いつの間にかついた知識

 20代半ばの男の子とのデートはさすがに肩身が狭い。まだ遊びたいであろう年齢に結婚を焦る私はお呼びではない。分かっている。単純に伸長が高くてカッコよさげな雰囲気の写真とその彼が「お気入り」を送ってくれたから。彼自身にも沢山のお気に入りが女性から送られているのを確認している。


 でもまあ、誘ってくれたのは彼だし。


 悪い気はしなかった。年下ではあったが私に気を使って雰囲気を和ませてくれ、食事のあと夜の海岸線を散歩したりと20代前半に置いてきたあの頃のような気持ちでデートができた。懐かしい思いと「普通の形式」のデートを楽しんだ。


 でもなんだか物足りない。最近では楽しめるようになってしまった株の話がうずうずとしている。たぶん今後も私は投資はやめないし、これからも勉強がしたい。むしろ私より付き合う相手にはお金の知識はあってほしい。ここは彼に理解があるのかそれとなく訊ねてみよう。


「__ねえ、最近は仮想通貨とか株とか投資とか流行ってるじゃん?」

 思わずストレートにきいてしまった。一瞬目を泳がせた私は引きつった笑顔を彼に向けた。やってしまった。開口一番仮想通貨は怪しすぎるだろう、思わず腕組みをするふりをして、自分の二の腕を見えないようにつねった。


「え?…あー、オレ仮想通貨やってたよ。」

 答えは意外なものだった。どうやら失敗してやめてしまったらしいが、まだ投資への興味はあるようで、私の「投資家の友達に株を習っている」というストーリーを身を乗り出しキラキラした瞳でじっと傍聴してくれていた。


 言ってみるもんだなあ。私は妙に安堵して、それからすぐにこの先どうしようかと考えていた。そしてすぐに帰りたいという気持ちになり、彼には悪いが少しドライブをして帰途についた。


 シャワーを浴び、寝る準備を済ましてベットに倒れこむと数時間ぶりにスマートフォンを覗き込む。新着は何もなかった。


 鼻をならしソファーへスマートフォンを放り投げる。暗闇を無機質に照らしていた光は、それからしばらくして消えた。

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