第12話
私は一人になった。
見えていた人達も、聞こえていた声も、失っていた。
それが病気だと言われたら、それまでなんだけれど、私は時々声を聞きたくなる。
また、話しかけてほしいと思う。
私が心を寄せる存在は、誰も傍にいない。
私が諦めてしまったから?
求められる存在になりえなかったから?
それとも、別の理由か。
私は、ただ惰性で生きる為に仕事をする日々を送っていた。
そうしていると、ストレスは溜まるのに、心は空虚になっていく。
空虚になる程、愛した人さえ愛が無くなっているのではないかと不安になった。
まさか、綾香様に対する愛すらなくなってしまったんだろうかと……
不安で心許なくなった私は、試合のチケットを買って初めてスポーツ観戦に行ったんだ。
綾香様の姿を見れば、自分の気持ちが分かると思った。
とても、ドキドキしたよ。
もし、綾香様を見ても何も思わなかったら。
愛がなくなっていたとすると、怖かった。
綾香様を助けた事を、後悔してしまうのではないかと怯えていた。
十数年想い続けた綾香様の姿を見たよ。
姿は、私の記憶より少し変わってた。
でも、ひと目で綾香様だと分かったよ。
綾香様を見ていると、まだ同級生だった頃の仕草が見れて、それがなにより綾香様らしくて……
『ああ、変わってない。綾香様は……。それに、私も』
嬉しさと同時に、安心感。
私はまだ、綾香様を愛しいと感じていた。
傍から見れば、涙を流しながら試合を観戦してるのが私だった。
綾香様が名残惜しくても、試合が終わる前に立ち去った。
万が一にも綾香様に会うのは避けたかったから。
こうやって見に来るのも、最初で最後かもしれない。
『綾香様は、平穏に、幸せそうだ。せめてそのまま生きていてほしい』
そうしてまた惰性で仕事をする日々。
ただ、綾香様を見れたこと。
愛情がまだあることを確信したことで、私はまだ頑張れた。
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