スピリチュアルは最も良くない処方箋

 私の話を静かに聞いていた友人の優美ゆみは、呆れたような怒ったような表情のまま、きつい視線を私に向けた。


「小春、それって詐欺の手法だよ、おかしいよ。なんでお金、貸しちゃったの?私なら絶対貸さない!」


「だって困ってるっていうし、必ず返すって簡易的だけど借用書も書いてもらったし・・・」


「でも、七万借りたあとに追加で八万でしょ?合計15万円だよ?詐欺師は一回目は少額、それからだんだん回数と金額を大きくしていくんだよ?いきなり何十万も貸してっていっても貸さないでしょ?そういうテクニックだよ!」


「でも信じたいし・・・」


「信じるも何も、長年会ってなかった人がお金を貸してなんて言いに来るってことは、その人はすでに周りの誰からも借りれなくなっている状態だよ!初めから小春にお金借りようと企んでたんだよ!」


「言われてみれば・・・そうかもね」


 私はお金を貸した年上女性の新山の扱いにとてもに手を焼いていた。実は彼女は鬱病を患っているとかで、薬を常用していた影響もあってか、情緒が非常に不安定だったのだ。


 それでも彼女の体調が良い日には一緒に連れだってパワースポットに赴いたり占いに行ったり、なぜか私たち二人はスピリチュアルなことにハマっていった。確かに見えない世界のことに触れることは五感が研ぎ澄まされ、自分がになったような気がしてくる。


 ある日、目を輝かせながら彼女は私にこういった。

「実は、ある霊能者の方に、って言われたの!」


 ___私は嫌な予感がした。


 ビジョンが見える、声が聞こえる。そう彼女が言い出し始めたのはそう遠くなかった。「霊能者」のように身近な人にアドバイスをしていると嬉々と報告してくる様は私には異様に見えた。「私のアドバイスを聞き入れた人は幸せになっている」___身の毛がよだった。


 それから深夜問わず、何十件ものLINEが来るようになった。私は切れ間のない着信音に眩暈と激しい動悸を覚えるようになった。


 大体の文面はこうだ。


「小春、どうしてお願いをきいてくれなかったの?」

「__こっちにも予定があって、タイミングが合えば、って言ったじゃないですか。そもそも約束なんてしてないし、いきなり車で迎えに来いなんて勝手過ぎますよ」

「ハア、嫌なエネルギーをあなたの文から感じる・・・苦しい。苦しいけどあなたを想って連絡しているの!私の事、かわいそうだと思わないわけ?」

「__可哀そうだと思ったからお金、貸したじゃないですか。筋が通ってないです。どうでもいいから、お金返してもらえます?」

「お前の負のエネルギーが!マイナスの波動が!!!あなたはエネルギーバンパイアでmdふltg:pslz;@、んljd。z;rごhじぇrg;d:pどlkべおいう94jg!!!!!!」


 その辺で、耐えられなくなった私はメッセージの鳴りやまないスマホを伏せ、浅く細かい呼吸を繰り返し苦しい動悸をこらえるしかなかった。


 彼女は異常だ。

 彼女をおかしくしたのは霊能者に違いない。きっと私が貸したお金の一部もそこにつぎ込んでいるのだろう。精神的に弱った人に、その人が傾倒している霊能者が「あなたにも同じ力がある」なんて吹き込んだら周りの意見を一切聞かなるのは予想がつく。そこに妄想や幻聴が加われば、新たな霊能力者の出来上がりだ。


 私も精神的に参っているときは声のようなものが聞こえたり、誇大妄想はよくあった。スピリチュアルに入れ込んでいるときは変にそれをいい方向に解釈していたころもあったがそれが一気に醒めてしまった。


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