パートナーは資産です。

 ここのところ私は、ネットで株コラムや彼を理解しようと個人投資家に関する記事を読むことが多くなっていた。そこで見つけたのがその記事だった。「男を金持ちにする妻、落とす妻」そのような見出しだったと思う。


 ふむふむ、サラリーマンの生涯賃金を二億とした場合、「夫という人的財産」の健康を失うという事は実は億単位の損失…。なるほど納得。資産運用の考えで夫の健康管理をする…。なるほどなるほど。夫をないがしろにする妻タイプは夫という資産価値を落としかねない…やばい、私ヒロさん大切にしなきゃだわ。まだ結婚してないけど。


 私はすぐさまそのページをブックマークし、そのページ関連の資産運用や投資関連の記事を漁った。ヒロさんが時々送り付けてくる経済新聞の一面なんかより、よっぽどネットのコラムの方が頭に入る。今まで読むことのなかった、というか読めなかったような内容がするすると頭に入ってくる。


むしろなぜ今までこんな考え方をできなかったのかと過去の自分を恨んだ。ある程度生きてきて、世の中を少しくらい知っているふりをしていたが、実のところ全く分かっていなかったんだと最近つくづく思う。世界が私の知らないところでそんな風に動いていたなんて。


 私はずっと無知であったが、自分で言うのもなんだが割と素直だと思う。素直過ぎて他人の意見を鵜呑みにし、疑問も持たないからかなり損もしてきたが、やっとそれが彼のおかげで生きてきた気がする。知らないことを知るのは楽しかった。


 特に普段から参加している経済活動がこんなに奥深く、世界としっかりと繋がっているのが驚きだった。お金という今まで「自分にとって災いをもたらす」と思っていたモノが単に便利な道具と認識できたとき、やっと今まで担いでいた何かから解放されたように心が軽くなった。


 そんな中、オンライン婚活を成功に向かわせている高校の同級生からまたランチのお誘いが来た。もちろん女子のランチといえば彼氏の愚痴と恋愛の進行状況の報告が定番だ。さて、あの年上の彼氏とはどうなったことやら。


 もちろん冒頭から彼への不満が始まった、けれど…よく聞くとその相手は海外で発表だか講演をする身分の方のようだ。彼女の彼への愚痴よりそこかなりが引っかかった。きけばその発表は全て英語で行うようだ…ん?おい、あなたの彼氏、普通にスゴイ人なんじゃ…そういえばその業界では割と名の知れた人ってこの前いってたよね?


 でもね、かっこよくない、旅行も割り勘、痩せてくれない、同じような業種だから教えて欲しいけど、途中で匙投げて教えてくれない、基本的に気がまわらない、そんな不満が彼女の口からぽんぽん出てくる。


 おい、まてまて。その人凄い人だと思うってば。私はその業界については全く無知だけど、海外に何かしら発表に行くって普通の人じゃないよ!あなたわかってる?


 私はさっそく数日前にブックマークしたページを起こし、彼女に「嫁になるなら必読!」と最後まで読み上げることを強制した。知夏ちなつ、わかってくれ、これはお前の幸せの為でもあるのだ。たぶん。きっと。そうだと思うの!


 読み終えた知夏はちょっと納得いきませんという雰囲気を口元に漂わせながら私にスマートフォンを返却した。会話に夢中になり口をつけなくなって久しいパンケーキが、私たちの間で萎びている。


 私はちょっと言い方を思案してからそれを言葉にした。

「もしかしたらだけど、知識のレベルがあまりに違うから教えようもないんじゃないかな?本当に学びたいならまずは自分で勉強して、わからない所をきけば?私もそうやって教えてもらってるよ。それに彼氏の事いろいろ言うけどさ、多分その人あなたが思っているよりずっと凄い人だと思う。もっと大切にしたほうがいいんじゃないかな。」


 あれ?なんか聞いたことあるぞ。___そうか目の前にいるのは過去の私だ。人に言われたこと、そっくりそのまま口から出るなんて。あの日私の話を辛抱強く聴いてくれた人ってこんな気持ちだったのかなあ。


 知夏は口を尖らせてソフトドリンクのストローを噛んでしばらく考え込んでいたが、そうかもね、と小さく呟いて息を吐いた。兎にも角にも、結婚の話は進んでいるようである。

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