戻らない金と授業料
「小春!本当にごめんなさい!私を許して!」
わっと新山は私の足元に泣き崩れた。おいおいと嗚咽とともに肩を震わせるその様子は、到底演技には見えない。…一回目と同じである。最早ここまで!と、刺殺される!と思っていた私は相当面食らった。
「新山さん、顔を上げてください。大丈夫ですって。」
だが、本心と裏腹なことを口走った私の全身は総毛羽だっていた。吐き気にも似た感情を押さえ、よよよと泣きつく彼女を、なだめすかすしかなす術がなかった。
「小春、本当にお金返そうと思ったの、ごめんさい。今日は旦那に連れてきてもらってさ…。」
「いいですって、そんなことより、そろそろ友人が来るんで…。」
「ごめんなさい、ごめんなさい……。」
部屋に入れるのは断固拒否だ。とりあえずここは退散してもらわねば。
「__落ち着きました?お金、ゆっくりで大丈夫ですよ、信じてますから。」
そう言いながら、背中の背骨のあたりが尚一層、ぞわぞわとした。
新山が帰った後に、早速相談役の優美に連絡する。
「塩でも撒いておけ」それが優美のベストアンサーであった。
その後、新山が連絡をくれることも、お金が戻ってくることもなかったのは想像の範囲内だったが、もう殺される恐怖に怯える心配のないことだけが唯一の救いだった。
だがその替りに「嘘をつくときは鳥肌が止まらない」というただでさえ嘘が下手な私にとっては不利な副作用と、「スピリチュアルなことを口走る人を信じてはいけない」という爪痕を私のナイーヴな心に残して彼女は私の人生から消えた。
15万という金と、甚大な精神的摩耗被害を経て、「金は貸さない」「付き合う人を選ぶ」という人生において初期に学習しなければならない事を、私はようやく学んだわけだ。
正しく言えば五千円は返してもらったので、14万5000円分の授業料を払わされた一大人生イベントだった。(マジ返せ。
今でもたまに思い出すと腹の立つ出来事である。
その後その女は他の人達にもスピリチュアルな迷惑をかけ離婚したとかしないとかを風の噂できいた。読書の好きな彼女に発見されまた狙われないか、一抹の不安がないわけではない。
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