第14話

 私は、名前って特別なものだと思うんだよ。


 名前はその人を表すもの。

 その人唯一のものであってほしいと、思うのよ。

 その特別が、何十、何百っていたら、嫌だなって思う。


 だから、私がシオンと呼んだのは一人だけ。

 その後から世の中に沢山出てきたシオンは、私にとっては紛い物。

 特別を、盗まれたとすら思うくらいよ。


 綾香様もね、割とよくある名前だから。

 ふと、どこかで「あやか」って聞こえたら心がそわそわして、探しに行かずにはいられなかったくらい。


 姪に綾香って、名付けられた時に辛いな、と感じたのよ。

 親戚で集まってて、綾香って聞こえると無理やりにでも綾香様が思い起こされてしまう。

 別に、綾香様を思い出すのが嫌とか、そんな事はないけれど。

 ただ、綾香様への想いが有りすぎて、苦しくてしょうがなかった。

 だからさ、苦手だったんだよ。親戚として集まるの。


 次第にその事を考えていたくなくて、記憶も曖昧になってしまった。


 ただ、以前よりも今は……綾香って聞いても、受け入れられる気がする。

 そう、今後は、ちゃんと、覚えていようと思う。

 

 親戚から逃げ続けるのも、どうかと思うしね。

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