第10話

 なっつんと話さなくなり、シオンともクロともシグとも話せなくなっていた。

 そんな私は一人だ。信念の為に、誰も殺さない為に生きているだけの日々。

  

 私にはシグと出逢ってから、密かに夢があった。


 それは、私の好きになった者達を現実に広めたい、というもの。

 シグだけじゃない。キャラクターで好きになった人は何人もいるのよ。

 それに、シオンやクロのような人も。

 そんな人達と、一緒にいる世界。

 それを作りたかった。


 沢山の人達がシオン達を知れば、この世界に思念として彼、彼女らは存在出来るのかもしれない。


 だから、その方法として漫画家になりたかったの。


 高校を卒業する時、家族に漫画を描く技術を得る為に専門学校に行きたいと言ったのだけれど、叶わなかった。

 私からすると、的外れもいいところな反論で終わったよ。

 親に対して心の底から願った、初めてのお願いだったんだけれどもね。

 否定された時のショックは、思い出したくもないな。


 だから自分でお金を貯めて行こうとも思ったんだけれど、結局それも叶わなかったな。


 独学、自力で勉強する?

 それも私の寿命を考えると、目標地点に到達する前に終わるんだと思うと……

 生きる理由が、未練があると、死ぬ時に辛い。

 後悔。それが嫌で、やれないでいる私。


 でも、やらないでもしも生き残っていたら、それはそれで後悔するんだろう。

 

 人の寿命は全ての人が運命によって、もう決められている。

 私はそう思っているんだ。

 私は何人もの死ぬ人、死んだ人を夢に見てきたよ。


 ニュースで見たり、職場の人で見たり、親戚で見たり。私自身が見たもの。


 母の死んだ日は結構覚えてる。

 よく晴れた日だった。

 朝から私はそこに居て、その日母と話す事無く、荒い呼吸を聞くだけで、昼頃に母は亡くなった。

 その日はいつもより多くの人が病室に来て、看取ったんだ。

 色んな人が涙を流していて、でもそれを見ても私は一滴の涙も流れなかった。

 気付いてしまったから。


 私は、その光景をずっと前に見ていた。

 その日に発売された雑誌、居る場所、そこに居る人、その配置から、している行動も、その時窓から見た風のない青空、そこを飛んでいった鳥も。

 全部、私が以前に夢で見た光景そのままだったから。

 ああ、今日、こうやって母は死ぬ予定だったんだと。


 私は母親を憎んでなかったといえば嘘になる。

 でも、体を綺麗にして、死に化粧をした時には少し、涙が出た。

 憎んでばかりではなかったし、私も涙が出てホッと安堵したんだ。

 周りが泣いているのに、私だけ涙も出ない薄情者みたいで。

 でも、止めようと思っても中々止まらなくて、ちょっと苦しかった。


 『今日は、死ぬには良い日だ』


 風のない青々とした青空で。

 鳥が飛び立って行くくらいの、穏やかな日。


 火葬場に着いた時、私は清清しい気持ちでこう思った。


『貴女の事で、私はもう貴女への憎しみを増やすことはない。今までの憎しみ、恨みは私の中で埋葬しよう。貴女への感情は無にする。せめて今度この世に再び生まれる時は、もっと良い者として幸せになればいい』

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