話のあう男と自社株

 その後も何人かの男性とやり取りをし、デートをした。もちろん彼氏はいない、という体で。話が合う合わない以前にやはり「条件」に惹かれる人がいない。別に年収2千万とかそういったものではない。私の住んでいる地方ではそんな年収の人に出会えるほうが稀だ。全くもって、期待してはいない。今までお付き合いしてきた男性も学歴や収入差別をするわけではないが、人よりずば抜けているような人は一人もいなかった。


 男性経験は少ない方ではないが、大卒の人とお付き合いしたことが不思議となかった。焦った私はなんとなしに弟に友達を紹介しろというと五個下の弟の友人らは公務員だったり、一部上場企業だったり業界大手だったり、今までプライベートで知り合ったことのない人種だった。どういうことだ。初めから国立大卒の弟に頼めばよかったのではないか?初動を悔やんでも悔やみきれない。何故かその話はいつの間にか掻き消え、その後叶うことはなかった。


 ***

 スマートフォンをにマッチングの通知が届いた。三十代前半、スポーツマン(バスケット・マラソン)地元大手企業。…身長175センチ。身長と彼の趣味のスポーツに目が留まった。バスケの試合だろう写真には、すらりとした体躯が映っている。私はしばらくやりとりをした後、彼とすぐに会ってみることにした。


 女性慣れしていなそうなその男性は照れ笑いを抑えきれないようにはにかみながら、私の目の前でビールをあおっている。えっと、大丈夫かな?緊張が移ったのか、なんとなく居心地が悪い。とりあえず彼の勤めている会社の話を振ってみる。印象は悪くない。仕事は誇りをもって取り組んでいるようだ。そういう何かに打ち込んでる人、結構好きなんだよね私。


「__そういやヨシさんの会社って株価、いくらだっけ?」

 一気に踏み込んでみる。実は既に株価と会社概要は検索済だ。地元で大手のあの会社員なら、私の期待を超えていくか?いや、超えてほしい。


「え?株?あ…えーと、あー今いくらだろう。」

 慌ててスマートフォンをいじりだす。

 __だいたい4千円ぐらいだよ、利回り2%、優待はクオカード。ていうか、あそこ結構な割高だよ。心の中でせっつく。もたもたとしながらも、彼は私の心の声にだいぶ周回遅れで答えた。


「ねえ、ヨシさん株とかしないの?」

 ひとつ前の返答である程度答えは出ていたが、私はさらに踏み込む。


「えっと、一応自社株は持ってる。いくらかは確認してないんだけど…。」

 少しほっとした。私は自社株は買ったことがないし、そのシステムはほとんど知らないが、自社株を持っているならすぐに理解は追い付くだろう。それにに少し惹かれた。彼の日に焼けた肌には、しっとりとした艶がある。


 そのあとも、趣味のスポーツと少しの株の話題でほろよいの時間は楽しく過ぎていく。今日もヒロさんからのメッセージは届かなかった。


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