1 日陰をひなたに ②生き苦しい少女達
「……
幼かったあの日、
真っ直ぐ教室を目指せば辛うじて、走らずとも間に合う時間である事を脳内で軽く勘定して、逗雅は速足で校舎内を進む。
逗雅の通う県立
1年実業科3組の
「……
今
「お、何よズマ?! 今日はご同伴じゃなく?!」
教室後方で他の男子生徒同様突っ立って採るべき振る舞いを案じていた逗雅の肩に腕を回して来たのは、
「……何だよ『同伴』って……。
毎度の事なので突っ込むのも
「またまたぁ~! 毎朝お揃いで登校して来て一緒に帰ってく、と云う此れだけの客観的証拠を前にして
「『客観的証拠』も何も、
「いやでも其れじゃ
「はいはい、もう止めとけー。朝イチからそう云うのはアカンだろ」
「
「まぁ、確かに……じゃねぇわ!! 誰が好色一代男だ!? あと俺は
「別に『世之介』と迄は言ってねぇよ。そんで後半の分かり
俺も謎の
「ズア、おはよ」
と挨拶を発してきた。
「おぃっす。どうした? 朝っぱらから
「んー? ……うーん、いやぁ……誰しも生きていれば
「お……? 何でまたそんな達観した老人みたいな事を……」
「……まぁ、皆色々有るよね、って事よ……」
葵亜が詳細に言及する前にチャイムが鳴り、同時に担任教師が入室して来た為、半強制的に集いは散開、葵亜との会話も
切っ掛けは、
「余りにも曜子がどんよりしてるから、声を掛けざるを得なかったのよ。女子全員、何か自然と集まっちゃって。其れ位、何か切迫してる感じが有ったんだよね」
自然発生的に始まった集いで、曜子は背負いきれない程の
「曜子ってさ、実家がひなた通り商店街で喫茶店遣ってるのよ。ほら、『ひなた通り商店街』ってあの……
曜子の悩みは、同級の女子高生がどうにか出来る類のものではなかったが、それでも独り抱え込んでいた心情を吐き出す事が出来て、
「曜子がね、『解決策が見付からなくても、話を聞いて呉れただけで気持ちが楽に為った』って言うからね、何だか其の後悩み打ち明け大会みたいに為っちゃって……」
結果、あの
「でね、わたしなんてそんな、皆みたいに大した悩みなんて無いのよ。だから、悩みの無いわたしが、出来るだけ皆の悩みを解決出来れば……って言うと
「……でも其れはさ、場合に
逗雅は今朝、母親を筆頭に家族全員が寝坊した為、用意されていなかった弁当の代わりに引っ掴んで来た市販の
「分かってるよそんな事。でも、わたしは皆の悩みを聞いちゃった以上、何もしないで
幼い頃に越して来た分譲地の隣同士で、小中高と一緒に過ごし、今朝の様な
「……ま、お前ならそう言うと思ったよ」
放課後、逗雅は葵亜と共に曜子の実家の在るひなた通り商店街に向かっていた。逗雅達の通う高校から商店街は比較的近いのだが、隣町である東西南市に居住する彼等に取っては、自宅とは逆方向へと進行する事に為る。
交通を妨げない様に留意しつつ、葵亜は時折曜子と併進して話し乍ら自転車を走らせる。そんな二人から気持ち距離を置き追走する逗雅は、帰路の概算を弾き出しつつ、ほんの少しだけうんざりし始めていた。
「此れは……一寸した
距離もそうだが、東西南市に住んでいると、西南総合高校を
だが、逗雅の
何せ逗雅は葵亜の両親から、仕事で家を空けがちな自分達に代わって葵亜の目付け役を仰せ付かっているのだ。其の役職に基づいて考えると、こんなプチ
「お疲れ様ですぅ、着きましたぁ」
不意に曜子がそう声を上げた。
「此処が、私の家が在る『ひなた通り商店街』ですぅ」
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