其の十二

 霧崎楓夏にはおおよそ友人と言える人間はいない。本部にいる間は周りにいるのは自分より年上ばかりで、一番年が近くても十近く離れている。それだけ彼女が優秀であることを示しているのだが、彼女は本部長のスカウトによって本部入りを果たした人間であり、一応最初は五級として本部近くの支部に送られたものの、実際には最初から一級として登録されている。そのため、本部の中には彼女の実力を認めてはいても、あまり快く思っているいない者も少なからず存在している。

 その空気を楓夏は口に出されずとも察しているので、あえて自分から同僚とは距離を置くようにしている。

 もちろん、彼女は今回のように本部から出向して別の《影》対策課や支部に行くことも多く、彼女の年齢の特異性もあって、特に学校関連の事件が起きたところに行くことが多い。そして事件が学校内で起きたものであれば潜入を命じられることもあるため、同年代と全く話す機会がないわけではない。しかし、彼女は転校生として潜入先の生徒達には把握され、また転校して別れるというのが決まったパターンであるため、友人と言えるほど交友関係を築けるわけではない。

 しかも彼女の容姿は派手ではないものの、すれ違った十人のうち七、八人ぐらいは振り返るのではないかというくらいには整っている。その容姿と、転校生であるというのも相まって、転校先でも、砕けた話をできる仲まで発展させるのは難しい。

 無論、幼いころであればそれなりに友人として遊ぶような相手はいたが、本部にスカウトされることが決まった時にほぼ断絶してしまった。

 その結果、彼女には友人と言える存在が今に至るまでいないのである。


「楓夏、答えにくかったら答えなくてもいいよ」

 困ったような顔をして、長い間黙ってしまっている楓夏を見て、ミサキは失敗した、と思った。楓夏は自分が聞きたいことと、ミサキが聞かれたくないことの判断がうまい。

「いや、別にそういうことはないんだけどね。ほら、私って家の事情で委員会とか部活とかに入ってないからこれといった友達みたいな人がいないんだよね」

 ミサキは少し早口になっている楓夏を見て、これ以上の追及をやめることにした。

 少しの間、二人は向こうの遊具で遊ぶ小学生の様子を見ていた。

 ミサキはその様子を不思議なもののように眺め、楓夏は懐かしむように眺めていた。


「ミサキはさ、どこか行きたいところとかあるの?」

「唐突だね……」

 沈黙を破った楓夏の一言に、ミサキは苦笑しながら答えた。

 けれどもすぐに少し真面目な顔をすると、しばらくの間視線を宙にさまよわせると、ポツリと呟いた。


「博物館か水族館に行きたい」

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