売買のヒント、その➀  長中期保有用

「そういえば小春、REIT(リート)、どうした?」


「…え、売った。」


 彼は絶句すると額に皺を寄せ、唸りながら長い溜息をついた。


「あー…なんで売っちゃかなあ。あれは分配金をもらうやつで、簡単に売買するものじゃないって…。」


 前回の超低株の事があってから、私は次は利益が出た場合はすかさずその利益を手にしようと目論んでいた。未だチャートの読み方も分からず、とにかく高い利回りと安い値段で買えるかどうか、どうしてもそればかりに気を取られがちだった。個別銘柄に関してはとりあえずの自己資本比率と大株主のチェックも正直正しいのかよくわからないままだ。


 ※自己資本比率…その会社の健全な経営性・安定性を図る目安や一つの指標になる。


 そのREITについては当時の価格としては1600円台であり、投資信託という形をとっていたので一口(1600円)からの売買が可能だ。私は12口ほど保有しており、百円ほど上昇した所で颯爽と売り払ってしまっていたのだ。12枚×100円、NISA枠ということで非課税。利益はそっくり1200円。購入するときに信託報酬は込みらしい。こうしてまたよくわからないまま、彼の唖然とする理由にもさっぱりな私はほくほくと、微増したNISAの口座の画面を眺めていた。


 ※数え方… ◇株⇒一株、100株=一単元

       ◇投資信託⇒一口


 しかしそれからしばらくして、地を這っていたその売却済のREITのチャートは出来高が増え、更にぐんぐんと値が吊り上がっていった。「あーあ、とうとう発見されたかあ」彼はそんなことを言いながら、悔しがる私にチャートの映し出されたスマートフォンを手渡す。あれからまた100円も上昇している。よく聞く「売ったら上がる」この現象はとても悔しい。私は子供のように地団太を踏んだ。


 上がり続ける数字に日々気分を悪くした私は、「基本的に売却したものは追わない」という初めてのマイルールを心に誓うことになる。


 ちなみに現在では、そのREITは2200円を超えている。チャートも恐ろしい傾斜を描いて上昇している。最早指を咥えて見ているしかない。1800円台に到達した時には少しは下げるだろうと思っていたが、あれよあれよと2000円を突破してあの数字だ。日経が連日下げた日ですら上げていた、恐ろしい子だ。


 そしてあとから知ることになったのだが彼も同じ銘柄を当時の価格で800万円分ほど保有していた。利回りは4%ほど。あれからかなり高騰しているので今頃それはいくらになっているのだろうか。恐ろしくて訊けていない。


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