちょっと殴りたくなる。



「でもそれは生き残りたいって思ってるからビビるんでしょ?俺もそうだし…だから生き残る為に必死に考えて動くんだよ…可能性が無くなったわけじゃないし」







 そうやって笑顔で語るレイスの顔は少し引きつっていた。






 俺の中でレイスの評価が高まった。

 子供らしくない偉そうな奴がだったけど…親近感が湧いた。







「そうだよな…不安だし怖いよな…」



 俺は少し早足でレイスに追いつく。

 俺の中で不安定だった何かがしっかりと固まった。


 不安だし怖い。

 危険があるのはわかりきっているし、多分避けられない。

 それでもじっとしてれば解決するようなことじゃないなら足掻くしかないのだ。


「何をぶつぶつと…キモいよ?」




 レイスの足を払ってこかしてやった。

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