浮気宣言、宣誓。
「今後、結婚を考えてくれないなら、私婚活するから。」
腕組みし、顔をそむけいかにも不機嫌ですという態度で彼に脅しをかける。
「今の君とははっきり言って無理だよ、こんなにひどいとは想像もしてなかったし。それに僕以外の若い男がいいっていうなら引き止められないよ、僕は一回りも違うわけだしね。」
私たちは喧嘩のまっ最中だった。最近は自分のペースを乱されたくない彼と、寂しがりやと情緒不安定という甘えを隠せなくなった私が衝突する。昔から男の人の愛情を試す悪い癖があるのを、私は頭では分かっている。そのせいで何人もの男性が私から去っているのも。この人もいつまで耐えられるのだろう。それとも私の為にどこまで自分を殺してくれるのか。
『はじめまして小春です、メッセージありがとうございます!』
半ば投げやりな婚活が始まった。私たちは別れたわけではなかったが、私にとって彼は投資を教えてくれるキープ物件に変わった。彼の態度が今までと特に変わり映えしないのが、私には腹立たしくもあり少しばかり悲しくもあったのが正直なところだ。
婚活と銘打ったマッチングサービス内では、かなり年下の男の子から愛人もしくは介護者を所望しているのかとも思えるご老体まで様々な男性からお気に入りを受信した。私の少しすり減った女としての自信が、ゆっくりと取り戻されるのが分かる。
『お仕事は何をされているんですか?』
ヒロさんなんかより若くていい男は他にもたくさんいんるんだよ!
私の為に必死にならないなんて本当はそんなに私の事好いてるってわけでもないんでしょ。
『住んでいるとこ、近いですね!』
投資を知っている以外、大した魅力なんかないんだよ。実際好きって感情、私にそこまではないし。私の方がヒロさんを好きとか嫌だし恥ずかしいし。
『うわ、懐かしい!行ったことあります、そこ!』
生まれ育った場所もちがうし。価値観も違うし。年齢も違うし。
『いいですよ、ランチ行きましょう。』
私にはもっと合う人がいるんだ。今は目的があって、ちょっと妥協してるだけ。ちゃんと段階を踏んでお互いを知って、それからゆっくり恋を温めたい。
とはいえ婚活という市場は非常にシビアだ。お互いの条件が見える分、条件と顔面がいい異性はさっさと売れていく。特に私の狙う28~33の適齢期男性は少ない。その年齢の男性はとっくに将来のパートナーを手に入れているか、その相手と現在進行中だからだ。結構年の離れた「お姉さんと遊びたい」男の子か「子供のほしい」一回り以上年上の男性からのお気に入り通知が増えていくばかりだった。
そして私くらいの年齢になるともう失敗したくない、傷つきたくないという思いからますます頑なになる。年齢に比例するように自分の希望や理想に固執しがちだ。それはよく世間に咎められることだが、実情は「自分を守る盾」なのだ。世間の風あたりは独身には辛辣だ。だがもう純粋に好きな人と結ばれないのであれば、既に心を妥協したなかでさらに条件にも妥協するなんてとてもじゃないが、悲しすぎる。
彼を裏切る行動に心は少し痛んだが、私は条件のあった何人かの男性とやり取りを交わし、デートの約束に漕ぎつけた。
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