懺悔と妥協と恋心
「ヒロさん、○○ヨシキさんって知ってる?」
私は恥ずかしげもなく他の男の名前を出す。
「知ってるも何も、飲み友の親友だよ。昨日も彼らと飲んでたよ。」
唐突な男の名前にも何の疑問も湧かないようだ。最近新調したタブレットをいじくりながらこっちに目をくべることもない。
___あーほんと狭い。正直なところ、あなたと繋がってなかったら鞍替えも考えたんだけどなあ。
「__そっか、実はわたし、その人と婚活アプリで知り合ってデートした。」
「へーそう…。ん?!__はい?!」
飛び上がった彼はやっとタブレットから目を離し、私に向き直る。キッチンカウンター越しに私は淡々と経緯を話した。彼の目を一切見ずに。
あれから私はヨシさんから手を引いていた。もし仮に付き合えたとしても、あまりにリスクが大きい。彼の優しく、小さなことに気付けるその性格が裏目に出た。その優しさを裏切っている罪悪感と些細な事に気づけるという事が、今後の彼とヒロさんとの付き合いにおいて最大の脅威だ。私の彼らを同時進行したという裏切り行為が露呈しないとも限らない。
ヒロさんは少し取り乱したがすぐに平静になるとひくついた笑みを浮かべながら
「でも俺の方が先に手を付けてたし」とかなんとか、強がりのようなことを言っている。
___少しは嫉妬したのかな。何となく安心した。それと同時にヨシさんにはとても悪いことをしたという気持ちで心が痛かった。そうきっと、私はただヒロさんにこっちを向いて欲しかったのかもしれない。いや、ヨシさんは本当にいい人だったんだけどね。ああ、惜しかった。…わたし最低かも。
「あいつと小春は絶対合わない、アンタの性格じゃあ振られるよ、なぜなら…」
「あいつは本当いいヤツだけど小春ときたら…」
「あいつの性格的にだな、小春はみたいなガサツな女は…」
いつの間にか、きいてもいないのに私とヨシさんがいかに合わないか、私がいかにメンドクサイ女か、私のお世話がどれだけ大変かという講演会が始まっている。
私は口元が緩みかけるのを隠すように、手に持っていたチューハイの缶を思い切りあおった。
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