やめてッ!クーポン券使い過ぎッ!

 惜しげもなく。……惜しげもなく使う。


 しかし使うのはもっぱらクーポン券だ。惜しげもなくの豊かな響きの後半に、「クーポン券」を挿入するだけでなぜ、どうしてこんなにも貧相なセンテンスになるのだ!?


 __そう、某ファミレスチェーン店内で彼は惜しげもなくクーポン券を利用していた。もちろん一切動じることも、自らの行動を恥じることもなく嬉々として。


「ええ、じゃ、このクーポンの③番のほうれん草ソテー、⑦番のポテト。あ、ケチャップは多めで。それからこの雨の日半額みたいなの、今追加で使えますよね?あはい、それもお願いします。それとドリンクバー2つ。」


 ちょうど今しがた小雨が降ってきたのを、もちろん彼は見逃すことはない。ひとしきり注文を終え、くるりとこちらへ向き直ると


「あっ、今日は小春、五百円でいいよ。」


 __ってちゃっかり金とるんかい!ていうか注文中私むちゃくちゃ恥ずかしかったわ!勘弁してくれ!つか五百円ならおごれや!


 閉口している私を尻目に、いつものように食事を始めた。あぁ、恥ずかしいんだから、もうこれ以上クーポン使うなよ、使うなよ、使うなよ……。私は心の中で願った。すぐに覆されることは分かっていても、私は願いたかった。彼を信じたかったのよイザベル…!(誰


「あ、すいません!これ回数制限ないですよね?ええ、じゃ③番を追加で。」


 店員を呼び止めて、彼は終始ニコニコしながら店員にスマートフォンのクーポン画面を確認させている。


 __っやめろおおおぉ!あんた、億り人なんだろおおおおおおおおぉぉお!?


 声にならない声と、必死な眼差しでこれ以上の追加クーポンを止めるようにと懇願サインを出す。


「……そ、れ、と!…⑨番のコレ、お願いします。」


 その願いは叶うこと無く粉々に打ち砕かれ、灰になってどっかへ飛ばされた。


 またある日のことだった。若者に人気そうなお洒落な某カフェへ赴いた時のことだ。そのカフェはとても景色がよく、メニューも「ほうら、ウチの、インスタ映えしますでしょ?」と、言わんばかりの小洒落たメニュー表にちょっと澄ましたお値段がついていた。


 早速メニュー表をひらいて納得のいかない顔をする彼。たまには何も考えずに食事がしたい私。しばらくすると、渋々といった体で料理を選ぶ彼を見て私は少々ホッとした。


 今日はお行儀よく食事にありつけそうだ。さてはて。ああ、美味しいお料理楽しみだなあ。店員さんに注文を済まし、サービスのお水で喉を潤していると、異変が起きた。


 なにやらスマートフォンでコソコソと検索をする彼。嫌な予感がした。予感は一秒で的中する。


「見て!!ここのクーポン見つけた!」


 __おい!もう事後だよ、やめろよッッ!


 時既に遅し、私が咎める前に店員さんを捕まえてクーポンは使えるのかと訊ねている。店員さんの顔が一瞬曇ったようにも見えたが、快く了承してくれたようだった。


 ___まじで勘弁してくれ…。



 そんな彼の財布はもちろんポイントカードとクーポン券で溢れている。……非常に、非常に解せぬ。


(ちなみに今では一緒にクーポン探してる)

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