軍資金と宿題

「小春、もしも日経平均が2万1千超えたらお祝い金をあげるよ。」

 仕事部屋から出てきた彼が冷蔵庫から出した炭酸水をコップに注ぎながらそう言った。どうやら仕事の調子が良いようだ。


「え!ください!勿論頂戴いたしますヒロト様、神様!」

 なに、現金をくれるだと?普段プレゼントらしきこともしないあのの彼が。ここは開口一番に答える。


「___正し、そのお祝い金は、投資に使う事。分かった?」

 炭酸水を飲み干すと、眼鏡の奥からクールな眼差しを向けて、やんやと浮かれる私にぴしゃりと言う。

「げ。まじ…。」

 落胆する私に一瞥いちべつをくれると、彼はさっさときびすを返し仕事部屋に引っ込んでしまった。

「え~…。」

 一人広いリビングに残された私は、肩を落とし不貞腐れた顔でおでこを掻きむしると、天井を仰いでソファーに倒れこんだ。


 その後、日経平均株価はやすやすと2万1千円を突破し、さらには2万2千円も軽々と通過してしまった。私は約束通り、「1万円」の軍資金を彼から手に入れることに成功したのだ。こうして私の軍資金はまた少しだが追加された。


「何買うの?」

「ん、まだ決めてない…。」

 口を尖らせてそっぽを向く。


「何を買ったかはちゃんと報告すること、わかった?」

「……ちぇ。」

 恨めしい顔で睨みつける私をよそに、彼は涼しい顔でお菓子を美味そうに摘まんでいる。


 本当にマイペースなんだから…。というかこんなお付き合い、今の今まで経験したことないんだけど!女のわたし を喜ばせる行動をたまにはしなさいよ!そう腹の中で毒付くと、隣に座った彼の腕に軽くパンチを喰らわせる。


「うわ、なになに、小春さん怖い。」

 途端に怯えた目をして身を引く彼をきっと睨みつけると、苛立つ視線を伏せて茶を口に含む。そういう、男なのにすぐところ、何かいつも凄いムカつく!


 不機嫌な私を一生懸命になだめすかす彼を傍に、しばらく口を真一文字にして籠城戦ろうじょうせんを決め込んだ私だった。

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