少年期〜義父として師として
〜クリス視点〜
私は治療術師にヒーリングを受けている。
朦朧としていた意識は治癒魔法により、取り戻しつつあった。
意識と共に戻ってきたのは思考であった。
そして先程の戦いをみて伝えなければならないと思い、治癒術師の制止を振り払って叫ぶ。
「ドレイク様っ!鱗を削いで再生前に魔法ならダメージになりますっ!」
まだ仮説に過ぎない事だが、魔法だけではダメージには確実になっていない。
かといって直接攻撃も同じだ。
しかし鱗を削いでからの魔法なら、黒竜の反応と傷の再生速度から見ても効いていると思う。
現状そんな大声を出してはいけない体だとは理解しているが、伝えなければならないと…。
そんな私の仮説対応したのはやはりドレイク様、そしてそれを聞いていたグレイズ王子殿下はすぐに理解をしてくれた。
魔導師達にドレイク様の攻撃した部位を狙うように指示する。
「ぬぅぁぁぁぁぁ」
黒竜前足の薙ぎ払いを飛び上がって回避し、落下と共にその前足をドレイク様が斬り付ける。
「放てぇぇぇ」
「ファイアランス!」
グレイズ王子殿下の指示に合わせて兵士達は魔法を唱える。
宙に突如炎が巻き起これば、瞬く間にその炎は槍の形に収束され、同時に射出される。
黒竜の前足にも含めて大量の炎の槍が黒竜に襲い掛かる。
「グォォォォォ…」
黒竜は咆哮を上げながら、明らかに嫌がるように後ろに飛び跳ねるように後退する。
そこに、周りに散っていた弓を持った兵士達が一斉に矢を射掛ける。
勿論致命打にならないが、少しずつ鱗を削いでいる。
「命を捨てる覚悟がある者は私に続けぇ!」
ドレイク様はそうやって周りに檄を飛ばす。
数人の兵士が覚悟を決めた表情で各々が剣を抜き、肉体強化を施すと、ドレイク様に続いていく。
しかし、全員が無事とはいかない。
特に肉体強化を施さない者は回避する術を持たない。
強化して立ち向かっていく剣士も、もろに前足の爪で引き裂かれてしまった者は、臓腑を撒き散らして見るも無残に命を落とす。
黒竜は弓の部隊に向かってすぐ様ブレスを放つ。
着弾から広がる闇のマナに触れた者は、エネルギーの圧縮により、その場から消えて無くなる。
嘘のように悲鳴と共に破片も残さずに…。
それでも誰も臆さず立ち向かっていくが、1人また1人と確実に減っていく。
剣は黒竜の鱗を削ぐ。
魔法は黒竜にダメージを与える。
弓は黒竜の動きを抑制する。
「もう大丈夫、他の人に」
私を治療してくれていた術師にそう告げる。
これ以上被害を受ける訳にいかない、それに。
もうドレイク様は無理だ。
黒竜の尻尾の薙ぎ払いを聖剣で受け止めるも、吹き飛ばされて転がっているドレイク様に私は駆け寄る。
「ドレイク様…代わります、剣を…」
「お前はこの剣である必要はあるまい、私の剣を使え」
そういってドレイク様は普段から自分が持ち歩いている剣を私に差し出す。
ドレイク様の言う通り私では聖剣を使う意味は薄いかもしれない。
でも、それは今回は関係ない。
ドレイク様はもう顔はもちろん指先まで、傷によって露出する鍛え抜かれた体も白と紫の紋様が浮かんでいる。
顔色も良くない、心なしか頰もこけてきている。
見ているのも辛い…。
「もう体が持ちません、あとは私にまかせ…」
「もう良いのだ…私の命はもう永く無いなどわかっている…命尽きるまでに、一太刀でも多く剣を振る…」
私が何を想い何を言おうとしているのかすでにわかってるようだった。
「でも……」
言葉にならなかった。
「死ぬ覚悟は決めている、お前のその気持ち…それは私の覚悟や誇りへの侮辱だ」
その目は真っ直ぐ私を見ていた。
私の愛した人と良く似た目。
やっぱり親子なんだと、このタイミングで思ってしまった。
この人は私の師でもあり、私の義父でもある。
この人の背を見て私は育った。
この人の剣を見て私は強くなった。
幼くして親を亡くした私に剣を教えてくれた。
結果シオンと巡り合い、最愛の息子を産むことができた。
この人無くして私の今は無かっただろう。
シオンを失ってからお互いに少し距離が空いた。
それでもこの人への尊敬と感謝は失った事なんてなかった。
「せんせぃ…そんなの…ズルイ…」
私は下を向いた。
覚悟が伝わった。
理解出来てしまった。
返す言葉なんかなかった。
自然と涙が出てきたが、その顔を見られたくなかった。
ドレイク様は立ち上がって、私の目の前で自分の剣を鞘から抜き、地に突き刺した。
「クリス…お前は剣聖だ…アストラルの名を背負う剣士だ、下を向くな、敵はまだそこにいる…私に手を貸せ」
首を左右に振って頭を切り替える。
ドレイク様の剣を握って立ち上がる。
涙は止まらない…でも下を向いてはいけない。
前を向いて敵を見るのだ。
そう自分に言い聞かせる。
ドレイクはすべてのマナを剣に捧げる気だ。
つまり生命力を失い死ぬ事を受け入れている。
それに私は弟子として、義娘のとして応えなければならない。
覚悟を決めて剣を構える
小声で魔法を唱えると、全身に電気が走る。
痛みがあるが今はそんなことどうでもよかった。
「はい、お伴します先生」
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