少年期〜忌み嫌われるモノ

 休憩中にリドルフにゴブリンの事を聞いておいた。



 大きさは人間の子供、つまり俺と大差ない程度。

 筋力を含めた運動能力も大差無いだろうとの事だ。


 だが厄介な事に数が多く群れを成す事。

 人間の道具を使う事。

 意外と頭を使えて、悪知恵を働かせる事。

 そして、魔物である特有でもあるのか…すばしっこくしぶとい事。

 しっかり息の根を止めなければ中々死なないのだと。





 他にも女を攫って慰み者にする事。

 妊娠すると、母体の命を吸い取ってゴブリンが産まれる事。

 しかもその速さがひと月程度で産まれてきて、一度に10体くらい産まれる事。



 子供の俺はそこまで…と思う所もあったが、知っておいて損はないと、教えてくれた。




 何にしろかなり嫌な魔物であることはわかった。









 そんな話をしていると休憩は終わり、移動再開となった。



 クリスを先頭にリドルフが続いて、俺、レイス、ミシェイルときてアルフリードだ。


 ちなみに武装だが、クリスは変わらず聖剣を手にランタンも持っている。

 リドルフはクリスからドレイクの剣を受け取っている。

 その後ろの俺がリドルフからランタンを受け取っている、背中には勿論剣を背負って。

 レイスは勿論丸腰…。

 ミシェイルは薄い子供用の鎖帷子のようなものを着て、護身用に短剣を持っている。

 俺が言うのもなんだけど子供が持つと短剣じゃないけどね?

 最後の爽やかなアルフリード君は鎧に剣と盾というベタベタなナイト装備だった。












 そんなこんなで移動している。

 先程よりみんな静かである。

 というよりレイスが黙っている。





 それもそうだ、嫌でも分かる。


 進むにつれてわかってくるのだ。


 理由は簡単…臭いだ。

 獣臭さと生臭さが入り混じった気分の悪くなる臭い…。





 クリスが光源を低い位置に下ろす。




 クリスがすぐに数歩先行する。


「あんまりこのスタイル得意じゃないんだけどな…」




 そう言うとクリスは右手に剣を持って左でランタンを持ち、まるで弓を引くように構えた。



 幕末の漫画で警察してそうな構えである。




 それも仕方ない。

 入り口よりはマシになったはいえ、それでも剣を振り回すには狭い。





 刹那の沈黙が通り過ぎると、前方から気配を感じた。



 緑色の肌に全体的に細く小さな体。

 頭には小さなツノが生えている生物。

 吐き気を感じるような臭いを撒き散らさながら、手入れなされていないボロボロの短剣を持って3体ほど暗闇から飛び出してきた。







 腰を低く構えるクリスは、重心を傾けていた後ろ足で、地面を強く蹴る。

 その勢いのまま引いていた剣を真っ直ぐ走らせる。


 クリスの剣はゴブリンの首元に狙いを定め、その首まで最短距離を走ってゴブリンの首を貫いた。



 ゴブリンはまるで悲鳴をあげるような苦難の表情だが、既に剣は引き抜かれている。

 首からは血が吹き出すが、悲鳴をあげる声帯は既にない。

 一瞬もがき苦しむように見えたがすぐに生き絶えた。




 戦闘は既に終わっていた。

 俺が最初の1体を見ている間に、クリスは同じ動作を繰り返して残り2体を葬ったのだ。








 鮮やかな手並みだった。

 汗ひとつかいていない余裕のある表情だが、決して油断していない集中している凛々しい表情。


 クリスのその背中はカッコ良かった。




「うぇぇぇ…血がかかって臭いよぉ〜」



 クリスが鳴きそうなおでこちらを見て、先程の雰囲気を吹き飛ばした。

 台無しである…。


















 その後も何度も襲撃が続くが変わらない結果だった。



 クリスが全て一突きで仕留める。

 しぶといだの、すばしっこいだの遭遇前の情報が嘘臭く感じる。

 まぁそれはクリスの腕なんだろうけど…。










 俺は俺でゴブリンを観察した。

 確かに体は小さい…俺と変わらないし。

 腕とかガリガリだし純粋にパワフルな感じはしない…だがそれに関しては油断禁物だ。

 クリスなんて細いのにオッサンを軽く投げたり転がしたりしちゃうしな。

 この世界の見た目なんてものは信用ならないのだ。


 武器も年季が入って錆び付いている。

 もしかしたら実は名剣でした、みたいなのもなくはないのだろうが、今の俺には関係ない事だ。













 しっかりと足元…いや頭上に揺れを感じた。

 上ではさらに騒動が拡大しているのかわからないり


 揺れは勿論全員感じているところで、各々の頭には不安がよぎったのか、全員が眉を潜める。





 だが不安でも仕方ないと、クリスが前に進んだ。

 他のみんなも後に続く。







 その道は分かれ道になっていた。


 しかし正しい道はすぐに判別できた。



 俺たちの通ってきた道と同じ作りの片方の道。

 もう1つは道というよりは穴だった。



「こっちはゴブリンの巣への道かな?」




 俺もゴブリンについて詳しく無いし、ゴブリンどころかこの世界についてまだほとんどしらない。

 でも、俺も同意見だった。



「ゴブリンの群れが規模が広がって、巣を拡張したところで、たまたまこの地下通路と繋がってしまったのかもね」



 レイスの言葉に後方からアルフリードが答えた。

 そして穴の方からは特徴的な臭いもするし間違いないだろう。

 道は当然正しい方に進めば…。



「待て、これはつまり背を取られる可能性が高くなるという事じゃないのか?」




 ふとミシェイルが疑問に思った事を口にした。

 俺もちょうど同じ事を思った瞬間だった、ホントなんだから…。



 だがアルフリードとレイスは既にそこを考えていたようだった。



「そうなんだよね…、土魔法で塞いじゃうとか?」


「土魔法が使える人がいればそれでもいいんだけどね…」



 レイスの質問に変わらずアルフリードが答えている。


 クリスはなんか雷みたいなの纏ったりしてた記憶が…。

 リドルフはそもそも本来戦闘員ではないし、アルフリードもその口調ではダメなんだろう。

 俺は勿論、ミシェイルは護身用に短剣を持ってるけど

 使えなさそうな気がする。

 レイスは可能ならドヤ顔してもうやってるだろう。






 つまり塞ぐという選択肢は無いみたいだ。




 塞ぐ選択肢を諦めたレイスが穴の道に入って地面を調べている。


 空気的にも一旦作戦会議みたいな流れで、少し足を止めている。


 クリスは2つの道を見張っている。


 リドルフはミシェイルを気遣うように座らせて、疲れていないかなどの確認をしている。


 アルフリードは色々考えている感じで、レイスも同じく穴の道を調べ続けてる。



「何かわかったか?」



「多分定期的に見廻りがあるんだよね…ゴブリンってもっと獣じみてるかと思ったけど組織的らしい」




 足跡の数や方向、新しいのや古いものとを見てそんな事を考えていたらしい。



「ゴブリンの巣を抜けても道はあるから、そっちに行くのも手かもしれないよ?」




「確かに背を取られる可能性が減るけど、危険だし、出口の場所も検討がつかないからね…」



 俺を飛び越してアルフリードに提案するレイス、アルフリードはそれに当然のように答える。


 なんか気がついたらレイスの意見や考えを聞くのが当たり前みたいな雰囲気になってきている。

 よく頭が回るやつみたいだし、うざいとはいえ凄いとは思ってたけど…なんか嫉妬…。



「あーそれもそうだね…あとさ多分まっすぐそっちの道を通ってもまた横穴があると思うよ?」




 レイスのその言葉に全員が気になったのか視線が集まっている。



「そっちの道にも足跡があるし、多分1体武器何かを壁に擦る癖があるのか、そっちの壁にも同じ傷があるから見廻りのルートがあるんだと思う」





 クリス達がすぐにその確認をしている。



 確かに同じ傷があった。

 だから組織的だの何だと言っていたのか…。





「つまり、正規ルートの挟み撃ちされる可能性もあるってことだね」



 クリスも理解が追いついてきて確認も込めてそうな一言を口にしてる。




 警戒心が高まる中、再び地震が起きた。


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