其の十一

 ミサキは二日から三日に一度くらいの割合で公園にいた。ミサキは私服の時もあったが、ほとんどの場合は制服を着ていた。どうやら彼はこのあたりでもかなり優秀である中学校に通っているらしい。

「楓夏は学校には行ってないの?」

 ある日、ミサキは楓夏にそう尋ねてきた。会う時間としては夕暮れ時であるのがほとんどなので別に不自然なことはないはずだと考えていた楓夏は驚いて聞き返した。

「どうしてそう思ったの?」

「だってこの前商店街の方でその服のまま歩き回っているのを見たから」

 その一言に失敗した、と思いながら楓夏はそれはおかしいと気づく。

「でもそれってつまりミサキも学校さぼってその辺りにいたってことだよね。学校はちゃんと行った方がいいよ」

「楓夏にそれを言われたくないなぁ」

 それを言われると確かに弱いがこちらには言い分がある。

「私はいいの。先生に許可もらっているからね」

 本当はそんなものもらっていない。というか、そもそももらう相手がいない。楓夏が着ているのは仕事の制服であり、一見どこかの学校の制服のようにも見えるセーラー服であるが、実際にはこのような制服を採用している学校は存在しない。

 そのため調査の際に「高校生を使っているのか!」と言われることもあり、実際に楓夏は年齢で言えば高校生であるのだが、その時には本部から支給されているカードを見せることで納得してもらっている。

 だがいくらミサキが『見える』人だとしても、楓夏は彼を自分の仕事に巻き込む気は一切ない。そのため嘘をつかざるを得ないが、彼に嘘をつくことには少し申し訳ない気持ちがあった。

 そのことに彼が気づいたのかどうかの判断は楓夏にはできなかったが、ミサキは「ふうん」と呟くとそれ上の追及をしてこなかった。


「そういえばどうして私が商店街にいたときにミサキもいたのかの理由を聞いてないね」

 そう聞くと、ミサキは何でもないように空を見ながら答えた。

「別に、学校が創立記念日だったってだけだよ」

「ああ、そういうことね。ごめんごめん、早とちりしちゃってさ」

 そう言いながら、楓夏はそれが嘘であることを知っていた。以前、ミサキが着ている制服がどこのものなのか興味本位で尋ねてみたところ、彼は嫌そうな顔をしながらも教えてくれた。その日の夜、時間のあった楓夏はその高校についてパソコンで調べてみたところ、創立記念日は九月となっていた。しかし今はまだ六月である。やはり彼は学校をさぼっていたらしいが、そのことについては自分が強く言えないのでそっとしておくことにした。

 そう考えているとミサキが質問をしてきた。

「楓夏はさ、友達とかいるの?」

「答えにくいこと直球で聞くね……」

「答えにくいこと聞くのはいつも楓夏だし」

「だって私はミサキのことをもっと知りたいからね」

「なら僕も楓夏のこと聞きたい」

「むぅ……」

 確かに今までの会話では好きな食べ物に始まり、友達と家族以外についてはほとんどのことを聞いた気もするが、自分のことはあまり話していない。実のところ、楓夏は自分について話せることがそれほど多くない。楓夏の人生は対策本部なしには語れないが、そのことについて語ることはできない。


 しかしそれ以前に彼女にはこの話題を避けたい理由があった。

 霧崎楓夏には友達がいないのである。

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