お金の教育。
「…ってことが、むっかしにあってさあ。もう本当、さんざんだったよ。」
そう悪態をつきながら私は空になったチューハイの缶をテーブルに置いた。コツンと軽い音が響く。
「__お金を貸すなんて、僕は絶対しないね。例え千円でも無理だよ、その瞬間に縁を切るよ。」
彼は渋い顔をしながら隣でコップのビールをちびちびと啜っている。
「私、過去に家族にも百万円くらいお金を援助してたし、仕送りもしていたし、お金を貸すことに抵抗がなかったというか、その人も可哀そうだなって思ってさ、友達には貸した人も悪いって相当叱られたんだよね。さすがにもう同じことはないけど。そもそも人に貸す金すら、もう手元に無いよ。というか、現在進行形で自分が銀行に借金してるし。」
口を尖らして自己擁護する私に間髪入れず彼のツッコミがくる。
「もーそんなもんさっさと返しなさいよ、金利13%なんて暴利だよ、アナタわかってるの?それあり得ない数字だよ?ほぼ上限一杯じゃないか、酷いな。」
「でも月に三千円ずつ返せばいいし!」
咄嗟に反論するが、多分的を射た答えでないことは何となくわかる。彼は呆れた顔で何かを言いかけ止めると、こう小さな声で漏らした。
「___まあでも、小春はお金で苦労してきたから、お金のない人の苦しみが分かっちゃうのかなぁ。仕方ないか。」
借金に追われていた実家、学費や養育費・生活費で火の車の家計。子供が大きくなれば働き、家を助けてくれる、長子が成人すれば妹弟の進学の援助をするのは当たり前。そういう風に育った両親。
父は希望していた県外の進路を、実家の金銭事情により諦めたことを50歳を超えても私たちにこぼしていた。実際には父の姉が援助し県内の大学には進学はしているのだが、どうやら留学もしたかったようだ。
母も学生時代は先に成人した兄や姉に金銭的サポートを受けていたらしい。兄妹、家族で金銭的に助け合う支えあう。その考えが浸透しているためか、【お金は貸すな】という教育は、今思えばなされていなかったように思う。
現に私は成人してから数年は当たり前のように仕送りし、妹の大学の学費をまるまる一年分支払った過去がある。『困っている誰かの為に支払う』ことにほとんど抵抗がなかったのだ。
…私の心はチクリと痛んだ。
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