少年期〜進むか戻るか留まるか

 俺がレイスと話している間に壁外の異常を確認に向かったリドルフが帰ってきた。




「リドルフさん、外の様子どうでした?」


「本来あり得ない事なのですが、魔物の大群です…」



 魔物のってマジかよ…。

 とは言ってみたもののそんなに魔物に詳しいわけじゃないのだが…。



「原因はおそらく黒竜だね」


 横からレイスが口を挟んでくる、相変わらずドヤ顔だ。

 しかもそんな事多分みんなわかってるだろう。





「…レオリス様、彼は?」


 勿論この生意気そうなガキは誰だという顔をする。

 当然だろう。



「えっと、さっき助け…知り合ったレイスです」



 そもそもなんて説明するべきかわかりかねる奴だ。



「はじめまして、俺はレイス・アルニエルだよ」




 相変わらず鼻に付く気取った喋り方は、俺のイライラにピンポイントらしい。

 しかし、リドルフは違ったらしい。



「アルニエル…、貴方のような方が何故ここに?」



 あれ?こいつすごいやつなの?

 見た目はショタコンお姉さんが飛び付きそうなほど可愛い男の子だけど…中身はイライラを撒き散らすクソ野朗が?



「んー、まぁ色々面倒に巻き込まれちゃってね、今も巻き込まれ継続中ではあるんだけど」


 先程俺に説明したばかりだからか面倒なのか…。

 てかコイツ気になる…って顔をしていたのかリドルフは察したようだった。



「アルニエルとはエルフの王族の名です、つまり現王ザスティン・アルニエルの息子です」



「えっ、おま…王族だったの…ですか?」



 驚いた。

 誘拐されたとか、この生意気さと自信満々な感じとかいいトコの坊ちゃんだとは思ってたが…。

 俺がいうのもなんだけど…。



 いいトコのトップクラスの奴でしたってわけだ。

 ちょっと媚び諂った方がいいのかな?



「いいよレオリスそんなの、どうせ王位の継承なんてされないし、期待もされてないからね」



 言葉だけで見るとなんか悲しそうな感じなのだが、表情や声色は悲しそうには感じない。

 寧ろおかげなやりたい放題なんですとウキウキしてるように見える。





「まぁそれはさておきさ、魔物は門で抑えられてる感じ?」



 自分の事より今後の事と、切り替えてレイスはリドルフに確認を始める。


 正直気になるところがあるが同意見だ。


「ええ、東西南北全ての門を封鎖して壁上に登って兵士も対応していますが、この状況で主力は城へ行っている上、指揮系統も上手くいっておらず、戦況は厳しく、時間の問題かと…」





 選択肢は非常に厳しい。


 まず後方に退避する事だが、後方ではクリス達主力と、黒竜が戦っている。

 メリットは倒し終わっていた場合のみ、合流できて安全性が高まる。

 しかし普通に考えてデメリットの方が多い。

 戦っている最中であれば、俺の存在は戦力にならない邪魔になるだろう。



 では前進する場合は?

 クリスやドレイクといった主力抜きで魔物の群れを突破するということになる。

 しかも魔物数など戦力は不明と、不安要素が多い。

 リドルフさんはわからないが俺とレイスは所詮ガキだし、乱戦になったら最悪だ。



 では最後の選択肢は停滞。

 つまり様子見であるか、門が破られればジワジワと城に追い込まれてしまうと最悪のパターンになりかねない。




 まぁこれは現在の手札では、という答えに過ぎない。



「戦えそうな人を集めて協力して脱出するのはどうでしょう?」



「却下たね、それは兵以外に避難民も当然集まるだろうし、そうなれば大きな軍さ、でも軍の戦闘力は最低レベルの武装なし民間人多数、機動力を削がれるだけで生き残る確率が高いとは思えないよ」




「あー、なるほど」



 俺の意見にレイスはすぐさま反対した。

 確かに俺の考えは都合が良すぎた。


 リドルフが一瞬不安げな表情を浮かべた気がするが、気のせいだろう。



「えっと、それなら後退しようよ」


「理由聞いてもいいか?」




 俺が悩んでいるのを見てレイスが切り出した。



「城では黒竜が暴れてるのは仕方ないとしても、剣聖を含め主力が応戦してるのは間違いないんでしょう?」



 レイスはその確認を俺ではなくリドルフに求める。

 リドルフはすぐに頷くかを確認すると、レイスは続ける。



「黒竜をどうにかしてくれてる可能性もあるって事だし、そうなってるのが理想、主力と合流出来るなら今の状況より大分改善されるしね」




 そんな事はわかっている。

 でもそうなってなかった場合は、俺たちは邪魔にしかならないからだ。


 俺が何か口を挟む前にレイスは続ける。


「もしまだ戦闘中なら邪魔になる可能性もあるだろうけど、城には必ず王族が使う外への脱出通路が存在するものだからそれを探す」




 成る程。

 王族が逃げるために地下通路をとかは鉄板だ。

 だけど…。





「やっぱり反対だ、今戦ってる人の邪魔になるのは避けたい」





 俺が言うのもなんだがクリスははドレイクが言った通り集中に欠けると思う。

 守らないといけないものを守りながら戦うなんて難しいだろうし足を引っ張ってしまうだけだ。




「正直正面突破は不可能だと思うんだよね、このお爺さんが凄腕だとしても、俺たち2人を守りながら魔物の群れを抜けるのは…」



 レイスはため息混じりに俺を見ながら説得?と言う名の説明をし始めた。



「かといってここで様子見は論外、追い込まれて人が密集して詰むだけ、そうなると後退しか残されないでしょ?1番現実的な選択だと思うけど?」


「レオリス様、私も同意見です」





 レイスの言いたい事は分かる。

 恐らく正しい…だけど…。


 俺はそれが正解には思えない。



 でもここで無駄足を踏む訳にはいかない。

 リドルフさんも同意見だ。



 俺には反論する言葉なく、レイスの提案を受け入れるしかなかった。




「わかった、城に戻って脱出通路を探そう」



 俺とレイスとリドルフは、城へ戻る方向性になった。

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