ミニマリスト、シンプリスト

 個人投資家の生態…いや「彼の生態」で気づいたことがさらにある。私からしたら信じられないほどに「綺麗好き」である。


 まだ付き合いたての頃に、酔った勢いで自分を株価に例えた場合はいくらになるのか彼に訊ねてみたことがある。


「アンタはね、ボラティリティーが高すぎて適正値がいくらか全然わかんないよ!!」


※ボラティリティ・・・価格変動のふり幅。ボラが高い、低い(変動が少ない)と表現される。


 彼が空中に大きなジグザグを描きそう言った姿がなんだか可笑しすぎて、私は腹を抱え涙が出るほど笑った。


 …おっといけない話を戻そう。そうそう彼はともすれば潔癖症ともいえるレベルに到達目前の男だ。私からしたらね。常に真っ白な彼の部屋は整頓され、台所が汚れる、と料理もしないものだからここまでくると本当に生活感がないし私には異常に思えた。


 でもそんな部屋に出入りしていると’’ある変化’’が私に起こった。


 自分の部屋に帰ると思考が散乱するのを感じる____なんだか脳が疲れるのだ。


 帰宅し玄関を開けると視界に飛び込む風景に圧痛のようなものを感じ、後にあたまがズーンと重くなる。


 理由はすぐに分かる。私の部屋の散らかりようだった。もともと物を捨てるのが苦手で小物を飾るのが好きな私の部屋はモノで溢れていた。そして色や柄。片づけられずに積まれた洗濯物。洗われていない食器。


 これが進行するとセルフネグレクトってやつになるのかな。


 お母さんも片づけができない人だった。


 いつだったか実家を掃除したときにいつ買ったのかわからない「ふえるわかめちゃん」があっちやこっちから大量に出てきて、ここの主食はわかめか!と驚愕したことがあったが私も大してかわらないな。


 それまでは限界まで汚れを放置し、やっとやれやれと腰を上げていたのだったがこの日は違った。目に見えるものを片っ端から片付け、置物を威勢よく捨てた。壁に掛けた柄物の布を外し、いつからあるかわからない冷蔵庫の食品を廃棄し、食器を洗い、いつも開けっ放しの戸棚をきっちり閉め、洗濯物を畳み、掃除機をかけ、雑巾で汚れた鏡を磨いた。


 ここまでくれば、やっと脳の落ち着く空間になる。一息ついた私はこの現象を調べてみることにした。


 ネットで検索をかけると、「脳は視界に入る情報を絶えず処理しているため物が多い部屋にいると脳が疲れる」という有益な情報を発見することができた。


 ___なるほどね。


 それからの私は掃除が好きだ。


 掃除は頭をクリアにしてくれる。あんなに掃除が苦手だった私が、次は何を捨てよう、どこを掃除しようと考えるほど。お掃除に関するサイトや整理整頓の情報を調べるのも好きだ。


 もちろんめんどくさがり屋の私は時々は怠けることもあるが、部屋は以前のように悲惨な状態になることは二度となくなったのだ。


 こうしてまた一つ、私に新しい習慣が出来ていった。










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