譲歩と回想

「おい、オジサン。」

「なに、おばさん。」


 よくある私たちの会話だ。ていうか、一回り歳下なんだからもっと『レディ』として扱いなさいよ、れでぃとして。


「世間的には小春もおばさんじゃん…ててて!髪の毛はやめて~!」

 余計な雑音が聞こえたのでちょっと髪の毛をひん剥いてやった。今までで一番効果ありのお仕置きだな。心配そうに頭をさする彼にきつい一瞥をくれると、もと見ていたテレビに目を向ける。あ…何を伝えようとしたんだっけ、忘れちゃった。


「ほんとにアンタみたいな凶暴なオンナ…って…いていて!いや~本当にやめてぇ~!」

 え、もちろん‘‘オカワリ‘‘の合図だったんでしょ?ぎりぎりと彼の頭皮に再度ダメージを与える。一応これ、はたから見たらかなりヤバい光景だ。でもだって、欲しがるんだもん。やっぱりマゾヒストよね。


「…最近あなたのストレスで抜け毛がひどいんだかっ…!っ」

 頭に手を伸ばそうとする私から飛びのいて防御の姿勢をする彼に、思わず笑いが漏れる。なにこれコントじゃん。


 水面下婚活失敗ののち、私たちの関係はまた安定期に入った。私は色々と検討した結果、ようやく彼を【本命の彼氏】として認めたのだ。ここからは婚活をしている方や婚活で精神を擦り切れさせている方への私的なアドバイスになるが、消去法は強いようだ、ということだ。


 私の周りもそうであったが、婚活をしているのに実際は運命の人や一目ぼれを探している女性の多いこと。初めっから妥協しろなんて酷なことは言わないが思い出して欲しい。若い頃の恋愛だって、「まあ付き合ってもいいかな」で恋愛が始まることも多かったと思う。そして時間をかけてそれが結婚に至ったり、そうでなかったりしていたように思う。


 なのにどうしてだ。年齢を重ねるにしたがって結婚したいけど好きな人じゃないと嫌だ!といっても、付き合いながら好きになるための時間がないからなのか、初めから好きな人!となる。だが男女ともに一目で恋に落ちて両想いって、そもそもすごく難しくないか?しかも選べる牌が減っている状態だ。


 人によっては性格や見た目や年収や色々とこだわりがあるが、ある程度揃っているのならあとは気持ちを温めればいい。愛は消えることもあるが、温めることも、育てることも可能じゃないのかな。だから飛び込んで、まずは相手の事を知ってみようよ。


 実は私は年齢は妥協した。いや年齢どころじゃないがそれは伏せるとする。しかし慣れてくると、いつまでも歳下として甘えていられるのはメリットかな。(この歳になると若い男のコは可愛いと魅力的に見えてしまうのは内緒)


 好きな人と結婚したい、もちろん子供も欲しい、女性としてごく当たり前だと思う。だがある程度年齢を超えてくるとその願いは自らを苦しめる。しかし動かなければ女としての価値がひたすら下落していく焦燥感にさいなまれる。


 実際婚活市場は厳しかった。(結婚相談所であなたの年齢では年下は無理だ、選ばれない、と相談員にきつい言葉をいわれ落ち込んでいた歳上の友人もいた。)そしてなりふりかまわず行動して、男女ともに傷つくことも多いだろう。


 恋愛がうまくいった男女は既に結婚しているという事は必然的に恋愛敗者か、奥手下手か多少なりとも変わり者が残っていることは否めない。もちろん私もそこに含まれる。ここにはあまり書くことはなかったが、彼と出会う前はほとほと疲れ果てて婚活や出会いを休んで引きこもったことがある。


 だけどここで思考停止したら、数年後の自分になぜあの時に諦めたの?まだ若かったじゃないか!そう怒られる姿を想像して自分を奮い立たせてよかったと思う。私の場合、色々と幸運もあったが、行動した結果も大いにあるんじゃないかと思う。


 私と彼の始まりは恋愛じゃなかったけれど、彼に私が歩み寄ることがなかったら始まらなかったわけで、結果色々な部分を見て、他の男性と比べることもできた結果、最終的に彼が残った。消去法というかトーナメント戦だったのかもしれないんだけど。


 何が言いたいかって言うと、正直よくわからなくなってきたのだけど、興味を持てる人、好いてくれる人がいるならすぐにスワイプせずにいい所を探してみるのはどうかなあ。表面だけで決めつけるのって本当に勿体ない。この人はこうだ、ああだ、なんて付き合ってみないとわからないし、結婚しないとわからないし。一緒にいることでお互い馴染んでくることもあるしさ。私もはじめは無理だったよ。


 こうでないといけない、男の人にはこうであって欲しい、苦しい苦しい、つらい、理解はできる。自分もそうであったから。


 彼氏がいる人にはわからないよ!と私から離れていった友人もいたが、私なりに幸せになって欲しくてできる範囲の事はしたんだけれどな。でもずうっとネガティブな言葉を受け入れるのに消耗してしまったんだ。言葉のごみ箱にされているのは辛かった。あなたの心を拒絶したわけではなかったんだ、自分の気持ちを切り替える時間が欲しかった。時間がほしいと言ったら離れていってしまったけれど、今でも幸せを願っているのは嘘じゃないんだよ。


 …ああ、またいつもの脱線だ。思考がすぐどっかに飛んでいく。


 ちなみに初めから彼に甘やかされて、すぐに結婚していたら今頃は離婚していたとも思う。きっと彼の事を尊敬することも、彼の仕事にちっとも理解を示すこともなく、彼のことを小ばかにしながら資産を食いつぶすようなことになっていたんではなかろうか。


 だからこれでよかったのだと思っている。彼と知り合ったばかりの頃の自分を思い出すと本当に恥ずかしすぎて発狂できる。


 あの頃は見えないところで日頃の彼へのうっ憤を晴らすために、彼の部屋にあるティッシュペーパーやシャンプーコンディショナー、彼の洗顔料洗髪料をわざと大量に使っていたことは未だに言えずにいる。反省しきりである。


(あ!最後は笑うとこね!)

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