少年期〜地下通路に潜む影

 通路は薄暗く、やはり埃っぽい臭いが充満していた。


 光源はランタンだけで、道は成人男性1.5人分ほどか…。


 細いクリスには余裕で、俺やレイス、ミシェイルからすればさらに余裕があり、リドルフやアルフリードはギリギリ。


 特にアルフリードは鎧姿なので尚更だろう。





「この通路ってどれぐらい続くんだろう…」



「城壁の外までトカ聞いてる、直線とはい王都をかなりの距離は歩くはずだ」



 レイスのつぶやきに答えたのは、意外にもその後ろに居たミシェイルだった。



 王都ってかなりでかかったよな…。

 って事はまじでこの暗闇を淡々と歩くの?



 俺は始まって直後そんな事を考えて、緊張感のない自分に気付いた。



 マズイマズイ

 こんな状況でそんな甘い考えは良くないな。



「んー…結構あるねぇ、大体丸一日くらい?」



 そんな俺の事は御構い無しにレイスは話を続ける。

 コイツの神経の太さというか、肝の座り方というかなんというか…この状況での余裕は羨ましい。



「お城から出ることなんて無いからわからない」



 レイスの質問にミシェイルは淡々と答えた。


 緊張感の無いとか警戒心が薄いとか注意すべきか難しい。

 俺はともかく彼らはまだまだ子供だし、それこそ緊張感を強く持ちすぎると持たないのではないかと…嘘、レイスは気にしないきっと。



「あら、やっぱそんな感じなんだぁ、俺もあんまり自由無かったんだよね…それが嫌で何回も王宮抜け出してたらその内人攫いに狙われたってわけ!」



 レイスはまるでお気楽に自分が捕まった経緯を説明する。

 どうして捕まったっていうよりは、そりゃ捕まるよね♪ってスタンスだ。



「結果遠いこの国に連れて入れて、オマケに黒竜に遭遇なんていう俺の不運さときたら…あ、でもクリスさんとミシェイルちゃんに出会えたって考えるとやっぱ幸運?」



 クリスはあはははと苦笑い。

 ミシェイルもちょっと対応に困ったという顔だ。




 とりあえずレイスはよく喋る。

 非常にどうでもいい事から、歩いていて気になった天井の亀裂までなんでもかんでも。

 きっと彼女に常にメールとか送りまくるタイプだな。



 後ろのリドルフは余り表情がわからない。

 この人は基本表情に乏しい。

 さらに後ろのアルフリードは真面目な顔をしている。

 多分レイスの言葉を聞いてない。



 しかし、レイスは騒がしいが、正直なところ助かっている。

 俺やクリスやリドルフは、ドレイクの死を各々差はあれど、思う所がある。


 表情がわかりにくいミシェイルだって、父親との別れの可能性もあり、考え込んでいることが多い。

 アルフリードは爽やかだね。



 そしてこの薄暗い地下通路、何もなくてもその内病んできそうな淀みがあるこの空間で、レイスの存在は本当に助かる。

 余計な事を考えなくていい気もするしな。









 このまま何もなく行けば…と思っていたがそういう思考はやはり甘え…というかフラグだったのだろう。




 戦闘を歩くクリスがサッと光源であるランタンを下に降ろした。

 それは予め決めていた進行を止める合図だった。



 全員ピタリと足を止める。

 先程とは違いピリピリとした緊張感を肌に感じる。


 クリスが剣を抜いてゆっくりと、足音を立てないように気をつけて歩き始める。





 クリスと人1人分ほどの距離を保って後ろに続く。








 静かに…静かに…耳を澄まして…暗闇を警戒してゆっくりと足を進める。






「…あれは…!」



 クリスの持つ光源から、何かが照らされたのが俺の位置からわかった。


 クリスからはしっかりわかったのだろうか、駆け足でその何かに接近して行った。





 俺たちはゆっくりその後を続いていくと、クリスが地面に転がっている何か…ではなく死体の確認をしていた。





「リドルフ…確認をお願い!」



 クリスの言葉に反応したのはリドルフだった。



 リドルフは俺たち子供を避けて前に出て、死体を確認している。

 まず首に触れる、そしてすぐに首を振る。

 その後も遺体を詳しく調べ始めた。



 クリスはさらに少し前に足を進めて、俺たちもリドルフの元に集まる。






「アズール王子で間違いないでしょう…死因は背後からの刺し傷です…恐らく逃げて戻ってきている所を後ろから襲われたのかと…」



 死体の衣服の乱れや数の状態、地面の足跡を確認して、そう推測する。



「地下ですし人がやったとは考えにくいですよね?」



「ええ、おそらく」

「ゴブリンだね」



 リドルフの言葉に横入りしてきたのはレイスだった。

 レイスはリドルフと一緒に遺体を確認した後、すぐに足跡を確認してそう判断したらしい。

 その動きはコ◯ン君顔負けだな、うん。



「ゴブリンっていうと…」



 さも知っているように俺は振る舞う。

 勿論ゴブリンくらい知ってるつもりだ。

 小柄で緑とか茶色で、汚くて弱いが群れになって襲いかかってくる女好きの魔物だ。

 ゲームだと、序盤の腕慣らし的な奴だ、スライムより群れる分強いぐらいの印象しかない。



「そう!あのゴブリンだよ、どこにでも居るからこういう場所に住み着いても驚いたりしないでしょ」




 さながらゴキブリみたいな扱いだな。

 というかゴキブリって人間の先祖説とかあったような…。

 もしかしたらゴキブリの元はゴキブリだったり…。

 いかんいかん、すぐに緊張感を無くす。

 寧ろ警戒を強めないといけないというのに…。



 それにしてもアズール王子とやらの死体は酷いものだ。

 倒れたところを刃物で滅多刺しってイメージだ。

 だが、俺も少し麻痺しているようだ。

 あまり気持ち悪いとか思わない。


 昨日の今日だし、これより酷い状態の死体なんて上で見てたしな。

 あの時はそうならなかったけど、寧ろ今それを思い出す方が気持ち悪い。




 見れば、アルフリードとミシェイルが離れていた。

 恐らくミシェイルが気持ち悪くなってしまったのだろう。



「ゴブリンなんて剣を持った子供程度なんだし、剣聖の護衛付きの俺たちにはあんまり脅威にならないね!」



「確かにゴブリンは子供と大差ないレベルではありますが、数が多い上に、闇に潜みます…奇襲を受けて怪我などでやられては元も子もありません、油断なさらぬように」



 レイスだけではなく俺にも目配せしながら忠告するリドルフ。

 もしかして俺もすごい警戒心薄く見えたのかもしれない。



 俺もしっかり頷いておいた。








 ミシェイルの事もあるので、とりあえず少しだけ休憩をとってから再出発する事になった。

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