少年期〜黒い空

 〜ドレイク視点〜



 父は剣士として戦いの中で死にたいと言っていた。


 私は…。














 剣を持つ腕の感覚が徐々に弱っていくのがわかった。



 私には本当に時間も残されていない。

 感覚が鈍い、時折視界から光が失われる。

 だが剣を手放したりはしない。





 黒竜はこちらに向かってブレスを放つ。



 私は左に、クリスは右に駆け出してそれを回避する。


 被弾した瓦礫から広がるエネルギーの圧縮で、周囲の物が消えて無くなる。

 あのブレスの対処法の仮説が出てきたが、試すタイミングはあるだろうか…。




 一気に黒竜との距離を詰めてその右前足を付け根から斬りつける。




「サンダーランスッ!」



 クリスが左前足を同じように斬り付けて、その箇所と、私の方とに雷の槍を撃ち込む。




 耳を塞ぎたくなる爆発音と共に着弾箇所は焼かれている。




 前足が麻痺しているからか再生を待つためか、翼を広げて空は飛び上がろうとする。




「逃さん!」



 私は地を強く蹴って飛び上がると、黒竜の翼に向かって聖剣を突き立てる。


 聖剣は黒竜の紅い眼球に剣を突き立てる。


 黒竜は嫌がっているのか振り落とそうと首を振り回す。

 私は左手で剣を、右手で黒竜のツノの先を握りながらしがみつく。





「ドレイク離れろ!」


 グレイズ王子がそう叫んだ。




 その声を耳にすればすぐさま離れる。

 王子の周囲の魔導師達が魔法を唱える。


 左右に分かれていた兵士達が、合図に合わせて一斉に矢を放つ。

 黒竜に向かって火球と矢が雨のように降り注ぐ。



「グガァァァァァ」


 黒竜はもがくように宙を舞う。




「ギガ・ライトニング!!!」



 黒竜の真下に立つクリスが空に向かってマナを放出する。

 そのマナは一瞬にして天を支配して、一筋の光を轟音と共に天から黒竜へと導いた。






 たまらず地に堕ちた黒竜に、クリスが先行して斬りかかる。

 私も着地しては、一足飛びに接近して斬りかかる。



 様子見をしていた剣士達も…。




 今がチャンスだと全員が力の限り攻撃に転じた。



 黒竜は飛び起きながら、周囲を尻尾で薙ぎ払う。


 回避が間に合わない者はボールのように吹き飛ばされていく。





 黒竜は全身に傷を負いながらも身も鱗も再生が途切れる様子がない。









「はぁ…はぁ…これは…」




 全員の顔には疲労と絶望の色が広がっていく。






「グォォォォォ」






 黒竜は咆哮を上げて空高く飛び上がると、城を余裕で見下ろせる…いや、都市を見渡せる位置まで飛び上がった。









「何をする気だ……」








 ブレスを数発連続で吐き出した。



 その弾は私達のいる真下ではなく、外側の街に向かって…。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「レオリス!上っ!」




 走って城の方は向かっている中、レイスが足を止めて空を指差す。

 その指が示す方向には、声をあげて天を舞う黒竜がいた。



 先程見た時より遠くにいるにも関わらず、その姿は先程よりも恐怖を感じる。




 黒竜はそのまま空から黒い弾を吐き出した。




 それは俺たちの頭上超えてさらに後方に着弾した。



 砂塵を遠目に見えるくらいで状況確認にはならないが、嫌な予感は絶えない。



 それはレイスやリドルフも同じなのか顔を見合わせた。



 そして、俺たちの後ろから微かに悲鳴が聞こえる。





「まさか、門を破壊したのか」



 リドルフが察して宙を舞う黒竜を睨みつけるように見た。


 俺もレイスもその言葉の意味をすぐに理解した。



「急ごう、これは本格的にマズイ…」


 俺の言葉に2人は頷くと城に向かって走っていく。




 城に近付くにつれて、瓦礫や折れた庭園の木々が道を塞ぐ。



 リドルフは別としても、俺やレイスからするとかなりの邪魔だ。



 リドルフは俺を抱えようとしたのがわかったので目で制した。


「リドルフさんが、何かあった時に動きやすい方がいいと思うので」





 これは本音だ。

 決して抱っこされるのが恥ずかしいとか、女の子に抱っこされたいとかじゃない。

 ただ俺やレイスじゃ対応出来ない事をしてもらえる余裕がある方がいいという判断だ。














 しばらく走ったところで怪我人や死体も目にするようになってきた。



 初めて死体を見た。


 口から大量の血を吐いて倒れている者。

 ありえない方向に体が曲がって動かない者。

 瓦礫に挟まれて潰れている者。


 もっと怖くなったり気持ち悪くなったりすると思ったが、この状況だからか見知らぬ人だからか、なんともなかった。


 多分俺には今そんな余裕がないのだ。


 黒竜が健在であることが確認出来たということは、残っていたクリスや、引き返したドレイクの安否が気になっている。

 正直変な焦りさえある。

 自分が行っても役に立つわけではないのに、早く行かなければならないという焦燥感。











 俺は走った。


 早く状況を知りたくて。








 その答えはその先にあった。

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