売買のヒント その⑥ ダウと為替

「さて問題です、日本は輸入国でしょうか、輸出国でしょうか?」


 スマートフォンを弄る手を止めて、唐突に質問を繰り出した彼をちらりと見やるとにやにやとこちらの反応を待ち構えている。軽い苛立ちを覚えたが、興味のない素振りをしながらも少し思案してみる。日本は食料の殆どを輸入に頼っているって、学生時代に習ったような…なんだかそれでは安直すぎる気もするが、直感では輸入国としか出てこない。


「…ゆ、輸入国…?」


「ハズレ、輸出国でした。日本は資源に乏しい国だから車や精密機器などを海外に輸出してるんだよ。たとえばTOYOTAだね。だから円安になると株高になりやすいし、円高になると株安になりやすいと言われているよ。」


「…理解できぬ。そもそも、円高とか円安とか意味わかんない。」


「ドル高なら円安で、ドル安なら円高。え、簡単じゃん。」


「わからんわっ!」


 混乱し頭を抱える私に、彼はやれやれと肩をすくめる。人を混乱に陥らせておきながら自分は悠々と次のビールを自分のコップについでいる。円高ドル安、円が高いとドルが安い、ドル高円安…ドルが高いと円が安い…私の脳内でソレは理解不能なまま反響し続ける。


「…まあいいや、そういや今ダウいくら?画面出して。」


 最近彼はそう訊いてくることが多い。きっとこれも何かのヒントだ。とりあえず言われるままに主要指標の画面を見せる。先物もナントカ、みたいなことも言っていたがそれは聞き取れない独り言だった。


 それから私は彼のヒントを頼りにダウの動きを追ってみることにした。すると面白いことにすぐにダウの値動きと日経平均株価が連動していることに気づいた。ダウ…アメリカの株式市場は日本の夜23時半頃から朝方の6時まで動いているようなのだが、ダウ大幅に上下した日、日本の株式市場はその動きを引き継ぐかのような激しい動きを見せることがあった。


 そんな中で、日本株式市場は外国人だらけだという記事をちらほら見かけた。個人のブログやちゃんとした記事なのか覚えていないがどうやら8割近くは外国人がこの日本の株式市場を占めているということだった。という事はドル高の時は外国勢に買われやすく、円高の時は売られやすいという現象が起こる、という内容だった。ふむふむ、これだとなんだか納得である。


 ついでに日本の貿易について調べようと思ったが少し調べたところで退散した。ピヨピヨの私にとってはその深淵は深すぎだ。プラザ合意だ経常赤字だ黒字だ、すぐにお手上げとなった。そういえば高校時代の現代社会は「3」だったしね。

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