実は婚活してました(番外編)
そのままである。
実は私は密かに婚活サイトに登録していた。最低な人生を変えるためにも並行して足掻いていた時代の遺物としてのツールは未だ稼働を続けていたのだ。ちなみに利用したことがある人はお分かりかと思うが、結構サイトやアプリによって登録している人の層が変わる。(一昔前は出会い系のイメージが強かったが)
まずは彼と縁ができる前の話に遡る。
ある大手婚活サイトで初めてデートした男性は私に激しくダメージを与え、しばらく自己肯定感の修復に時間を要したことがあった。あれは明らかにデートじゃない、面接だった。なぜ自分の将来の展望や、今までの男性遍歴を述べなければならないのだ…しかも嫌味っぽく「頭のいい子は…頭の悪い子は…」と問題解決への両者の姿勢の違いについて教師の立場から語っていたが、頭が悪い私でも、私に向けて遠回しに「あなたは頭が悪いお話の仕方をしますね」と言っていることだけはしっかり伝わっていた。
確かにあの頃の私は今に比べると頭は悪かった。初めて会った相手に緊張し、少しでも打ち解けねばとべらべらと余計な話をしていたのは否めない。皮肉に気づき少しばかりむっとしたが、接客業の長い私だ、うまく笑顔で乗り切った。
それにしても、遅刻してきたのは向こうで、先についた私は時間つぶしに駐車場近くの本屋で待っていたのに「ボク、もうカフェにいますんで」としばらく歩かないといけない場所のカフェを指定してきたときに違和感を感じたのは正解だったと思う。__普通だったら迎えに来てくれるか、その本屋の傍のカフェにしましょうって言わないのかなあ。なんか私が遅刻したみたい。
落ち込みそうな気を取り直し、接客用の飛び切りの笑顔を張り付けてそれらしき人にスマートフォンを振って合図する。三十代後半の日に焼けた細身の男性だった。彼のテーブルにはすでに飲みかけで汗をかき始めたコーヒーと、開かれた銀色のノートパソコンが置かれている。
軽くお辞儀をし、席に着く。マッチングのお礼と名前などの会話を少し交わし、「私も自分の飲み物、買ってきますね」そう言って離れた場所にあるレジに並んだ。
__違和感が、すごい。マッチングアプリってこんなもの?
今まで感じたことない男性への違和感。これまで知り合ってきた男性は、肉体関係を持った後に多少冷たくはなっても、その前段階でないがしろにされたような感覚を持ったことは一度もない。その最終目的がセックスのみだったとしても、それなりのケアと優しさを与えてくれるのは当たり前だったし、それが心地よいとさえ感じていた。それなのに。
___私の価値ってこんなにも下がっているの?
冷たいコーヒーを受け取ると、もう一度しっかりと、お客様用の笑顔を張り付けて席へ戻った。この人の心が掴めない…ひたすら自分の事をべらべらと話す。男はずっと口数が少ない。焦りから、どんどん余計な情報を提供してしまう。
おもむろに男が切り出した話が、あの話だった。
___ああ、面接に落ちた___。
互いに用事があったので、キリのいいところで圧迫面接は終了した。
私はずっと前からカラカラになった喉を潤そうと、空になったコーヒーのストローを必死で啜っている。氷の解けたほんの少しの水分が、ますます唇の水分を奪っている。強い失望を感じた。
__会った時にLINEの連絡交換をしましょうって言ってたけど、これはないパターンだよね。
もう連絡の交換なんてする気も無かったが、念のため今日のお礼を伝えて踵を返そうとした時だった。
「連絡先、交換しましょうか。」
___え???合格した???うそ。
何が何だか分からないまま連絡先を交換し、ふわふわとした足取りで私たちは別れた。
帰宅後、早速お礼のメッセージを送信する。多分恋愛には発展しないだろうが、コンパ要員にでもなれば、お互いに出会いも増えるしね、向こうも同じ考えだろう。そう考えて眠りについた。
しかし。待てど暮らせど既読にならない。私がメッセージを送ってから既に18時間が経過していた。理解が追い付かなかった。なぜこの人はブロックするために連絡先を訊いたのだろう?心臓が、痛い。私は即座にブロック削除を行った。
婚活アプリに掲載されたその男の笑顔の写真が、ひどく憎かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます