其の五

 この鬼が最初に現れたのは今から千年以上前、平安時代のことだとされています。

 しかし、最初この鬼には酒呑童子や茨木童子といったような名があったわけではなく、それほど強力な鬼ではなかったと考えられています。

 この鬼は、ある時、一人の男ととある約束をします。

 その約束とは、『これから生まれてくる赤子のうち一人を鬼の器として差し出すこと』だとされています。

 おそらく男が何らかの事情によって鬼と約定を交わさなければならなくなったのでしょう。その事情は伝えられていないため、我々にも分かりません。

 とにかく、鬼はこうして自らの安定的な住みかと食料を手にしたわけです。

 その後、鬼は一度討伐されます。誰の手によって討伐されたのか、どのようにして討伐されたのかについては記述が曖昧であるため詳しいことは分かりません。

 しかし数百年たったある時、再び鬼が表舞台に現れます。

 この時のことはなぜか詳しい資料が残っていたそうです。上は鬼が約定のことを後世の子孫に残すため、丁寧に保護させたのではないかという見方をしています。

 すいません、話がそれましたね。

 この資料によると、鬼はこの時の当主に対して、「自分は当主の先祖と約束をしていること」「その約束とは、『子供を一人、自分の器として差し出すこと』であること」「自分は一度殺されたが、当主の血筋がある限り蘇ることができること」「自分が一度殺されたので約束が伝えられていないかもしれないが、すでに自分は蘇っており、まだ約束を果たされる義務があること」「当主の息子にもすでにこの呪いは移っていること」などを伝えると、どこかへ姿を隠した、とされています。

 その後、怒った当主によって再び鬼は討伐された、となっていますが、その前後の内容や紙や墨の質を調べた結果、その部分は後世に付け加えられたものであるとされているため、真相は分かりません。

 その後、鬼は数年から十数年程のサイクルで姿を見せるようになります。

 その間に討伐された、という記録がないため、少なくともその後の五百年程は鬼は生き続けていたと考えられています。

 その間の鬼の出現については、おおよそ先程出てきた当主の話と同じです。つまり、約束があるのでそのことを忘れずに守れ、ということですね。

 しかし、明治時代に入ると途端に出現したという記録が激減します。

 ですが、討伐されたわけではなく、単純に鬼のような、そういったものを信じる人が減ったため、だと考えられています。そのため、数は少ないですがはっきりとした目撃情報があります。しかし、その多くで鬼は人のふりをするようになっており、残されている会話から鬼ではないか、と推測されているにすぎません。

 しかし、そのどれにおいても、突然ふらりとやってきた男が、主人に対して「自分はお前の先祖と約束を交わしている。だからお前にはその約束を守る義務がある」と告げ、断るとその後その家に不幸が起きるという形になっています。

 家系図が残っているような家ではなかったため、これらの家が始まりの男の子孫なのかは定かではありませんが、その後、これらの資料が残されていた家の方たちは、決して近い関係ではないが確かに血縁関係があったとされています。

 これらのことから、鬼が器とできるのは、「始まりの男の子孫であること」「その家の第一子であること」「男性であること」といった条件があるのではないかと上は推測しているようです。

 また、これは最低限そうではないかと推測されているだけの条件ですので、さらに複数の条件がある可能性も否定できません。

 ちなみに、同時代に器の条件に合致する人間が複数存在していることもあったのですが、その中からどのようにして鬼が器となる人間を選んでいるのかは不明でした。

 鬼は、その後も繰り返して現れており、今現在に至るまで討伐されたという報告はないため、今もどこかに存在している可能性は高いとのです。

 そのため、上はこの時代における器の人間を探し出そうとし、その調査の結果、あなた方の管轄であるここに器となる可能性を持つ人間がいるのではないか、ということが分かったのです。

 しかし、どの人物が器候補であるのかは不明です。そのため、上はあなた方の協力の下で器であると思われる人間を見つけ出し、場合によっては処理することを私に命じました。

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