第8話
中学を卒業してから成人式までの間、綾香様に会えなくて入った高校では虚ろな時間を過ごしていたよ。
勉強にも身は入らないし、自分の特異な能力にも苦しんでいたし、家庭も不仲。
教師には死人のような顔をしているとまで言われた。
それはそうだ。だって綾香様がいない。
綾香様に出逢って、凍った心も感情も解けてしまったんだ。
だから心をそのまま写したような顔をしていたんだろう。
でも、どうでもいい。綾香様がいないから、どうでもいい。
同じ中学から来た人達が私の事を広めていたから、高校でも何故か人気者だった。
何人かには告白も受けたよ。果ては結婚してくれと言ってきた者もいたよ。
でもそれは話題性だけ。誰一人、私を分かる人間なんていない。
私の事を分かっているのは、私と、私の半身シオンと、クロ。
結局私はその高校を留年するというので、教師と親に流されるまま、中退して別の半通信制の学校に入学した。
そして私はそこで、初めて本気で人を殺したいと思った。
私のたった一つあった宝物。
私の携帯電話の中にある、綾香様の映った写真。
一度だけ、他人が勝手に私の携帯で綾香様を撮ったもの。
携帯ごと盗まれた。
盗んだ奴を殺したいと思った。収まりきらない殺意と、湧き上がる怒りや憎しみ、それを抑えようとする声。
殺意が私に生きる活力を与えた。シグと約束した信念がある。だから殺せないまでも、憎しみをぶつけたかった。
恨みを抱いた私から、シオンは遠ざかった。
シオンのようになりたかった。私の理想。
でも、なれないと思ってしまった。
姿も声も、遠ざかる。
新しい携帯を手にした私は、失った宝物と殺意を思い起こして苦悩した。
気持ちが落ち着く頃に、新しい携帯を使って見知らぬ人とやり取りをするようになった。
そこで出逢ったのが、私のもう一人の大切な人。
最初はお互い名前も知らない間柄だった。
でも惹かれるのに、そんなに時間は掛からなかった。
だって私、その人と精神が繋がった。
その人の助けを求める心の声が聞こえたんだよ。
だから連絡をとった。
そうして、その人は私に「ありがとう」と言った。
私はその人を、なっつん。と呼ぶことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます